洞窟の奥でずっと
カルミナの言うように、洞窟はほどんど直進だったので、迷うことはなかった。そして、洞窟の奥に辿り着いた俺達が見たものは。
「広い空間だね。あの狭い入り口からは考えられなかったよ」
「ええ。そして、今そこによくわからない奴が座っているところに、リザードソルジャーは座っていたわ」
「よくわからないとは失礼な奴だな」
天井にぽっかりと空いた穴から差込み、太陽の日差し。その太陽の日差しが差し込んでいるところには、台座のようなものがあり、そこにローブで全身を包み込んだよくわからん奴が座っていた。
「洞窟の王様気取りか? それにしては、配下の一人もいないようだが」
「くっくっく、王などと小さき存在になど興味は無い」
「なに? 貴様、魔王様を愚弄するつもりか?」
魔族の王たるクルルベルを馬鹿にしていると思ったシルムは、ローブを睨みつける。それに対して、ローブは面白がっているのは、口元をにやりと歪ませる。
「その通りだとも! 王など所詮は、下等な存在! 私がなりたいのは、神!! なのだからなぁ!!」
「もしかして、どこかの信徒さんなんでしょうか?」
「それ、ありえるかも。神様を崇めるあまり、自分が神様になってやるー! とか言い出した口だよあれ」
もしくは、特別な能力を持っているがゆえに、周りに人達から崇められるようになってとか。まあ、何はともあれ、どうやらバッカスの姿はないようだ。
居るのは、神になりたいとほざいている狂信者のみ。はずれ、というのは早計か。もしかしたら、あの狂信者がバッカスの居場所を知っているかもしれないからな。そうでなくとも関係性はあるはずだ。なければ、こんな何も無い洞窟に居る理由がわからない。
しかも、明らかに洞窟に入った瞬間に、こっちに来いとばかりに邪気を放ってきたからな。
「で? その神様になりたいという貴様は、ここで何をしていた?」
切り込んだのは、シルムだった。
その問いに、ローブは待ってましたと言わんばかりに、高笑いを止めて、語り出す。
「貴様らを待っていたのだよ。貴様らの目的は、勇者バッカスであろうからな」
「やっぱり、あの馬鹿のことを知ってるみたいだな」
「バッカスさんはどこですか!」
「そう焦るな、ヒーラーの小娘よ。言っておくが、勇者はもうここには居ないぞ? 我が主が、他のところへ連れて行ってしまったからな」
主? じゃあ、こいつはただの使い走りってことか。いや、ここで待っていたから走ってはいないけど。
というか。
「なんだお前。もしかして、俺達のことをずーっとここで待ってたわけ?」
「そうだが?」
当たり前かのように答える名も知らぬローブに、俺達は哀れみの目で見詰める。その視線に気づいたローブは、さすがに取り乱したようで。
「な、なんだその哀れむような目は!?」
「だってさぁ」
「ねえ?」
「そう、ですね」
「さ、寂しくなかったですか? ずっと洞窟の中で一人で」
敵かもしれないのに、優しい言葉をかけるお優しい魔王クルルベル様。しかし、シルムはいけませんと彼女を制す。
「奴は、敵です。そのような優しいお言葉をかける必要などありません」
「そうよ。むしろ壮大に褒めてあげましょうよ。主様の使いで、あたし達のことをずっと待っていたその忠義をね」
「よく頑張ってね! ローブの人!!」
「ご苦労様です。ローブさん」
「いい根性してるじゃんか。ずーっと待っててくれたんだよな……ローブ」
「何なのだ貴様ら。なぜ、いきなり私を褒める!? いったいどんな作戦を企てている!?」
急に褒められたせいか、ローブは俺達の事を怪しんでいる。別に動揺させうようとは思っておらず、素直にすげぇなって思ったなのだ。
主に言われたとはいえ、ずっとこんな洞窟で一人待ってたんだからな。昨日、俺達が馬車で移動していた時も、カルミナと出会った時も……ずっと。おそらく俺達が来た時、どんなことを話してやろうかとか、どんな風に自分が居ることを知らせようかとか、一人でめっちゃ考えてたんだろう。
「それで? その主様からは、俺達をどうしろって言われてるんだ?」
「ふ、ふん。知れたことよ。勇者を探している貴様らを、ここで足止め。いや、殺せと命じられた!!」
「なんだか普通ですね」
「だねー。もうちょっと捻りのあることを言ってくれると思ってたのにぃ」
「た、例えばどんなことですか?」
クルルベルには、その捻ったことというのがわからないようなので、エルカがそうだなぁっとしばらく思考した後、こう答える。
「貴様らと洞窟でかくれんぼをしろと命じられたのだ! とか」
「何を言っているんだ? 貴様」
「かくれんぼですかぁ。いいですね。人数が多いから、すごく楽しそうです」
「魔界に居た時は、よく魔王城でやっていたものですね……」
魔王城で何をやってるんだろう、この魔族達は。さて、若干和んだところで、そろそろ真面目に行こうか。
「俺達の命を奪う、か。できるのか? お前一人で。言っておくが、こっちは手加減なんてできねぇぞ?」
「魔王様だって居るんだぞー!!」
「人数的には、圧倒的です!」
「ふふん、観念したほうがいいんじゃない?」
さて、これで怯んで撤退してくれるならいいのだが。
「くははははは!! 馬鹿め! 貴様らが、大人数で来ることなど想定済みよ! そのために、私は主様から力を授かったのだからなぁ! こいつを使えば、神にもちか」
「《エクスプロージョン波》!!」
「ぐああああっ!?」
何かを取り出したが、エルカの容赦のない先制攻撃に、吹き飛ぶローブ。台座は粉々に砕け、ローブはずっと奥にある壁にめり込んでいた。
先ほど放ったのは、爆裂魔法の《エクスプロージョン》という上級魔法を、エルカがエルカだけの魔法として生み出したオリジナルの魔法だ。爆裂魔法特有の爆発力を波動として集束させ、打ち出す。攻撃範囲は狭いが、威力は何倍にも跳ね上がっている。そんなエクスプロージョン波の直撃を食らっても、壁にめり込む程度で済むとは、言うだけはあるな。
「あわわわ!?」
「き、貴様。容赦ないな」
これには、シルムもかなり動揺しているようだ。
「いやぁ、あたしの父ちゃんがさ。話の長い奴はとりあえず無視しろ! 長ったらしい口上など、魔法で打ち砕け!! って言い聞かせられてたんだよねぇ」
「まあ、あのまま放置していたら、絶対何かをしようとしてたな」
「未然にそれを防ぐ意味では、先制攻撃が一番ですが……エクスプロージョン波を洞窟のような狭いところで使うのは、危ないんじゃ」
「大丈夫大丈夫! 普通のエクスプロージョンよりも、攻撃範囲は狭いから! あたしのは、貫通力と魔法攻撃力に全てかけてるやつだから!!」
エルカの言う通り、周りへの被害は軽微だ。壊れたのは、ローブが座っていた台座に、壁だけ。とはいえ、この先制攻撃で倒せなかったのは、予想外だったな。
ローブは、気絶もしておらず、壁からなんとか這い出てくる。
「き、貴様ら……話は、最後まで聞くものだぞ」
「そんなことしてたら、あんた絶対何かしてたでしょ? こっちは、あんたに長々と付き合ってる暇は無いのよ。さっさと、あの馬鹿勇者を探しに行かないといけないし。だから、ほら。さっさと行き先を教えなさい。そうしたら、半殺しで勘弁してあげるわ」
「わー、カルミナってばやさしー」
「ふふん! でしょ? これには先輩も、感心してるようね」
だが、エクスプロージョン波をもろに受けたのに、まだ動けるとなると半殺しでは、すぐ復活してしまうかもしれない。
ここは、容赦なく命を奪うのに限るが。
「はっはっはっは!! ならば、このゼルドの全力に勝てれば、貴様らに勇者の行方を教えて……やろう!!」
あっ、攻撃してきた。
まるで、エルカのエクスプロージョン波を真似たかのように、邪気を飛ばしてくるローブ。その風圧で、フードが飛び、ようやく素顔を露にする。
血のように赤い髪の毛に、瞳、そして何よりも目立つのは頭から生えている二本の角。
「なんだ、鬼人族だったのか」
「我らを護りたまえ! 光の防壁よ!!」
「さすがは、リーミアだ。護りは完璧だな」
「は、はい。回復と防御はお任せください」
さてはて、鬼人族ならばエルカのエクスプロージョン波に耐えれたのも納得だ。鬼人族は、人間と同じ形をしているが、頭から角が生えているのが特徴だ。
そして、人間よりも耐久力に長けており、強度はご覧の通りだ。しかも、それに加えてかなりの怪力ときた。子供でも、人間の大人に勝てるほどに力がすごい。
「んじゃま、二人が頑張ってくれたことだし。俺もやるか」
「よっ! 待ってました!」
「頑張ってください、キリバさん」
「兄貴ー! 頑張ってください!!」
「ゴー! ゴー! 先輩ー!」
シルム以外の応援を受け、俺はやる気全開。一人、前に出てローブ……いや、ゼルドを見詰める。
「さあ、今のが全力じゃねぇだろ?」
「当たり前だ。この闇の宝玉に秘められし、魔力で!! 私の力は、まだまだ上がる!! 見るがいい!!」
ゼルドが右手に持っている闇の宝玉という球体が、どす黒いオーラを放ち、ゼルドを包み込み。すると、奴の体からなにやら模様のようなものが浮き出てきたではない。
おー、あれが闇の宝玉とやらの力か。確かに、さっきまでとは比べ物にならないぐらい強くなってるな。だけど……俺の敵じゃないない。
にやりと笑みを浮かべ、俺は呟く。
「神衣展開。砲撃神武装、チュルメX!!」