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9話 マーリス2ーマーリスとお茶会、毒味ー

ブックマークしていただきありがとうございます。


「故国の才女は存在自体がチートでした」9話になります。

お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

「おしつけ?って、何のことかしら?」


マーリス様はきょとんした顔で首を傾げた。


(えっ、まさかと思うけれど、御試食をしらない?)


私はお菓子の花園を目の前にしてほんの少し肩を落とした。


御試食おしつけとは、飲食物を誰かに提供する場合にまず自ら飲食して毒物が混じっていないことを証明をすることである。言い方を変えるならば、毒味のことだ。


貴族の社交の場では、ほとんどの場合何かしらの飲食物が出される。

その出された食べ物についてはあらかじめ毒味役、またはその会の主催者が初めに手を付けることで食べても問題がないことを証明することが古くからの()()となっていた。


しかし、その習慣も魔法技術の進歩によって提供される飲食物の保管や会場の警備が厳重になった今時においては形骸化しつつあるのが現状だ。


なので、実際に人によって毒味が行われるのは多数の出入りがあるような大規模なものや皇族や他国の王族など要人をお迎えするような万が一にも、何かがあっては許されないような場合にのみ実施されるようになっていた。


ましてや、内輪の集まりや派閥内の小規模な会では行われない場合がほとんどで、これは準皇族であるセルグート公爵家でも同様だったのだ。


しかし、そんな時にある出来事が起きた。

その出来事がなければ、私も()()()()()だと笑っていられただろう。出された食べ物に心を砕くことも相手を不快にすることもなかったに違いない。

その出来事がなければ、セルグート公爵家が令嬢の口に肌に触れるあらゆるもの対してこんなにも神経質になることはなかったに違いない。


そして毒の辛さは味わったものにしかわからない。

その時から私にとって毒味は()()()()()と笑って済ませてしまうことのできる行為ではなくなった。


そのことは深く、幾重にも心に刻み込まれトラウマとして残ってしまった。

たとえその出来事が私に向けられたものではなく、公爵家に対する()()()()のつもりだったと後から分かっても、もう安心などできなかったのである。


だから食べたいけれど食べられない。無邪気に手を伸ばしたその結果。数日間ベッドの上で苦しむことになったあの思い出がいつも蘇る。


身体はそれを求めていても、心が拒絶してしまう。

毒見がされていない食べ物を食べるということに私は強い抵抗感を感じていたのである。


しかし、そんな私のことなど知る由もないマーリス様はこれがただの()()()()()()()であると判断したのか、うんざりとした様子で肩をすくめて冷たく言い放つ。


「女神であるこの私が言っているのに、わからない()ね。一体、何が気に入らないのかしら。」


そして、そんな私にこれ以上敬意を払い続ける意味なしと判断したのだろう。脚を組みひじ掛けに頬杖をついて背もたれに身体を預ける。

それまでの美しい座姿勢を崩して座り直した。


「だいたい、あなたはここに来てから魔法で出した水だけで過ごして、何も食べていないじゃないの。いいから。つべこべいわずにさっさと食べなさいよ。お腹がすいてるのでしょ?」


マーリス様は私のここ数日の食生活を言い当てる。さすがここを統べる女神様というだけあってなんでもご存じということだ。それにしても。


(そんな言い方って・・・ないわ。私だって・・・今すぐ食べたいに決まってる。でも。したくても、それができないのよ。)


私だってこんな自分は望んでいない。セルグート公爵家としても、こんな人間は求められていないだろう。

なにせ、お菓子一つ食べるというだけなのにこんなにもぎくしゃくしてしまうのだから。


それが過去のトラウマを未だに克服できていない心の弱い私に非があるのだ、と思うと余計に胸が苦しくなる。誰でもいい。今すぐにでも助けてほしい。私の心の傷を消し去ってほしい。


けれど、そう願ったところで誰一人として助けは来ない。それはそうだ。

この傷を知っているのは私だけなのだから。誰にも言っていないしこれからも誰かに助けを求めようとも思わない。

言えばどうなるか、そんなことは考えたくもない。


だから、この傷は自分で消し去るしかない。今までのようにただ佇み抱えているだけではだめなのだ。自ら動かねばと。


そんなことは何度も考えた。でも、結局何もできていない。何一つ変わっていない。

結局誰かに言うこともできず、ただの子供のわがままと考えているマーリス様を責めることなどもってのほかだ。


今の私にできることはたとえどんなことを言われても、口答えせずにうつむいてきゅっと唇をつぐむことだけだった。


私がなおも手を付けず、ティーカップに注がれたキャラメル色のお茶をじっと見つめていると。

突然、パンッ!という乾いた音が響いた。


私は驚いて顔を上げる。視線の先にはいつの間にか光沢のあるエヴェンテール(扇子)を手に持ったマーリス様がこちらを見ていた。私の意識を自身に向けさせるために打ち鳴らしたようだ。


マーリス様は閉じたままのエヴェンテールで口元を隠すと目を細める。その表情はまるで私を馬鹿にしたようにも見て取れた。そして今思い出したかのように手を打つ。


「あぁ!思い出したわ!すっかり忘れてた。御試食って、()()の事だったわね。ダメねこうも人の俗世から離れていると。

私ったら、ずっとあなたに犬のように()()をさせてしまっていたわ。私が先に食べて()()と言ってあげない事には()()()()()()()令嬢は、何一つとして出されたものを食べられないのだったわね。」


最後に吐き捨てように一言付け足す。


「嫌ね。()()()、食べるだけなのに。ほんと、()()()()()こと。」


(なによ、それ・・・。たかが?食べるだけ?面倒くさい...っーー!)


私の中で何かがぷちりと切れた。

手を痛いくらいに握りしめマーリス様をキッときつく睨みつける。


(ええ!そうなの!その、()()してもらわないと()()()お菓子も食べられない、()()()()()子どもなの私は!)


(なにも知らないくせに!どうして!あなたにそんなこと言われないといけないの!?私の気持ちなんて理解で来るわけがないのに!)


(それに!犬ですって!?)


しかし、私が強く睨んでもでマーリス様に怯むそぶりはまったくない。むしろ逆に楽しい()()()()を見つけた子供のように目を細めている。


マーリス様は膝の上で丸くなっているきゅきゅに降りるように促すと、テーブルの上に準備されている取り分け用のお皿を使うこともなくそのままお菓子の花園から一つ摘み上げて口に運んだ。


それは先ほどお気に入りと言っていた【チョコべ】というお菓子だ。

マーリス様は星の形をした一口サイズの茶色い焼き菓子を口に入れると目を閉じてうっとりと恍惚とした表情をうかべた。


「ん~、カリッと軽い触感、程よい甘さと一緒に広がるチョコレートの香り。やっぱりこれが一番おいしいわ。」


続けて同じものを二つ、三つと口に運ぶ。


「……んく...。」


私は勝手に出てくる唾液を飲み込む。


(う、黙って食べなさいよ…。こういう時にいちいち食べた感想なんて言わなくていいの…。)



それからマーリス様はお菓子一つ食べるたびに味や食感の感想を言いながら、いくつかの焼き菓子を時間をかけてゆっくりと御試食していった。


最後にティーカップをゆっくりと傾けて喉を潤すと私の表情を確認し勝ち誇ったような顔をこちらに向ける。


その表情で私は強く確信した。


(この方は絶ーー対に!聖女マーリス様ではないわ!慈愛のかけらもない!ほんとにこの方女神様なの!?)


マーリス様はバサッと勢いよくエヴェンテールを開く。

それをひらひらとさせながらお菓子を食べても大丈夫なことを宣言した。


「これだけやって差し上げれば十分でしょう?()()。もう食べても大丈夫よ?」


(くっ...!犬みたいな言い方はやめて!)


いくら食べても問題がないことが証明されたとはいえ、このままマーリス様の厚意に甘えてしまうのはあまりに屈辱だ。

しかし、腹立たしさのあまりに目的を忘れてはならない。


私にここから出て行く別の方法があったなら「もてなしは不要」と今すぐにでも席を立つという選択をしただろう。

しかし、今の私にその選択肢はない。もし、それを選ぶことはすなわち、ここから出て行くことを諦めこのまま朽ち果てていくことを意味するのだ。


せっかくここまできてそんな()死のようなことが出来るはずがない。私にはもう後がない。

後ろを振り返ってもそこにあるのは歩いてきた道ではなく断崖絶壁なのだ。常に前に進むしかない。それも闇雲に。


私は自分に言い聞かせる。何を言われようとも目的の為。背に腹は代えられない。

だから目の前のお菓子の花園に意識を集中させる。表情を緩め笑顔を貼り付ける。


「どれも、とても美味しそうなお菓子ですね・・・謹んで、いただきます。」


私は身を乗り出して手際良く取り分け用のお皿にいくつかお菓子を載せていく。


(とりあえず、この四角い焼き菓子はどんな味かしらね。)


私は表面に【CHOIX】と文字が浮き出ている焼き菓子を手に取り四分の一ほど口に含む。

私は目を丸くした。舌の上に甘美な花園が広がっていく。


その味わいに頬が勝手に緩んでしまう。緩む表情を引き締めようと意識したけれど、うまくいかない。

二口、三口とお菓子を食べるたびに今までのことなど頭の片隅に追いやられていく。お菓子を口に運ぶ手が止まらない。


(とっても素敵だわ!)


サクッと軽い食感の焼き菓子は、口に入れるとホロリと溶け広がってゆく。そうして舌の上に上品な甘味がふわりと広がり、きめ細かな生地とバターの香ばしい香りが鼻腔を抜けてゆくのだ。


(こんなに風味豊かなでまろやかな舌触りのお菓子は、家でも食べたことがないわ。とってもおいしい!)


もちろん似たようなバターが使われたお菓子は家でも食べたことがある。

しかし、大きく異なるのは甘みと食感だ。

私は料理には詳しくないけれど、それでも違いは一目瞭然だった。生地と砂糖が全く違うのだ。


公爵家で出されるお菓子のほとんどはお抱えの料理人に作らせている。

料理人の腕も使う材料も一級品ではあるけれど、どんなに質が良くても今食べた焼き菓子に比べれば見劣りしてしまう。


それ以外にも出入りの商人からお菓子を取り寄せることがある。そのどれもが皇都の一等地に店を構える高級店のお菓子や他国の名店の物だ。

しかし、今食べた焼き菓子はそのどれよりもおいしいと言えるだろう。


私が焼き菓子の味に感動していると。


「お味はどうかしら?」


マーリス様は心なしか得意げな表情をして問いかける。私は嘘偽りない感想を屈託なく答えた。


「とってもおいしいです!」


その私の反応に満足したマーリス様は穏やかな表情をした。


「ふふっ、よかった。まだたくさんあるから好きなだけ食べてね。紅茶もどうぞ。」


私は重ねてお礼を述べてから金の装飾が施されたティーカップを傾ける。

芳しい香りが鼻腔をくすぐり爽やかな渋みがお菓子の甘さをサッと洗い流す。数日ぶりの紅茶がスーッと身体に染み渡る。


(このお茶も素敵だわ!ちょっと冷めてしまったのは残念だけれど、それでも香りはしっかりと感じる。それでいてとてもすっきりした後味。これならどんどんお菓子が食べれそう!)


私は夢中になって次々にお菓子を手に取り直接口に運んだ。紅茶がなくなればすぐにマーリス様はカップに注いでくれた。

そんな私の姿をマーリス様は楽しそうにティーカップを傾けながら見ていた。



ひとしきりお菓子と紅茶を楽しんだ私はソーサーに乗せたカップをテーブルに置いてから深く頭を下げた。


「大変においしく頂戴いたしました。」


「ふふっ、気にしなくていいわ。あなたは私が呼んだお客様。もてなすのは当然の事よ。」


(呼んだ、お客様、ね。)


思うところはある。

けれど、おいしいお菓子とお茶でもてなしを受けたことに変わりはない。

それに、私に落ち度があったこともまた事実なのだ。素直に感謝と詫びの気持ちを示さねばならない。


「お心遣に感謝いたします。また、これまでの度重なる無礼の数々、伏してお詫び申し上げます。」


私は改めて深く頭を下げた。


「ちゃんと理解しているつもりよ。普通に考えればかなり特殊な状況でしょうし。多少取り乱すのは当たり前のことだわ。」


マーリス様は私の状況について理解を示したうえで、私から視線を逸らすと数段声量を落として呟いた。


「...それに、あなたはどうしてここに居るのか理解できていないでしょうから。」


しかし、それもすぐに元に戻った。居住まいを正し美しい姿勢で座り直す。


「あなたには私に聞きたいことがたくさんあるはずよね?質問には()()()()()()答えて差し上げるつもりよ。まだお菓子も残っているし、ゆっくりとお茶を楽しみながらお話ししましょう。」


マーリス様のつぶやいた真意が気になるところではあるが、言う通り私には聞きたいことが山ほどある。

そしてお願いも。


しかし、それをしてもらうにしても、私はマーリス様のことを知らなすぎる。

私はマーリス様の爵位号も爵位も何も知らないのだ。知っている事といえばマーリスという私の尊敬する方と同じ個人名であるという事だけ。


ここから出してもらう為の力添えをしてもらおうと考えているのに、いつまでも名前を呼ぶことが出来ないのは不便で仕方がない。かといって、いきなりマーリス様と呼ぶのは不敬になってしまう。


私はマーリス様に尋ねた。


「今更ながらで恐縮ですが、あなた様をなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」


「そうね...マーリスと、名前で呼んでもらって結構よ。私もあなたのことはアルスリンデ・・・。は長いわね。アルスと呼ばせてもらうことにするわ。」


(きゅきゅにも長いと言われたわ。アルスリンデってそんなに長いかしら?まぁ、それは今考えることではないけど。)


「承知いたしました。それではマーリス様とお呼びいたします。」


マーリス様は頷いた。


「それじゃ、お腹も心もほぐれたところで、本題に入りましょう。それでは、アルス。聞きたいことは何かしら?」


私の中ですでに結論は出ているがどうしても本人の口から聞いてみたい。

それに、まずはマーリス様が信用するに値する人物であるのか、一体何者なのか見極められなければ、いくら私の質問に嘘偽りなく答えてくれたとしても私自身が内容を納得することができないだろう。


それに、これから私がしようとしていることをマーリス様に話して問題ないのか判断しなくてはならない。

迂闊に話して全てを台無しにするわけにはいかないのだ。


であれば、最初の質問は決まっている。


「それではお尋ねいたします。

マーリス様はリーゼ・ナハトと戦われた、とおしゃられました。そうなりますと、私の存じ上げているマーリス様はただお一人です。

マーリス(女神)様は勇者様(ル・バニア)と共にリーゼ・ナハトを倒し我が祖国、ル・バニア皇国に平和と繁栄をもたらされ、建国の祖と名高い聖女マーリス様でお間違いないでしょうか?」


貴女は一体誰なのか。私の考えている聖女マーリス様なのか。まったくの別人なのか。

私はマーリス様の答えを固唾をのんで見守った。


「ん〜、そうねぇ。アルスの知っているマーリスは私で間違いないと()()わ。少なくとも、ル・バニア皇国の初代皇帝になった勇者とその取り巻き達。

リーゼ・ナハトを倒すためにかの地に赴いたパーティの中にマーリスという名の人間は私しかいなかったもの。

まぁ、あなたの口ぶりだと認識に()()()()が必要なようだけれどね。」


それを聞いて私はすぐに眉をひそめた。マーリス様の答えはどうにも煮え切らない。その答えでは。


(信じられないわね。それに訂正が必要って、一体どういうことかしら?)


私の態度を見てマーリス様は愉快そうに言った。


「ふふふっ、その様子を見るに目の前に居る私があなたの知っているマーリスだと信じられないようね。」


マーリス様は私の態度に対して気分を害する様子もない。

であれば、思っていることを正直に言っても問題ないだろうと判断する。


「・・・申し訳ありません。率直に申し上げて、そのお言葉をにわかに信じることはできません。」


「まぁ、それは残念だこと。ふふっ。」


マーリス様は残念だと言う割には全く残念そうなそぶりはない。優雅にエヴェンテールをひらひらとさせて私を見ている。むしろ、予想通りと言いたげな態度だ。

マーリス様はわざとらしく、困ったように頬に手を少し考えるしぐさをした。


「ん~、困ったわねぇ。このままでは話が進まないわ。」


そして、エヴェンテールをパチンと折り畳む。


「そうだわ。こうしましょう。あなたの知ってるマーリスがどんな人間だったのか、私に話していただけるかしら?」


そのことがマーリス様を聖女マーリス様と信じることとどう関係するのかわからないけれど、話して聞かせることはやぶさかではない。


「かしこまりました。それではお話いたします。」


私は咳払いを一つしてから何度も読みいつの間にか内容を全て覚えてしまった聖マーリス教の聖典のお話をマーリス様に話して聞かせた。聖女マーリス様の生い立ちから彼女の偉業についてである。


私が話している間マーリス様は下を向いて途中何度かハンカチを目元に当てたり、肩を震わせたりしながら静かに私の話を聞いていた。


「以上が、聖女マーリス様と勇者様の偉業と栄光、ル・バニア皇国の建国までの道のりでございます。」


最後まで私の話を聞き終えたマーリス様はすっと顔を上げて大きく息を吐くと目尻に軽くハンカチを当てる。

開いたエヴェンテールで口元を隠しながら肩を震わせて心底愉快そうにくつくつと笑った。

もう我慢をする必要がなくなったとばかりに。


「くくくっ...。あぁ、可笑しい。聖女マーリス様という人は随分とできた人物だったのね。くふふ。これは傑作だわ。」


(なに?その態度?聖女マーリス様ができた人物?皇国の皆が敬愛する聖女様を愚弄するつもり?!)


その言われように、まるで自分が愚弄されたような気持ちになった私は未だに口元を隠しながら目じりをハンカチで押さえているマーリス様に「不愉快である」と示すために抗議の視線を向ける。


「あぁ、お腹が痛い...。くふふっ。あら。ごめんなさいね。ふふっ。」


私の表情から感情を察したマーリス様は一応、謝罪を述べるもその言葉がうわべだけであるのはまるわかりだ。まったく悪びれた様子はない。


「あまりにも面白い創作物語のだからつい。なるほど、ル・バニア。よくもまぁ。建国の祖、聖女マーリス。私が居なくなってから俗世はそんな面白いことになってたのね。」


(創作物語、ですって?!)


私はまたしてもマーリス様に対してにらみを利かせる。

けれど、八歳の小娘がいくら抗議したところでなんとも思わないのだろう。その様子は悪びれるどころかル・バニア皇国に対する、嫌悪感のようなものを滲ませているように感じる。


しかし、だからといって、そこまで言われて黙っておくことが出来なかった私は抗議の声を上げた。


「お待ちください!創作物語とは聞き捨てなりません!いったい何の根拠がー!」


マーリス様は私の抗議など無視して一人で納得すると一方的に話を進める。


「そういうことなら、今までの態度も頷けるというものよ。初めて会った時からアルスの中のマーリスと私の姿が一致していないのでしょうね。」


「話してくれてありがとう。皇国が。いいえ、あなたが信じるマーリスについてだけれど、すべてデタラメね。最初から間違っているわ。」


(何を言っているの?すべての歴史文献。それに聖マーリス教の聖典に書かれていることよ。間違っているわけないじゃない。それに歴史的な根拠だったあるんだから。)


「そうね、今後の為にも。あなたは真実を知っておく必要がある。」


(今後のため...?真実?)


「今から聖女(マーリス)勇者(ル・バニア)の、真実を教えてあげる。創作ではない本当の物語を。」


マーリス様は、そう言ってティーカップを傾けた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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