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殺しあいを始めよう

ちょっと短め。

 最初に出会った場所。

 黒く染まっていて、問題になっていたあの森にてカトレは待っている。エルカ達もついてくると言っていたのだが、俺が一人で行くと王都に残してきた。


 念のためなんだ。

 俺がいない間に、王都が狙われるんじゃないかと考えてな。あれから、あのゼルドや名の知らないローブの動きがまったくない。

 もしかしたら、俺がカトレと会っている間に、あの二人に王都を狙わせる作戦なんじゃないとか。まあ、王都にはママが居るから何かがあっても大丈夫だろうけど、念のためだ。それに、カトレは俺だけに用事があるみたいだからな。ラブレターを渡されたからには、一人で行くのが常識ってものだろ。相手は男だけど。


「にしても、随分とマナも豊かになったな」


 あれから、まだそんなに経っていないのに。これも、俺が倒れそうになるまで、マナを分け与えたおかげだよな、うんうん。


「さて、と」


 到着した。カトレが待ってるはずの中央にある広々とした空間。隠れることなく、俺は堂々と正面から出て行く。罠がある? 大丈夫だ、破ればいい。いきなりの先制攻撃? 大丈夫、跳ね返せばいいだけだ。


「一人できたんだね。まあ、当然か」

「告白の返事をしに来たぜ」


 しかし、カトレは中央にどんと構えていた。


「そうかい。それで? 僕の告白、受けてくれるのかな?」


 俺の軽口に、乗ってくれたようだ。俺は、肩をすくめカトレに言ってやった。


「断る。俺は、簡単に死ぬわけにはいかないんだよ」

「まあ、そう言うと思ってたよ。だったら、無理やりにでもその命、奪わせてもらうから。当初の予定通り」


 告白を断られ、落ち込む様子もなくカトレはあの時の黒いナイフを取り出す。俺も、いつでもどんな攻撃にも対処できるように受身の態勢をとりつつも、周りを見渡した。

 ゼルド達の気配は、ないようだな。

 そんな俺の行動を見て、カトレは小さく笑う。


「安心してなよ。彼らならいないよ。いや、正確には居るけどね」

「どういうことだ?」

「……こういうことだよ」


 ナイフを持っていない左手で、魔力の糸を五本の指から出現させる。その糸は、突然出現した渦の中へと入っていく。


「人形?」


 そして、渦の中から出てきたのは魔力の糸に繋がった人形だった。目や鼻、口もなく、服も着ていない。ただの木製人形。それを器用に糸で操りながら、俺に見せ付けている。


「君、ここに来る前に氷山で、変な鎧と戦ったよね?」

「ああ。……なるほど、そういうことか。ゼルドの奴も、あのローブも、全部お前の操り人形だったってことか」

「そういうこと。僕、ずっと一人だったから、人形遊び好きだったんだ。こうして、友達を作れるからね」

「人形遊びもいいけど。本物の友達も作れよ」

「必要ないよ。僕に本物の友達なんて必要ないんだから」


 そう、どこか寂しそうな瞳で呟く。

 ……何かあったんだな、ここに来るまで。でも、今はそれについて考えるている余裕はない。今は、俺を殺そうとしている敵を何とかしないとな。


「まったく……そういう強がりは、感心しねぇぞ?」

「別にいいじゃないか。今、重要なのは」

「お?」


 あの渦が出現し、カトレを包み込み姿を消す。


「生か死か、だよ」

「ま、その通りだけださ」


 背後に回りこまれた。その一瞬の内に、ナイフを素早く俺の首下に差し込もうとする。


「暗殺をしたいなら、声と殺気は抑えたほうがいいぞ?」


 しかし、俺は指先で刃を挟み容易に止める。


「ご教授どうも。暗殺は、僕の得意とするものじゃないから助かるよ」

「じゃあ、お前の得意とすることってのは?」


 一度距離を取ったカトレは、黒いナイフを深く地面に突き刺す。

 刹那。

 巨大な魔方陣が展開。カトレは、笑みを浮かべ一気にナイフを……いや、巨大化した武器を拭き抜いた。身の丈よりも、倍以上はあろう黒く太く、長い大剣。低い身長と、細い腕からは考えられない迫力だ。


「真正面からの切り込みだよ」

「そういうの、俺は好きだぜ。そんじゃ、俺も」

 

 リミッターの第一を解放し、神力を放出。それを己の身に纏わせ、形にしていく。


「さあ、いくぜ。チュルメG……大剣抜刀」


 近接戦闘用の鎧を身に纏い、カトレと戦うため大剣を抜刀。カトレの武器とは正反対の白き刃で、対峙する。


「じゃあ、思いっきりいこうか」

「おうよ。全力で、俺の命奪いに来いよ」

「言われなくても!」


 大地を深く、強く踏む込み、大剣を持っているとは思えないほどの爆発的な突進をしてくる。


「はあっ!!」

「らっ!!」


 振り下ろされた一刀を、俺は真下から弾く。容易にその小さな体は吹き飛び、俺は追撃とお返しとばかりに上段から大剣を振り下ろした。


「甘いよ」


 俺と同じく弾くか、受け流すかすると思ったが、大剣をナイフへと一瞬にして戻し、回避する。


「やるじゃねぇか。それ、大きさは自由自在ってところか?」

「ただ力を封印しただけ。大剣は元の姿にところだね」


 そう律儀に説明しつつも、また大剣へと戻す。


「それいいな。俺もやってみるか」

「え?」


 カトレの真似をし、俺は大剣をナイフへと一瞬にして変化させる。


「どうだ?」

「僕を挑発してるのかい?」

「だとしたら?」

「……いいよ、乗ってあげる」


 それはどうも。俺は、再び大剣に戻し、突撃していく。


「ところで、聞きたいんだが」

「なに?」


 刃と刃のぶつかり合いの中、俺はのん気にカトレへと問いかける。


「なんで、俺のことを殺そうとしてるんだ? 俺、お前に恨まれるようなことはしてないと思うんだが」

「よく言うよ。次々に、僕の邪魔をしておいて」


 それは仕方ないことなんだ。俺が俺の役目なんだからな。


「じゃあ、邪魔をされたからその逆恨みってところか? 子供だなぁ」

「子供だから、問題ないんだよ」

「お前、何歳だよ?」

「八十五歳だけど?」


 それで、子供なのか。魔族ってのは、恐ろしいな。ま、俺も神人だから、普通の人間よりはかなりというか永遠に近いほど生きられるんだがな。


「じゃあ、そんな子供には、大人からのお仕置きをしないといけねぇな!!」

「やれるものならやってみなよ。逆に、君の命を奪ってあげるからさ!」


 残念だが、俺は死ぬわけにはいかないんだ。ちゃっちゃとお前のことを止めて、仲間のところへ戻らせえてもらうぞ。

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