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復讐の始まり

――



そうして今、私は七回目の人生を送っている。


今までの人生から私はある選択をしていた。

信じていてもどうせ最後には裏切られるのだから、誰も信じず、孤独に生きようと。



メイドも付けない。


護衛も最小限。


反逆を疑われない様に家族とはほぼ絶縁状態。


極力部屋で静かに過ごす。


誰の話も聞かないし、喋らない。

それが一番楽だという事。



だから殿下の部屋へ行ったのは偶々だった。


机の上に置かれた一通の手紙。

「話があるから部屋まで来てほしい。」そう、書かれていた。


宛名など書かれていない簡素な手紙だったが、私は殿下が書いたものだと確信していた。

便箋からほのかに香るシトラスの香りは彼がいつも好んで付けている香水だ。


愚かにも私は手紙の指示通り、殿下の部屋へ行った。

今までの人生で彼が自ら私を呼び出すことなんて無かったので不思議に思ってはいた。


まさか、タシェ様という秘密の恋人の逢引きを見せられるとは思わなかったけれども。



彼らの逢瀬を見て、不覚にも胸が痛んでしまった自分が悔しい。

この想いは前回彼に裏切られたときに清算したはずだったのに。


10年という長い片想いはそう簡単には消えて無くなってはくれない。


下唇を力の限り噛む。

血が滲んで痛みに耐えている私に誰かの呼び止める声がした。



「妃殿下!」


「…エトワール卿。」



声をかけて来たのはエトワール卿だった。

皇宮内で遭遇するのは珍しい。

ここが殿下の部屋の近くだったからそのせいもあるのだろうか。


何か急ぎの用でもあるのか、彼は速足でこちらへ向かってくる。



「呼び止めてしまい、申し訳ございません。実は急ぎお伝えすべきことがございまして…。」


「いいえ、問題ございません。」



幼馴染の彼の前ですら偽物の笑顔を浮かべる。

もう私はこれが癖になってしまったようだ。



「…。実は、もうそろそろ殿下の戦勝パーティーが開かれます。妃殿下にも参加していただくので、その事をお伝えに参りました。」



もうそんな時期かと思い出す。


結婚して一年経ったくらいの頃に殿下の戦勝パーティーがあった。

帝国の英雄である彼は戦では負けなしらしく、この時期のパーティーは隣国との戦争を終えた時のものだろう。


長年の戦いにようやく終止符を打てたことで、比較的大規模なパーティーだった。


皇太子妃である私も当然参加このパーティーに参加していた。

今回で通算七回目となる。



正直、このパーティーに参加するのは気が進まなかった。


結婚して一年経つというのに子供が生まれない。

使用人からはあからさまに避けられている。


お飾りの皇太子妃であるという噂がこのパーティーをきっかけで露見してしまう事になるからだ。



貴族という者は人の粗探しをするのが好きだ。

筆頭公爵家であるコルベール家の長女がこんな扱いをされていると知った彼らの好機の目と言ったら。

思い出すだけでも嫌気がさす。



「妃殿下?」



私が中々返事をしないからかエトワール卿が心配そうな目でこちらを伺う。



(戦勝パーティー、か。そうだわ、この日が良さそうね。)



「わかりました。パーティーの準備をしておきますね。」



にっこりと笑顔を返す。

怪しまれない様になるべく自然に見えるように。



「はい、よろしくお願いいたします。」



エトワール卿はほっとしたようにその場を立ち去った。

どうやら上手く誤魔化せたようだ。



私はそのエトワール卿の背中を見送ってから自分の部屋へと向かう。


すれ違う使用人たちは今日も私を無視する。

人によっては悪口を言ってくるのもいつもの光景だ。


寧ろ都合がいい。

私の計画を邪魔する人がいては迷惑だから。


半端な優しさなどいらない。

私が欲しいのは彼らの愚かさと残忍さなのだから。


私は口元に笑みを浮かべ、これからの事について考えた。



──



「ねえ、あなた。マーサと言うメイドを呼んでくれない?」



夕食時。

私はいつも部屋で食事を摂る。

流石に食事を配膳するのは私一人ではできないので、この時だけはメイドにやってもらっていた。


いつもは何も喋らない私が急に話しかけたことに驚いたのだろう。

メイドは動きを止め、こちらを怪訝な顔で見つめて来た。



「マーサですか?」


「ええ、そうよ。」


「失礼ですが、私たちは忙しいのです。そのような希望をお聞きする暇などございません。」



相変わらず失礼な態度だ。

そんなこと言って自分に返ってくるとは思わないのがいっそ清々しい。



「あなた、そんな事言って良いと思ってるの?私が優しくしているうちに言う事を聞いといた方が良いわよ。」


「どういう意味ですか?」



私が不敵に笑うものだから彼女の警戒心が高まる。



「せっかくあなたにチャンスをあげたのに、残念ね。」


「は、だから何…。」


「これ、食べなさい。」



混乱しているメイドに今しがた持ってきてもらった食事を指さす。

一見、何の問題もない美味しそうな食事だ。


そう、見た目だけは。



「!それは、イヴェット様のお食事です。私などが召し上がるなど…。」


「私、今日はもう食事をする気分じゃないのよ。手を付けていないし問題ないわ。」


「で、ですが…。」



メイドが躊躇う理由は知っている。

だってその原因を作っているのが彼女たちなのだから。



「しょうがないわね。」



メイドは何を言っても動こうとはしなかった。

なので埒が明かないと思った私は親切にも彼女の口へ食事を運んであげようとした。



「イ、イヴェット様何を…!?」



私は嫌がるメイドを無視してスプーンを傾ける。

逃げそうにしていたのでもう片方の手を彼女の顎に手をかけて逃げられないよう固定した。

無理やりに口へ突っ込んだ食事は静かに入っていく。



「う、ゲホッゲホッ。おえ…。」



その直後。メイドは膝から崩れ落ちその場で嘔吐き始めた。

どうやら口の中に入った食事を吐き出そうとしている様だった。


私はその様子を静かに見守る。

こうなる事は想定済みだ。



「イヴェット、様…。」



メイドは何が起きたのかわからないといった風にこちらを見上げる。

吐いたからか目には涙が溜まっており、その奥には少しの恐怖が見て取れた。



「美味しかったかしら?腐った食事は。」


「…!」



私が穏やかに笑うとメイドは顔を青褪めさせた。

体がガクガクと震えているのがわかる。


何を今さら怖がっているのだろうか。

こんな事をしでかしたのは自分たちだと言うのに。


運ばれてくる食事がまともだったことは無い。

砂が入れられていたり、乾燥した固いパンだったり。

今日のように腐った食材が使われているのだって珍しくはない。


裏で私を馬鹿にしてこんな嫌がらせをしてくるくせに。

いざ自分の身に降りかかると何もできなくなるなんて。



「これ以上、食べたくなければ早くマーサを呼びなさい。呼ばないのならこの食事を食べ終えるまでここに居てもらうわ。これよりももっと酷いことされたくなければ私に従う事ね。」


「!は、はい。直ちにマーサをお呼びします!」



私の気迫にこれが冗談ではないことを悟ったのだろう。

メイドは顔が青いまま、急いで部屋を飛び出していった。


あの調子だと命令通りマーサを連れてくるだろう。



私はその様子を見て、肩の力が抜けていくのを感じた。

今までやられっぱなしでいたけれども、こんなに簡単に解決できたものだったのかと拍子抜けだ。



(今までは殿下に嫌われるのが怖くて大人しくしていたけれども…。もう、関係ないわ。)



私がいくら頑張ってもどうせ彼は私に振り向くことは無い。

こんな無謀な努力などもう関係ないのだ。


私は初めてやり返せたという達成感に浸った。



──



「私をお呼びと聞きました。」



それからすぐの事。

マーサが私の部屋を訪れた。


あのメイドはよほど私を恐れているのか。

マーサが来るまでそんなに時間はかからなかった。


久しぶりに見るマーサの顔。

彼女の顔を見ても私の決心が揺らぐことは無い。



今まで私は自分を殺した人たちを遠ざけるだけだった。

関わりを持たなければ、私が恨まれることは無い。

実際に、それだけで死因は変わったのだから間違いではなかったのだろう。


でも、やはり許せなかった。

いつか自分の手で彼らに復讐できたらと、そう考えていた。


それができなかったのは殿下の存在があったから。


でも今はそれすらもどうでも良くなった。



「良かった。あなたを待っていたの。」



私の復讐は始まったばかりだ。

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