静かに育つ力と、告げられた新たな狩猟祭
掲示板やチャットで噂が広がってからというもの、俺の生活は一変してしまった。
街中を歩けば、必ず誰かに声をかけられる。
「動画見ました!」「フェアリードラゴン可愛いですね!」
挙げ句には「今からレイド行くんですけど、ご一緒に!」と誘われる始末だ。
だが俺は、相変わらずのんびり暮らしたかった。
少なくとも、自分から積極的にボスを狩りに行く気にはなれなかった。
***
そんなわけで、今日はまた森へ足を運んでいた。
すでに何度も歩いたルーシェの森も、こうしてのんびり散策するには最高の場所だ。
フェアリードラゴンは肩の上から枝の実をついばんだり、小さく飛び立って花の蜜を舐めたりしている。
「お前、ほんと自由だな……」
「キュー♪」
くるんと翼を回し、楽しそうに戻ってくる姿に思わず頬が緩む。
森を回るうちに、ちょっとした戦闘は避けられない。
草陰から飛び出してくる狼や猪を、フェアリードラゴンが一撃で黙らせるたびに、俺のレベルも自然と上がっていった。
以前は気付けば驚いていたが、今はもう当たり前のようになっている。
「……そろそろステータスを見ておくか」
俺はHUDを呼び出し、ステータス画面を開いた。
職業:サモナー(召喚士)
レベル:22
HP:450 MP:780
STR:42 VIT:51 DEX:66
INT:138 MND:120 AGI:58
所持スキル:
・召喚(Lv5)
・愛撫(Lv4)
・採取(Lv6)
・釣り(Lv4)
……正直、自分でも引くほど上がっていた。
特に知力と精神の伸びが異様だ。
召喚職はINTとMND依存とはいえ、他のプレイヤーと比較してどう考えても突出している。
「そりゃフェアリードラゴンの火力もおかしくなるわけだ……」
続いて、フェアリードラゴンのステータスも確認する。
種族:フェアリードラゴン(幼体)
レベル:18
HP:1380 MP:1800
STR:105 VIT:92 DEX:160
INT:260 MND:212 AGI:178
スキル:
・フェアリーブレス(Lv5)
・癒しの鱗粉(Lv3)
・小さな魔力障壁(Lv4)
「小さな」魔力障壁とか名前詐欺もいいところだ。
以前はそれこそ狼にかじられそうになったのを必死に守ってやったのに、今では逆に俺が守られている。
「……頼りにしてるぞ」
「キュッ!」
フェアリードラゴンは誇らしげに翼を広げ、小さな頭を俺の指に擦り付けた。
***
そのときだった。
唐突に、目の前にホログラムが展開される。
全プレイヤー共通のシステム通知だ。
イベント情報:
《第一回 狩猟祭》
期間:〇月〇日
内容:
期間中、討伐モンスター数に応じてランキングを集計!
上位入賞者には限定称号や希少装備が授与されます。
※レイドボス討伐は特別ポイント換算あり。
※召喚獣による討伐もプレイヤーの討伐数としてカウントされます。
詳細は公式フォーラムをご確認ください。
その瞬間、街は爆発したように沸き上がった。
「うおおおおマジか! 来週いきなり決戦とか熱すぎw」
「準備期間1週間だけって短すぎだろ。でもそれがいいんだよな~!」
「全員平等に準備できる日数ってことだよ。ガチ勢もライト勢も一斉に勝負じゃん!」
石畳の通りは、普段以上にざわついていた。
街の道具屋も武器屋も、いつもより活気に満ちている。
ポーションや食料を買い込むプレイヤーで列ができ、次の狩場の下見に行こうと仲間を呼び合う声が飛び交っていた。
***
だがそんな中でも――
どういうわけか、話題は必ず俺に集まった。
「なぁ……やっぱ狩猟祭、一番注目はあのサモナーだよな」
「肩に緑の小竜乗っけた人? グリードベア即死の?」
「そうそうw 動画伸びすぎてもう公式PVより再生回ってるらしいぞw」
「でもあの火力見たら絶対1位行くだろ。もはや運営からの接待みたいなもんじゃね?」
(……頼むから、そんなこと言わないでくれよ……)
石壁に寄りかかっていた俺は、思わず目を伏せた。
肩のリィはいつもと変わらず、尻尾を小さく振りながら俺の首に顔をすり寄せてくる。
この子には何も分かっていない。
自分がこの街中でどれだけ目立つ存在かなんて。
でも俺は――痛いほど分かっていた。
***
掲示板を開けば、当然そこも同じだった。
⸻
【冒険者掲示板 - 狩猟祭総合スレ】
「1週間後の狩猟祭、勝つのはどの職だ?」
「どうせ例のサモナーじゃね?w」
「つーかリィの火力バグレベルだし、あれが参加しなかったら逆に盛り下がるw」
「そりゃそう。ぶっちぎりで無双してくれた方がネタにもなるし」
「今から追跡動画回してるストリーマー多いぞ。狩猟祭当日はストリーム視聴者何人行くんだw」
⸻
他人事のように見える文章の数々。
だけどそこに出てくる“サモナー”は確実に俺のことだ。
“リィ”と言われるたびに、胸が少し痛む。
ゲームを始めた頃は、ただのんびり釣りをして、素材を拾って、リィと森を歩くだけで良かったのに。
いつの間にか、何百人何千人という人間が俺たちのことを話題にしている。
「……こんなの、笑えないよな……」
***
夕暮れの街で、人気の少ない裏道に入る。
小さな広場の縁石に腰かけ、肩のリィをそっと下ろして膝に乗せた。
「なぁ……俺さ、ただ釣りして暮らしたかっただけなんだよ」
「キュー?」
リィは首を傾げて、尻尾を俺の腕に絡ませる。
俺はその小さな頭を撫でた。
すると気持ちよさそうに目を細めて、柔らかい鱗を俺の指に擦り付けてくる。
「でも……これだけ周りに見られてたら……さすがに、みっともない真似はできないよな」
情けない姿を見せたくない。
それが見栄かもしれないことも分かっていた。
けどこれだけ騒がれた今、今さら無様にビビって森から逃げ出すなんてことは、もうできなかった。
「だから……頼むな、リィ」
「キュッ!」
リィは元気よく返事をし、小さく翼を広げた。
あと一週間。
それまでに、俺はできる限りの準備をするつもりだった。
たとえ戦うつもりはなくても――もう、注目される以上は簡単には負けられない。




