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望まぬ訪問者

――



「一体これはどういうことですか。」



腕を組みこちらに厳しい目を向けてくる男。


余程気に食わない事でもあったのだろう。

その美しい顔には眉間のしわが寄っていた。



「こんな朝から一体何のことでしょうか。殿下。」



今日の朝いきなりメイド達がやってきて勝手にドレスやら髪やらの準備を始めたので何事かと問えば、殿下がお呼びだと言う。

今更会う気はなかったので、仮病を使って断ろうとしたが時すでに遅し。

殿下は私の部屋の前で待っていたようだ。

まるで私が会うのを拒否するのをわかっていたように。


私の返事を聞くまでもなく、殿下は部屋へズカズカと入っていき椅子に座った。

しょうがなく私も向かい側に座った。

その途端、これである。



「とぼけても無駄ですよ。最近の自分の行いを振り返ってみたらどうです。」


「最近の行い…ですか。」



殿下は私がとぼけてると思っているのか。

苛立ちを隠そうともせず、こちらを睨みつけていた。


殿下に言われた通り、私は最近の出来事を思い出す。

正直、全く身に覚えがないかと言われればそうでもないのが正直なところだった。



「確かに普段よりは活動的になったかもしれませんね。」


「それだけですか?」


「部屋から出るようになったくらいです。何か問題でも?」



殿下は片手で頭を押さえて深くため息を吐いた。

疲れているのか顔色が悪く見えなくもない。



「…メイド達が一気に解雇されていっているという話が私の耳に届きました。中には知らぬ罪まで着せられたと。」


「あら、そうなんですね。」



私はどこ吹く風と言った感じで紅茶を飲む。

今日は殿下も一緒だからか普通の美味しい紅茶だ。



「惚けないでください、あなたの仕業でしょう?なぜそんな事をしたのですか。」



責めるような眼差し。

私の言い分など聞いて意味などあるのだろうか。



「さあ。強いて言うなら気分ですかね。彼女たちにむしゃくしゃしたので。」


「その者達があなたに何かしたのですか?」


「まあ、そうかもしれませんね。」



前世でね、と心の中で付け加える。

される前に処理したのだから、今世では特に何もされてはいない。

彼女たちからしたら私の行いは理不尽に感じるだろう。



「!一体何をされたのですか!?」


「…。」



殿下が声を荒げる所を前世含めて初めて見た。

焦っているような怒っているようなそんな顔だ。


何をそんなに怒っているのかと私は考えた。

殿下は私には一切興味がない筈なので、間違っても私が何かされたことに対して怒っているとかではないだろう。

であれば、皇宮のメイド達を好き勝手にした事が許せなかったのだろうか。


皇太子妃である私にだって権利はある筈なのに酷い話だ。


そうだと思い始めた瞬間。

私は殿下への怒りが込み上げてきた。

自分が思っている以上に声に感情が乗ってしまうほどに。



「…それを殿下に言ってなんの意味があるのですか。」


「なっ!意味って…なぜ、そんな事…。」



帝国の英雄様は人から拒絶された経験がないのだろうか。

ショックを受けているようだった。



「別に良いではないですか。人数だってたった4人ですし、それぐらい大したことないでしょう?」



穏やかに微笑んで見せる。

なんの悪びれもなく、問題などないだろうという風に。



そう、まず私のターゲットとなったのは4人のメイドだった。

一回目の人生で私を殺したマーサと、三回目の人生で私の宝石を盗み階段から突き落としてきた新人メイド3人。

それぞれの弱点を知っていたからか、処理するのはそう難しくなかった。


一番最初はマーサだ。


いつか必要になるだろうと私は事前にコルベール家の使用人にマーサについて調査してもらっていた。

分かり切っていた事ではあるが証拠は必要だ。

そして、案の定マーサが平民出身の子爵家のメイドだった事が判明。


マーサの経歴はどうなっているのか気になりメイド長に見せてもらうと、貴族出身だと偽りの情報に書き換えられていた。

どういう経緯で皇宮のメイドになったかまではわからなかったが、前世の殿下の様子からして不正に潜り込んだ可能性が高い。


なので私はそれを利用した。

これがタシェ家の指示なのだとしたら、子爵家がスパイを皇宮に潜り込ませていると言われても否定できないだろうと。

そうなると、皇宮の補佐官をしているタシェ様も当然無事では済まない。


その事をマーサに言うと、彼女は顔を青褪めさせた。

彼女の弱点はタシェ様だ。

私の予想通り、タシェ様を引き合いに出したことでマーサは白状した。


マーサは自分から辞めると言っていたが、私はそうさせなかった。

自ら辞められては、次の働き口があっさり見つかってしまう。

私の命令で辞めたのだと言う体にして、今後一切働き口など見つけられぬようにしたかった。


コルベール家の力を使って他家にも圧力をかけておいたので、マーサは今後、貴族の家のメイドとして働くことはできないだろう。

潔く平民へと戻ったとしても、皇太子妃の命令で辞めさせられたと噂は既に広まっているので同じこと。

マーサが今後どうやって生きていくのか。

見ものである。



次に新人メイド達だ。

彼女らも調査はしたが、特に裏が出てこなかったのでどうするか悩んだ。

いきなり解雇を言い渡すのも悪くはないが、私の気が晴れない。

なんとかして彼女たちに罪を着せ、マーサ同様社会的に制裁できないかと考えていた時。

私はある事を閃いた。


前世同様に宝石を彼女らに盗ませてしまえば良い。


彼女らは未だに私を愚かな皇太子妃だと油断しているので、この計画は容易だろうと腹を括っていた。

だが、マーサの一件以来警戒されているのか中々尻尾を出さない。



そこで私はある騎士にも協力を仰いだ。

彼は五回目の人生で友人が私に殺されたのだと勘違いをして、結果私を殺害してきたあの騎士だ。


正義感や義理人情に厚い彼は愚かにも私の言う事を信じた。


彼女たちはお金に困っている。

私の宝石を彼女たちに渡すよう頼まれてくれないか。


そんな事を言って彼を動かす。


貧乏貴族である彼女たちがお金に困っていたことは確かで、私服も質素なものばかりだったのが、より私の行動に真実味を帯びた。

実際に彼はその事を信じて彼女たちに、ある高貴なお方が恵んでくださったと言って渡したのだから。


私の名前は出さぬように言った。

私からだと言えば、警戒されてこの計画が駄目になってしまう可能性があるから。



それに私はこう言えば彼女たちも快く宝石を受け取るだろうと言う確信があった。

なぜならタシェ様も同じようなことをしているのを見たことがあるから。

彼女は苦労している人間を放っておけない性質なのか、身分の低い貴族に対してこっそりと『お恵み』をすることがあった。


だからきっと彼女たちは高貴なお方と聞いてタシェ様だと勘違いしただろう。

タシェ様を妄信している彼女たちなら猶更。



そうして私の計画に見事嵌ってくれた彼女たちを私は容赦なく断罪した。

例えそれがお飾りの皇太子妃であったとしても、宝石を盗むだなんて言語道断だ。

言い分を言う隙も与えず、泥棒と言うレッテルを貼ったまま皇宮から追い出すことに成功した。


騎士の彼はと言うと、まさかこんな事になるとは思わなかったみたいで怯えていた。

今まで真っ直ぐに生きてきた人間なのだろう。

まさか、自分がこんな事に巻き込まれるとは露にも思わなかったみたいだ。



私はこの一件で新人のメイドたちを追い出すだけでなく、騎士の秘密までも握る事になった。

自尊心の高い彼は自ら罪を告白することは無いだろう。

罪悪感に苛まれながら生きていくと良い。



私が今までやってきた事を思い出していると、殿下がこちらをじっと見ていることに気づいた。



「何か?」


「あなたには罪悪感と言うものがないのですか。彼女たちはあなたの気分とやらで人生を滅茶苦茶にされたのですよ。」



それが何だというのか。


私は彼女らに人生そのものを奪われた。

それに比べれば私のやっていることは優しい方だ。



「別に彼女たちを殺したわけでもないのになぜそんなに怒るのですか。」


「当たり前です!あなたは()()()皇太子妃なのですよ!」


「…。」


「やって良いことと悪いことがあるのが分からないんですか?」


「…だから、耐えろと?」


「は?」



私の言った事が聞こえなかったのか。

殿下は聞き返す。



「いえ、何でもありません。以後気を付けますね。」



まだ何か聞きたそうにしていたが、私はそれを無視した。

殿下と話していると全てぶちまけてしまいそうだった私はお得意の笑顔を張り付ける。


今日は最悪な日だなと思った。

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