ネットが沸いた日 ──話題は一気に駆け巡る
街の大通りに入った途端、何だか視線を感じた。
アステルタウンはこのゲームの初期拠点だけあって、昼夜問わず多くのプレイヤーが行き交っている。
装備を揃えて次の狩場へ行く者、素材を売る者、仲間探しをする者、座り込んで演奏を始める者まで様々だ。
だけど今日は、何かが違った。
通りを歩くプレイヤーたちの視線が、ちらちらとこちらに向けられている。
それだけじゃない。
俺の肩にいるフェアリードラゴンを見つけると、あからさまに指を差して囁き合う声が聞こえてきた。
「……え?」
嫌な予感がした。
俺は慌てて街角にあるベンチに腰を下ろし、HUDを操作してチャット画面を開く。
──すると。
広場のローカルチャットはもちろん、街全体チャットでも、いや世界チャットですら《サモナー》《フェアリードラゴン》《グリードベア》の文字が躍っていた。
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【街チャット】
「見た? サモナーの動画」
「ワンパンてマジ? フェアリードラゴンってそんな火力出るの?」
「動画回ってるの確認したw グリードベアさん何もできず木に突っ込んで終わってて草」
「また運営のお問い合わせ増えるやつw」
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「……は……?」
全身から冷や汗が滲む。
慌てて掲示板アプリを起動し、冒険者掲示板を確認する。
CWOのこの掲示板はログイン状態ならいつでも閲覧できるシステムで、街中の大看板のように賑わっている。
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【冒険者掲示板 - トレンド】
1.【速報】サモナーがグリードベア瞬殺!?動画付き
2.【議論】サモナー強化入りました?フェアリードラゴンの仕様について
3.【検証】序盤でフェアリードラゴン捕まえられる確率
4.【ネタ】グリードベア「おれが何したっていうんだ」
5.【運営】緊急メンテの可能性あるか語ろうぜ
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「……いやいやいやいや……」
頭が真っ白になる。
恐る恐る1位のスレをタップすると、そこには見覚えのある光景が映し出されていた。
森の奥、俺のフェアリードラゴンが翼を広げ、眩いブレスを放つあの瞬間。
そして巨大なグリードベアが吹っ飛ばされ、木々を薙ぎ倒して沈むシーンが、何度も繰り返されている。
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【掲示板のレス】
「これマジ草。でかい熊がゴミみたいに吹っ飛ぶ」
「与ダメ表示一瞬映ってね? 2500オーバー? 序盤ボスでそれ出んの?w」
「いや普通にバランス崩壊じゃねーか」
「てかこのサモナーの肩のってる竜かわいすぎて草生える」
「癒し系無双www」
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他のスレでも同じ動画が貼られていて、さまざまなコメントが付いていた。
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【別スレ】
「動画だけじゃ分からんけど、これ不正じゃないの?」
「でもログ追ってくと普通にプレイしてんだよな。召喚獣育成狂ってるだけ説」
「召喚系って絆深めるとバグみたいにステ上がる仕様あるしな」
「運営これ想定内か?」
「この人のIDもう特定されてんじゃね?」
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「……勘弁してくれよ……」
俺は額に手を当て、呻いた。
***
フェアリードラゴンは俺の動揺をよそに、膝の上でころりと寝転び、尻尾をゆらゆらさせていた。
この子は何も悪くない。ただ俺を護ってくれただけだ。
でも、ゲームのシステムがそれを“規格外”にしてしまった。
結果、目立ちたくもなかった俺が、こうして掲示板の一面を飾る羽目になった。
「なぁ……俺はただのんびり暮らしたかっただけなんだよ」
「キュ?」
小竜はきょとんとした顔でこちらを見上げ、そっと俺の指先に頭を押し付けてきた。
その仕草があまりにも可愛くて、怒る気も失せる。
「……お前は悪くない。俺が変に浮かれて、森なんか長居するから……」
そう呟きながらも、頬が緩んでしまう。
***
その夜。
ログアウト後も、俺のスマホには通知が止まらなかった。
公式サイトに連動したフォーラムやSNSで、動画が次々に拡散されている。
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【公式フォーラムまとめ速報】
「【動画】サモナーの召喚獣がグリードベア即死させる瞬間www」
「運営まだノーコメント。メンテくるか?」
【SNSのトレンド】
#CWO
#フェアリードラゴン
#サモナー無双
#グリードベア可哀想
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中には画像をコラージュしたものや、グリードベアが吹っ飛ぶ瞬間に面白字幕をつけたネタ動画もあった。
「……もう完全におもちゃじゃねぇか……」
頭を抱える。
ただ釣りして森を楽しんで、癒しを求めていただけだったのに。
フェアリードラゴンが俺を護ろうとした結果、こうして一夜にしてネタにされ、同時に謎のヒーローのように扱われている。
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【SNSコメ】
「この人とPT組みたいw」
「フェアリードラゴンに撫でられたい人生だった」
「これが愛情育成の賜物かwww」
「次はどのボスをワンパンするんだ?」
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画面を見ながらため息をつく。
「……ほんと、のんびり暮らしたかっただけなのにな」
ベッドに寝転び、スマホを置く。
次第にまぶたが重くなり、深い眠りへと落ちていった。
***
次にログインしたとき。
アステルタウンの入り口には、まるでお祭り騒ぎのような人だかりができていた。
「ねぇあれじゃない? あの肩に可愛い竜のってる人!」
「え、マジ? 本物? 本物だったらSS撮らせて!」
フェアリードラゴンは首をかしげ、小さな翼をぱたぱた動かす。
それを見た人々から一斉に歓声が上がった。
「……マジで有名人じゃねぇか、俺……」
肩の上の小竜を撫でながら、俺は遠い目をした。




