27話 第二次百鬼夜行編〜再戦!!月詠命〜
師匠と別れた後に、月詠へと辿り着くべく高天原の中を疾駆する。
長門の探知で得た情報から見るに、月詠は呪怨領域の影響をほぼ受けていないと考えて良い。現在、高天原に居るほぼ全ての神々が瘴気の影響を受けているにも関わらず……だ。
『旦那様……今、十六夜さんと素戔嗚の反応が途絶えました。呪怨領域が部分的に消滅したか、あるいは……』
「——相討ちか、だろ?」
わかってるさ。もう後戻りができないって事くらい……
だからこそ、ここでミオリを救出できなければ全てが無駄になる。晴華の頑張りも、月白さんの陽動も、師匠の献身も、全て。
長門の言葉で決意を新たにしつつも、僅かな迷いすらも断ち斬って先に進む。月詠の反応は依然として動かず、どうやら俺を待ち構えているかのようだ。
(↑おそらくは、確実に俺を始末する為だと思われる)
月詠の味わった離別と喪失の痛みは、俺にはわからない。
——あまり想像したくはないが、ミオリか長門、あるいは惑楽葉や晴華を失えば嫌でも理解できるのかもしれないが——、
けれども、自分が傷付き苦しんだからと言ってその痛みを他者に強いるのは間違いだと、何度でも俺は言い続ける。
——だからこそ、俺は月詠の望む未来を否定する。勝負だ、月詠。その寝惚けたツラをぶん殴ってやる。
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月詠side
あの晴明の末裔が高天原へと攻め込んできたらしい。素戔嗚を迎撃に向かわせはしたが、まだ安心はできない。全く、安倍家の血筋は何年が過ぎようと本質的には何も変わらないらしい……
かつて僕の邪魔をした安倍晴明——、その血筋にちょっとした呪いをくれてやった事は今でも覚えている。
それでも今こうして晴明の末裔が、再び僕の前に立ち塞がっているのだから、やはり安倍家の血筋はあの時に根絶やしにしておくべきだったかもしれない。
——なんて、過ぎた事を悔やんでも仕方がない。
僕の望みはあの頃から変わらずただ一つ、愛する君と再び巡り会う事だけなのだから——。
月詠side 終
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高天原の最奥、天照大神の御所でもある至天の階——、月詠はそこで俺達を待ち構えていた。
『やあ、久しぶりだね。どうやら経絡を取り戻したようだけど、あの十六夜をどうやって誑かしたんだい?』
「月詠っ……!!」
月詠はあくまでもにこやかに、それでいて俺達を嘲笑した態度を崩さない。その後ろには、天岩戸が鎮座している。おそらくミオリはここにいる筈だ。
『まぁまぁ、そう熱くなってもいい事なんて何もないよ?全く、あんな無能な国津神の一柱ごときに必死になっちゃって、そんなに早死にしたいのかな?』
——今、なんと言った???
「おい……テメェ今、ミオリの事を無能と言ったのか???」
腹の底から怒りが湧いてくる。百鬼夜行を収束させて多くの人間や神々を救ったミオリの事を、無能と言ったのか???あの底抜けに優しい神を、無能と言ったのか???
『言ったとも。世界は救えても黒月を救えなかった、あの忌まわしい無能な国津神なんかの為に君が命を賭ける意味が、僕にはわからないよ』
その言葉を聞いた瞬間、俺は無意識のうちに奴に殴りかかっていた。
手応え——、なし。
『おっと、危ない危ない。確か君も妖眼を持ってるんだって?僕も持ってるんだよ、妖眼……』
俺の拳は目に見えない何らかの斥力に阻まれていて、こちらを嘲笑う月詠の眼は赤く染まっていた。
『来たれ、霊玉……』
月詠の呼び声に応えるかのように、淡い燐光を放つ夏蜜柑くらいのサイズをした無数の球体が顕れる。
『宣言しよう。これから僕は、本気で君を殺す。せいぜい僕を楽しませてくれよ?』
『霊玉陣:上弦ノ型!!』
月詠はあらかじめ俺の足元に配置した霊玉による対空飽和攻撃を放つ。
それに対して俺は、躱せる物は躱しつつ惑楽葉の歪曲結界で防御の体勢を取った。空間を歪曲させて月詠の攻撃を逸らす。
『なるほど、闇色の邪狼の力か……しかし、二度はないよ?』
『下弦ノ型!!』
先程、上に向かって飛んで行った霊玉が軌道を変えて今度は頭上から振り注ぐ。
ここは防御に徹するよりも、歪曲結界を維持したまま月詠本体を叩くのが最善手だろう。奴の妖眼の能力はまだ不明だが、霊玉の制御にリソースを割いている以上、防御も弱まっている筈だ。
——よし、そうと決まれば突撃あるのみ!!
「泰帝壱戟!!!」
俺が攻撃体勢に転じたその刹那、月詠が不敵に笑った——、ような気がした。
——次の瞬間、頭上から振り注いだ霊玉が俺を打ち据える。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今、何が起こった?歪曲結界は正常に維持されていた筈なのに、まるで結界そのものをすり抜けたかのように直撃を受けている!?
『だから言っただろう?二度はないよ、って』
月詠はこちらを嘲笑うように見下ろしている。その眼はやはり、赤く染まっていた。
考えられる可能性は、先程の謎の斥力も結界をすり抜けたのも奴の妖眼の力による物だという事くらいだ。
結界をすり抜けたという部分だけ見れば十六夜師匠の能力にも似ているが、それだとあの斥力の説明がつかない。まるで攻撃そのものを拒絶しているような——、
「【拒絶】、それがお前の能力か?」
単なる思い付きだが、ダメ元でカマをかけてみる。例え外れても、何かしらの糸口を見つけられればそれで充分だ。
『仮に君の推測が正しかったとして、だから何だというんだい?どのみち君は、ここで死ぬんだ!!!望月ノ型!!』
俺を取り囲むように、全方位に配置した霊玉による集中攻撃、明らかに殺しにかかってんなコレ……
歪曲結界が実質的に機能しない現状で、霊玉による包囲網を潜り抜けて奴に肉薄するのはほぼ不可能。一か八か、ここは俺の立てた仮説に賭ける!!
視界が赤く染まり、月詠の姿すら朧気になってきた。
——お前の力が【拒絶】であるのなら、俺はその【拒絶】すら【許容】する!!!もしも仮説が間違ってたらその時点でゲームオーバーだが、ここまで来て日和るつもりはない。玉砕覚悟?上等だよ。
「うぉォォォォォォォォォォ!!!!」
俺は脇目も振らず、月詠めがけて吶喊する。
『ハハハハハハ!!!血迷ったか!!!!』
当然、俺を迎撃するべく次々と霊玉が襲い来るが、それらは全て歪曲結界により阻まれた。
——つまり、俺は賭けに勝ったって事だ。そして、ここは……俺の距離だ!!!
「狼王の鉄槌!!!」
振り上げた左腕を、惑楽葉の疑似重力のパワーとともに振り下ろす。
『ぐぅッ……!?』
よし、少なからずダメージは通るみたいだ。なら、まだまだダメ押しゴリ押し力押し!!!
「食らいやがれ……!!!泰帝壱戟!!!!」
【拒絶】の力による防御の上から月詠を全力で殴り抜く。そのまま吹っ飛ばして天岩戸に叩きつけてやった。




