表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/28

洞窟の奥でずっと

 カルミナの言うように、洞窟はほどんど直進だったので、迷うことはなかった。そして、洞窟の奥に辿り着いた俺達が見たものは。


「広い空間だね。あの狭い入り口からは考えられなかったよ」

「ええ。そして、今そこによくわからない奴が座っているところに、リザードソルジャーは座っていたわ」

「よくわからないとは失礼な奴だな」


 天井にぽっかりと空いた穴から差込み、太陽の日差し。その太陽の日差しが差し込んでいるところには、台座のようなものがあり、そこにローブで全身を包み込んだよくわからん奴が座っていた。


「洞窟の王様気取りか? それにしては、配下の一人もいないようだが」

「くっくっく、王などと小さき存在になど興味は無い」

「なに? 貴様、魔王様を愚弄するつもりか?」


 魔族の王たるクルルベルを馬鹿にしていると思ったシルムは、ローブを睨みつける。それに対して、ローブは面白がっているのは、口元をにやりと歪ませる。


「その通りだとも! 王など所詮は、下等な存在! 私がなりたいのは、神!! なのだからなぁ!!」

「もしかして、どこかの信徒さんなんでしょうか?」

「それ、ありえるかも。神様を崇めるあまり、自分が神様になってやるー! とか言い出した口だよあれ」


 もしくは、特別な能力を持っているがゆえに、周りに人達から崇められるようになってとか。まあ、何はともあれ、どうやらバッカスの姿はないようだ。

 居るのは、神になりたいとほざいている狂信者のみ。はずれ、というのは早計か。もしかしたら、あの狂信者がバッカスの居場所を知っているかもしれないからな。そうでなくとも関係性はあるはずだ。なければ、こんな何も無い洞窟に居る理由がわからない。

 しかも、明らかに洞窟に入った瞬間に、こっちに来いとばかりに邪気を放ってきたからな。


「で? その神様になりたいという貴様は、ここで何をしていた?」


 切り込んだのは、シルムだった。

 その問いに、ローブは待ってましたと言わんばかりに、高笑いを止めて、語り出す。


「貴様らを待っていたのだよ。貴様らの目的は、勇者バッカスであろうからな」

「やっぱり、あの馬鹿のことを知ってるみたいだな」

「バッカスさんはどこですか!」

「そう焦るな、ヒーラーの小娘よ。言っておくが、勇者はもうここには居ないぞ? 我が主が、他のところへ連れて行ってしまったからな」


 主? じゃあ、こいつはただの使い走りってことか。いや、ここで待っていたから走ってはいないけど。

 というか。


「なんだお前。もしかして、俺達のことをずーっとここで待ってたわけ?」

「そうだが?」


 当たり前かのように答える名も知らぬローブに、俺達は哀れみの目で見詰める。その視線に気づいたローブは、さすがに取り乱したようで。


「な、なんだその哀れむような目は!?」

「だってさぁ」

「ねえ?」

「そう、ですね」

「さ、寂しくなかったですか? ずっと洞窟の中で一人で」


 敵かもしれないのに、優しい言葉をかけるお優しい魔王クルルベル様。しかし、シルムはいけませんと彼女を制す。


「奴は、敵です。そのような優しいお言葉をかける必要などありません」

「そうよ。むしろ壮大に褒めてあげましょうよ。主様の使いで、あたし達のことをずっと待っていたその忠義をね」

「よく頑張ってね! ローブの人!!」

「ご苦労様です。ローブさん」

「いい根性してるじゃんか。ずーっと待っててくれたんだよな……ローブ」

「何なのだ貴様ら。なぜ、いきなり私を褒める!? いったいどんな作戦を企てている!?」


 急に褒められたせいか、ローブは俺達の事を怪しんでいる。別に動揺させうようとは思っておらず、素直にすげぇなって思ったなのだ。

 主に言われたとはいえ、ずっとこんな洞窟で一人待ってたんだからな。昨日、俺達が馬車で移動していた時も、カルミナと出会った時も……ずっと。おそらく俺達が来た時、どんなことを話してやろうかとか、どんな風に自分が居ることを知らせようかとか、一人でめっちゃ考えてたんだろう。


「それで? その主様からは、俺達をどうしろって言われてるんだ?」

「ふ、ふん。知れたことよ。勇者を探している貴様らを、ここで足止め。いや、殺せと命じられた!!」

「なんだか普通ですね」

「だねー。もうちょっと捻りのあることを言ってくれると思ってたのにぃ」

「た、例えばどんなことですか?」


 クルルベルには、その捻ったことというのがわからないようなので、エルカがそうだなぁっとしばらく思考した後、こう答える。


「貴様らと洞窟でかくれんぼをしろと命じられたのだ! とか」

「何を言っているんだ? 貴様」

「かくれんぼですかぁ。いいですね。人数が多いから、すごく楽しそうです」

「魔界に居た時は、よく魔王城でやっていたものですね……」


 魔王城で何をやってるんだろう、この魔族達は。さて、若干和んだところで、そろそろ真面目に行こうか。


「俺達の命を奪う、か。できるのか? お前一人で。言っておくが、こっちは手加減なんてできねぇぞ?」

「魔王様だって居るんだぞー!!」

「人数的には、圧倒的です!」

「ふふん、観念したほうがいいんじゃない?」


 さて、これで怯んで撤退してくれるならいいのだが。


「くははははは!! 馬鹿め! 貴様らが、大人数で来ることなど想定済みよ! そのために、私は主様から力を授かったのだからなぁ! こいつを使えば、神にもちか」

「《エクスプロージョン波》!!」

「ぐああああっ!?」


 何かを取り出したが、エルカの容赦のない先制攻撃に、吹き飛ぶローブ。台座は粉々に砕け、ローブはずっと奥にある壁にめり込んでいた。

 先ほど放ったのは、爆裂魔法の《エクスプロージョン》という上級魔法を、エルカがエルカだけの魔法として生み出したオリジナルの魔法だ。爆裂魔法特有の爆発力を波動として集束させ、打ち出す。攻撃範囲は狭いが、威力は何倍にも跳ね上がっている。そんなエクスプロージョン波の直撃を食らっても、壁にめり込む程度で済むとは、言うだけはあるな。


「あわわわ!?」

「き、貴様。容赦ないな」


 これには、シルムもかなり動揺しているようだ。


「いやぁ、あたしの父ちゃんがさ。話の長い奴はとりあえず無視しろ! 長ったらしい口上など、魔法で打ち砕け!! って言い聞かせられてたんだよねぇ」

「まあ、あのまま放置していたら、絶対何かをしようとしてたな」

「未然にそれを防ぐ意味では、先制攻撃が一番ですが……エクスプロージョン波を洞窟のような狭いところで使うのは、危ないんじゃ」

「大丈夫大丈夫! 普通のエクスプロージョンよりも、攻撃範囲は狭いから! あたしのは、貫通力と魔法攻撃力に全てかけてるやつだから!!」


 エルカの言う通り、周りへの被害は軽微だ。壊れたのは、ローブが座っていた台座に、壁だけ。とはいえ、この先制攻撃で倒せなかったのは、予想外だったな。

 ローブは、気絶もしておらず、壁からなんとか這い出てくる。


「き、貴様ら……話は、最後まで聞くものだぞ」

「そんなことしてたら、あんた絶対何かしてたでしょ? こっちは、あんたに長々と付き合ってる暇は無いのよ。さっさと、あの馬鹿勇者を探しに行かないといけないし。だから、ほら。さっさと行き先を教えなさい。そうしたら、半殺しで勘弁してあげるわ」

「わー、カルミナってばやさしー」

「ふふん! でしょ? これには先輩も、感心してるようね」


 だが、エクスプロージョン波をもろに受けたのに、まだ動けるとなると半殺しでは、すぐ復活してしまうかもしれない。

 ここは、容赦なく命を奪うのに限るが。


「はっはっはっは!! ならば、このゼルドの全力に勝てれば、貴様らに勇者の行方を教えて……やろう!!」


 あっ、攻撃してきた。

 まるで、エルカのエクスプロージョン波を真似たかのように、邪気を飛ばしてくるローブ。その風圧で、フードが飛び、ようやく素顔を露にする。

 血のように赤い髪の毛に、瞳、そして何よりも目立つのは頭から生えている二本の角。

 

「なんだ、鬼人族だったのか」

「我らを護りたまえ! 光の防壁よ!!」

「さすがは、リーミアだ。護りは完璧だな」

「は、はい。回復と防御はお任せください」


 さてはて、鬼人族ならばエルカのエクスプロージョン波に耐えれたのも納得だ。鬼人族は、人間と同じ形をしているが、頭から角が生えているのが特徴だ。

 そして、人間よりも耐久力に長けており、強度はご覧の通りだ。しかも、それに加えてかなりの怪力ときた。子供でも、人間の大人に勝てるほどに力がすごい。


「んじゃま、二人が頑張ってくれたことだし。俺もやるか」

「よっ! 待ってました!」

「頑張ってください、キリバさん」

「兄貴ー! 頑張ってください!!」

「ゴー! ゴー! 先輩ー!」


 シルム以外の応援を受け、俺はやる気全開。一人、前に出てローブ……いや、ゼルドを見詰める。


「さあ、今のが全力じゃねぇだろ?」

「当たり前だ。この闇の宝玉に秘められし、魔力で!! 私の力は、まだまだ上がる!! 見るがいい!!」


 ゼルドが右手に持っている闇の宝玉という球体が、どす黒いオーラを放ち、ゼルドを包み込み。すると、奴の体からなにやら模様のようなものが浮き出てきたではない。

 おー、あれが闇の宝玉とやらの力か。確かに、さっきまでとは比べ物にならないぐらい強くなってるな。だけど……俺の敵じゃないない。

 にやりと笑みを浮かべ、俺は呟く。


「神衣展開。砲撃神武装、チュルメX!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=632204511&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ