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一瞬で帰ろう

「皆さん! ご無事だったんですね!?」

「はい。ですが、安心してはいられません。私達は、誘き寄せのための餌として使われたんです……!」

「どういうことだい?」


 なんとか歪みの中から行方不明の調査隊を発見し、連れ出した。オルベは、ギルドマスターとして無事だったことに安堵しているが、調査隊のリーダーである女性メイラは、オルベに伝えた。

 自分達は、囮だったと。

 俺達を誘き寄せるための餌だったと……。それを聞いたオルベは、なんてことをしてしまったんだと動揺の色を見せる。しかし、俺はオルベの肩に手を置き彼を落ち着かせた。


「キリバさん?」

「心配するな。これから、すぐバッカスのところへ向かえばいい」

「し、しかし! ここからでは、数日は確実にかかります! その数日の間に、バッカスさんは」

「大丈夫だ。全て俺の任せろって。それよりも、この人達を早く治療させよう。大分闇の力を吸い込んでいる。こっちで、なんとか浄化作業は終わらせたから、後はゆっくりベッドの中で治療を受ければなんとかなるはずだ」

「……わかりました」


 俺の自信溢れる言葉と、今にも意識を失いそうなところをなんとか保っているメイラと意識を完全に失っている仲間を見て、オルベは首を縦に振る。

 そして、彼らを街まで送った後、街から離れた場所で、俺達だけ集まって話し合う。


「それで、どうやって戻るつもりだ? ここから数日もかかる場所へ」


 俺を試しているかのように問いかけるシルムに、俺は簡単だと意識を集中させる。


「神力領域、第二、第三まで解放」


 刹那。


「ふおおお!?」

「な、なんだこの波動は……!?」


 俺から桁違いの神力が溢れ出る。その波動により、注意の雪は舞い、エルカ達も押される。


「あ、兄貴。これは?」


 神力に押される中、クルルベルが問いかけてくるので、俺は溢れ出る神力を放出しつつ説明した。


「俺は普段、神の力を何段階かに分けて封印してるんだ。そのリミッターを二段階解放したんだ」

「そ、それで何をするの?」

「こうするんだ」


 手をかざし、俺は陣を展開。


「この陣は」

「転移陣だ。こいつで、一気に王都へ飛ぶ」

「あ、兄貴。転移魔法を使えたんですか?」

「厳密には魔法じゃないけどな。行くぞ! あの馬鹿勇者を助けに行くぞ!!」


 

・・・・・



 そんなこんなで、王都へと戻ってきた。神力はすぐに封印。ずっと解放し続けていると、世界に影響を与えかねないからな。


「さーて、バッカス達はどこに居るのかなぁ?」

「あの馬鹿なら、ギルドに戻ってるわよ」

「か、カルミナさん? どうしてここに」


 王都内へと直接入るのではなく、外に転移した俺達の前に、キリバと行動を共にしているはずのカルミナが姿を現す。

 まるで、予め来るところがわかっていたかのように。


「あたしは、神人よ? 先輩の尋常じゃない神力が近づいてくるのを察知して、予め待っていたのよ。それで? 先輩が、転移術を使うほどのことが起こっているのかしら」

「ああ。一言で言うと、あの馬鹿がまた狙われてるらしい」

「なるほど、そういうことね。わかったわ、それじゃギルドへ向かいましょう」

「そのつもりだ」


 カルミナと集合した俺達は、バッカスが居るギルドへと向かう。もう襲われているかと思っていたが、どうやら敵はまだ動いていなかったようだ。

 おそらく、俺達を誘い込んで、戻ってくる数日の間に、何かをしようとしていたんだろうが。俺が、転移術を使えることを知っていなかったのが、誤算だったみたいだな。


「リーミアも一緒か?」

「ええ。申し訳ないと思ったけど、バッカスの相手をしてもらってるわ。先輩方が、戻ってくるってわかったからね」

 

 それは、災難だなリーミア。早く戻って安心させないと。


「……」

「クルルベル。今のところは?」

「はい。闇の力は感じません」

「そのまま警戒を続けてくれ。何か感じたら、すぐ俺に」

「はい!」

「魔王様。ご無理をしないように。僕も、微力ながら周囲警戒をします」

「うん、ありがとうシルム」


 王都は、平和そのもの。俺も何度か闇の力というものを知ったため、敏感にはなっている。クルルベルほどではないが、今のところは王都には闇の力はない。

 周囲警戒をしつつ、俺達はギルドへと到着。

 中へ入ると、すぐバッカスを発見した。リーミアに絡みに絡んでおり、彼女も何とか対処をしているようだ。


「おーい、バッカス」

「キリバ? お前、雪国に行ってるはずじゃないのかよ?」


 明らかに、俺に会いたくないような態度で、眉を顰める。そんなキリバの隣で、リーミアは、助かったと安堵した表情を見せていた。


「まさか、依頼を放り出して帰ってきたのか?」

「んなわけねぇだろ、馬鹿。ちゃんと依頼は終わらせてきた。帰還方法は……まあ、今は秘密だ。ほれ、これが依頼完了の証拠だ」


 こっちのギルドに届いた依頼書には、ギルドマスターオルベのサインが書かれている。ちなみに、サインが偽者かどうかははっきりとわかる。

 ギルドマスターのサインは、特殊なペンで書かれており、魔力を当てれば輝く。


「……で? 俺に何の用事だ? まさか、俺のパーティーに戻って来たいとか思って」

「そんなわけないだろ。勝手に追放しておいて、何言ってんだ」

「じゃあ、何なんだよ? 人のパーティーメンバーを連れ回しておいて」

「真面目な話だ。ちょっと席外すぞ」

「……仕方ないな」


 こいつも、そこまで馬鹿じゃない。俺の真剣な空気に何かを察したのか、残っていた飲み物を一気飲みし、俺達の後をついて来る。

 さて、話し合う安全な場所は、どこだろうな……。


「そんで? どこに行くんだよ」

「……よし、こんな時のママだ」

「ママ? ぷふっ! お前、母親のことママ呼びしてるのか?」


 あっちがそう言ってくれって言ってきたんだよ。


「いいの? 迷惑じゃない?」

「大丈夫だって。それに、ママにも知ってもらう必要があるからな」


 てことで、俺の自宅へとやってきたわけだ。バッカスは、安全な場所だと俺に言われてついて来たため、どんなところなのかと想像していたようで。

 そこが、山小屋のような場所だと知り、大丈夫なのかと視線を向けてくる。


「おい、なんだここ」

「俺の自宅」

「まさか、こんな豪華な住宅の中に、山小屋みたいな家があるとはな。お前のママも、これじゃ可哀想だな」

「そうでもないぞ? その証拠に」


 と、ドアに手をかけようとしたところで、突撃してくる気配が気づく。


「おかえりー!!」

「はい、キャッチ!!」

「うおおっ!? な、なんだ!?」


 慣れたように、我が母を受け止める。今回は、吹き飛ばされることもなくキャッチすることができた。


「戻ってくるのに、数日はかかるんじゃなかったの?」

「わかってるくせに、何を」

「まあねー。っと、勇者くんも一緒みたいだね」

「なあ、キリバ。その子は、お前の妹か?」

「あははは。この反応、やっぱりそうなっちゃうよね」

「初対面だと、そうなりますよね。私達もそうでしたし」

「は? お前達、どういうことだ?」


 知らないのは、バッカスだけ。シルムは、今クルルベルがこっそりと教えているようだ。ママの正体に、言葉が出ない様子だ。

 

「話すのは、中に入った後だ。狭いところだが、外よりは安全だから。さっさと入ってくれ」

「どうぞ、どうぞー! 我が家へようこそー!!」


 今から、驚くバッカスの顔を想像するだけ笑みが出てしまう。

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