死の手紙
「むー、やっぱり神が住んでるところ。簡単にはいかないか」
「わかっててやったの?」
「もしかしたらってこともありますし。まあ、こうなったら仕方ない。こうなったら」
どうやら相手も攻撃が通らないことは承知のうえだったようだ。そして、その後の対処法もあるらしく、ナイフを一度仕舞う。
そして、取り出したのは見覚えのあるものだった。
「それが、噂の闇の力を閉じ込めた宝玉ってやつかな?」
「そうです。でも、噂のものとはまったくの別物。噂のものがレプリカだとすれば、これは本物」
確かに、ゼルド達が使っていたものとはまったく波動の強さが違う。
「それをどうするつもり?」
「こうするんです」
闇の力が溜まった宝玉を先ほど防いだ見えない壁に近づける。すると、闇が溢れ出し、壁を侵食していくではないか。
「……この力って」
「そう。あなたならご存知のはず。これは……我が魔界の創造神の力です」
「うおっ!?」
「おっと」
壁は破られ、バッカスがローブに奪われようとしたところで、ママが咄嗟に下げたことで、なんとか奪われずにすんだ。しかし、ママの張った結界をまさか破るとは……。
いや、魔界の創造神の力なら。それにしても、やっぱりという何というか。魔界が関わっていたか。
「アファロアか……まったくもう! お姉ちゃんにまだたてつくんだね! 今月の勝負は、勝ったはずなのに!!」
「今月の勝負? 何のことはわかりませんが、もう結界は効きません。さあ、勇者をよこしてください」
「おっと、これ以上は通行止めだ」
家の中に入ろうとしたので、俺は後ろでの傍観を止めて前に出る。こうして、近くで見ると本当に小さいなこいつ。
「君は、キリバだったね。まだ僕の邪魔をするっていうのかい?」
「当たり前だ。こいつは、馬鹿で女好きで、どうしようもない馬鹿だが」
「おい、馬鹿って二回言ったなお前」
今はそんなことは些細なことだ。後ろで、ツッコミを入れてくるバッカスを放っておき、俺は言葉を続ける。
「悪い奴じゃない。一緒に居ると疲れるが、退屈はしない。もう俺は追放されてる身だが、敵だとは思ってねぇんだ。敵じゃない限り、俺はこいつの味方だ。それが、ママとの約束だからな」
「さすが我が愛すべき子!! かっこいいぞー!!」
「うんうん。痺れるほどのかっこよさだね!」
「キリバさん。私達も、同じ気持ちです。一緒にバッカスさんを守りましょう!」
と、エルカとリーミアも俺の両脇に並び、武器を構える。
「あれが、友情というものか」
「いいものだね、ああいう関係。私も、いつかは」
ん? 視線が俺達じゃなくて、後ろ? バッカス……でもなく、これはクルルベルにか。
「魔王クルルベル」
「えっと、何でしょうか?」
「お久しぶり、と言っておくね。僕のこと、覚えてるかな?」
魔界からの使者ってことは、クルルベルのことを知っていると予想していたが、知り合いだったか。ローブは、ついにフードを脱ぐ。
その下にあった素顔は、幼い子供。眠そうなのか、若干半開きの赤い瞳に白銀の髪の毛。何よりも目立つのは、右側の顔に刻まれてる模様。普通の模様じゃないな、あれは。もしかすると特殊な術式なのかもしれない。
「あ、あなたは!?」
「素顔を見てようやく思い出してくれたようだね」
「くるちゃん、あのちびっ子知ってるの?」
「はい。魔界に居た頃、何度も出会ってます。……西大陸の覇者。魔王とはまた違った勢力の頂点の一人です。その名を、銀翼のカトレ」
銀翼のカトレか……銀翼にしては、銀色の翼はないな。ただ隠しているだけなのか、それともものの例えなのか。どちらにしろ、二つ名があるくらいってことは相当強いんだろうな。
「そう、カトレ。自己紹介もしたことだし、はい」
「なんだこれ?」
自己紹介を終えたカトレは、俺にハートのシールの手紙を渡してきた。
「ラブレターだよ」
「誰に?」
「君に」
「なにゆえに?」
「君をどうしようもなく殺したいから」
「それって、ラブレターというよりも果たし状っていうか、死の手紙だよな? なんで、ラブレター?」
まったくわからない。俺を殺したいというのはわかる。しかし、なんでそれでラブレター? そして、なぜ堂々と本人に直接渡すのか。
これが魔界に住む者達のやり方ってやつなのか……。
「それじゃあ、僕はこれで一旦失礼するよ。その命、必ず奪うから」
「お、おい!」
逃げようとするので、止めようとするがそれよりも早くカトレはあの渦の中へと消えて行く。
「……なあ、可愛い子分」
「な、なんですか?」
「魔界じゃ、殺したい相手にラブレターを贈るってのが、決まりなのか?」
「は、はい。ラブレターは、魔界では死を宣告する時に渡すものです。その証拠、心臓代わりのハートのシールを貼っていますよね? それは、必ず相手の命を奪ってやるという意思表示なんです」
「そ、それでなんでラブレター?」
「ラブレターって、愛の手紙よね?」
エルカ達の疑問もごもっともだ。殺したい相手に渡すならデスレターとかそういう名前にしたらいいのに。
しかし、クルルベルの説明はまだ続いていた。それを聞いて、俺はあーっと納得する。
「それは、魔界を創ったアファロア様側近のウシュハ様が広めたと聞いています。でも、どうしてラブレターがそのようになったのかは、わからないのですが。すみません」
なるほどな。大方、こっちと同じにしたくなかったとかそういう理由かもな。ちらっと、ママを見ると案の定、頬を膨らませていた。
やっぱりアファロアが関わるとこうなっちゃうか。
「いいって。それよりも、あいつの目的は勇者から俺に移ったようだな。よかったな! バッカス!!」
「お、おう」
「さてはて、問題のラブレター(死の宣告)の中身はっと」
「ちょ、ちょっと気になってたり」
「魔界の手紙は、初めて見ますからね……」
「あんな可愛い女の子からのラブレターだからねぇ、どんなことが書かれてるんのかしら」
どんなことって、十中八九殺してやるとかそういうことだろうな。
「あ、あの」
「どうした?」
クルルベルが何かを言いたそうにしているので、俺達は一斉に視線を向ける。何やらとても言い難そうな感じだ。
「か、カトレは……その」
「あいつは、男だぞ」
「……あー、納得」
「なんで、僕を見て言う」
言い難そうにしていたクルルベルの代わりにシルムが、カトレの正体を明かす。俺も含めた全員が驚くが、シルムを見て俺は納得した。
魔族ってのは、女の子っぽい男が結構居るんだなって。まあ、カトレの場合はまだ小さな子なわけで、発展途上。女の子と間違われるのは仕方ない。だが、シルムにいたっては、完全に成人しているのに……。
「なんでもない」
今は、手紙の中身だ。相手の命と例えているハート型のシールを外し、俺は中に入っている折り畳まれた一枚の紙を取り出す。
そこには、とても短く、そして簡潔にこう書かれていた。
「最初に出会った森で、殺す」
「ひゃー、直球」
「先輩、どうするの?」
どうするもこうするも、俺が行かない限りカトレは絶対、何かしらの行動に起こすはずだ。そうならないためにも。
「ちょっと、愛の告白の返事をしてくるわ」
行くしかないだろ。




