28話 第二次百鬼夜行編〜天岩戸を開く者〜
月詠を殴り飛ばし、ミオリが閉じ込められていると思われる岩戸に叩きつける。
しかし、当の月詠は何故か余裕ぶっこいた態度を崩さない。
『ククク……ハハハハハハ!!!やはり僕の防御を超えてきたか!!!面白い——けど、それくらい想定内だ』
「何……!?」
どうやら全て奴の計算の内だったようだが、ここで退く訳にもいかない。今この瞬間にも、ミオリは暗闇の中で震えている筈だ。
ならばこそ、このまま押し通る——!!!
「……で、その程度で今さら俺がビビるとでも思うのか?少し動揺したが、それだけだ!!!」
誰にも追いつけないスピードで高天原の地面を蹴り、再び月詠へと挑みかかる。
——最速最短距離の踏み込み。もはや迷いなど微塵もなく、月詠を倒す事、そして奴の間違いを糾す事しか考えていない。
「月詠ィィィィィ!!!」
『全く、どこまでも愚直だね。文字通り、愚かだ!!!そして、それ故に君は死ぬ。——天津浄玻璃八咫鏡……』
月詠は、向かい来る俺に対して防御の体勢をとるでもなく、ただ古びた銅鏡を構えている。
何か企んでいるようだが関係ねェ……!!!このままぶっ飛ばして——、
『駄目です旦那様!!!』
——刹那、長門の抵抗により俺は金縛りにあったかのように動けなくなる。その直後に、霊力の圧縮と発散による馴染み深い衝撃が俺を襲った。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今のは、一体……?
『ふむ、君の式神はどうやら気付いたようだね?お仲間に感謝しなよ?』
「呪術に携わる者として、気付かない方がおかしいってなモンですよ……鏡を媒介に、敵を自身の鏡像存在に見立てて己のダメージを投影するその呪術的手法……誤魔化せるとでも思ったか!!!」
長門は一次的に憑依変生を解除して月詠の前に立ち、奴の術の仕組みを看破した。
つまり、長門が止めてくれなければ俺は何もわからないまま自分自身の攻撃で死んでいたって訳か——。
改めて、長門には助けられてばかりだな、俺……
『ところで君達は、確か御織女之神を助けに来たんだったねェ?では、僕がこの岩戸の前から、一歩も動かないと言ったなら、どうする?』
どうするもこうするも、答えは一つだけだ。
「長門、下手したらお前もろとも死ぬかもしれない。それでも——、ついてきてくれるか?」
「もちろんですとも!!!式場からあの世、はたまた来世まで、その不器用な生き様に寄り添い続ける所存です!!!」
『フハハハハハ!!!我も忘れないでもらおうか!!』
——長門、そして惑楽葉……ありがとよ!!!
そんなら、この安倍礼明一世一代の本気と行こうか……!!!
「多重憑依変生、長門!!ついでに呪怨領域、展開!!」
『何をする気か知らないけども、その技は僕には効かないよ?』
——だろうな。奴の妖眼の力は呪怨領域の瘴気そのものを拒絶できる。だが、俺達3人の力を多重憑依変生で一つに集約すれば……!!!
「瘴気吸収、集約!!災禍転福:完全超悪!!!」
高天原を闇に包み込む程の瘴気を吸収、集約して身に纏い、惑楽葉の呪詛喰らいの権能で糧とする。
——本来、惑楽葉の呪詛喰らいは瘴気を吸収する事で一次的な自己強化と自己回復能力を得る権能だ。
そして既に長門の力で膨大な瘴気を散布済み。
では、その瘴気を全て俺自身に集約するとどうなるか?
——要するに、ダメージ反射系ギミックボスを自己回復と自己強化のゴリ押しで殴り倒すようなものだ。
「オォォォォォォォォォ!!オラァ!!!!」
『ぐッ……!?貴様正気か!?』
正気だとも。当然、月詠を殴ると同時に俺が殴った分のダメージがそのまま返ってくる。俺の本気の攻撃なだけあって、めちゃくちゃ痛ェし、自己回復がなければ普通に死ぬかもしれない。いや、間違いなく死んでる。
——だが、そんな事はどうでもいい。本当の覚悟はここからだ!!!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!!」
月詠を岩戸に釘付けにするかのように、無数の拳打を叩き込む。このまま岩戸ごと、打ち砕く……!!!
鋼の如く握り込んだ右拳に渾身の霊力を集め、圧縮する。
『馬鹿な……!?この僕が……!!!!』
「これで終わりだァァァァァァ!!!真·泰帝壱戟!!!!」
——月詠を殴り抜くのと同時に、奴の背後の岩戸がヒビ割れ、砕け散った。
▷▷▷
ミオリside
——何も見えない、聞こえない無辺の暗闇の中、僕は礼明達と出会った時の事……それと彼らと過ごした幸福な日々を心の中で反芻していた。
本当に、どうして、ボクは彼らと出会ってしまったのだろう?ここは、暗い。そして寒い……
こんな事なら人の心の温かさなんて知りたくなかった。
——ボクは自分自身が何者なのか、何も知らない。
それなのに、中途半端に温もりを知り、失う事を知ったから、孤独の苦しみはより深く、重くなった。
礼明達ならばあるいは、ボクを救ってくれると思った時も、確かにあった。(実際、一度は助けに来てくれた)
けれども所詮、人間は神には敵わない。それが現実という物だ。
——もしかしたら、礼明はもう死んでしまったかもしれない。こんな無力で非力なボクなんかのせいで——。
結局、いつもそうだ。晴明も、ボクなんかを助けようとしたせいで処刑された。
百鬼夜行以前のボクがどういう存在で、何を為したのかはもはやわからない。でも今のボクは厄病神そのものだ。
——ならばせめて、このまま人知れず朽ちてしまおう。この世の果てまで、ここで己自身の無能さを嗤い、呪い続けよう——。
——そう思って目を閉じると、閉ざした視界の中に微かな眩しさを感じた。
驚いて目を開くと、暗闇の中に確かな光が見える。この光は、一体何だろう?
——と、思った直後に突如岩戸が砕け散り、視界が光に包まれた。
「ミオリ、助けに来たぞ……待たせて悪かった」
この声はまさか……礼明!?
「礼明……!?礼明……!!」
——先程まで暗闇の中にいたせいで、まだ目が慣れていないが、この声は、この気配は、この霊力の波長は間違いなく礼明だ!!!
ああ、本当に礼明だ正直信じてなかったしもう死んだかと思ってたけどそれでもボクを助けに来てくれたんだ本当に来てくれたんだこんなボクなんかを助けに来てくれたんだこんなに嬉しい事はない怖かった苦しかった寂しかった辛かったよキミに話したい事がたくさんあるんだまずは疑ってごめん信じられなくてごめんだけど来てくれて本当に嬉しかった——、
——色々な感情が一気に溢れてきて、何一つ言葉としてまとまらないまま、ボクは礼明に縋りついた。
『ッ………!?まぁ、今回ばかりは多めにみてあげましょう。でも、旦那様の正妻はこの私ですからね!!!』
礼明の器を通して長門が釘を刺してきたが、そんな長門の声すらも懐かしい。
——ふと、礼明の持つ霊力に違和感を感じる。
間違いない。彼の経絡と魂の規格は、神の領域に近付きつつある。このままでは、いずれ彼は人として生きる事ができなくなるだろう。全て、ボクのせいだ……
——再会を喜びながらも、ボクはその事実を礼明に伝える事ができなかった。
ミオリside 終




