空間の中の鎧
突然、氷山に現れた歪み。調査へと向かった冒険者達が戻ってこないということで、俺達が呼ばれ、さっそく中へ入ってみたが……。
「不思議な空間だな」
「そうですね。なんだか、色々とぐちゃぐちゃというか、適当というか」
俺達の背後には、まだあの歪みがある。入ったら最後、戻れないということはなさそうだ。試しに、シルムが一度戻ってみたが、普通に出ることができた。
今一度、周りを見渡す。
歪みの中は、色々とぐちゃぐちゃだった。道が逆さまになっていたり、ところどころ歪んでいたり。とにかく、空間の安定性がないと言える。
「もしかしたら、調査隊は、どこかの空間に落ちた可能性があるな」
そして、そのまま戻る術がなくそのままってことかもしれない。とはいえ、この中に入るのはまだ早い。もしかしたら、俺たちももどれなくなってしまう可能性だってある。
「だけど、一度落ちたら戻ってくれないって雰囲気バリバリだよ。そもそも、本当に別空間があるかどうかもわからないし」
エルカの言う通りだ。もしかしたら、あの歪みは別空間に繋がっているのではなく、そのまま物体を分解する力がある……いや、この考えは早計か。こう、周りがぐちゃぐちゃで気持ち悪い感じだから嫌な方向に考えてしまうんだろう、早いところここから出ないとないとな。
「まずは、奥に進む。進みながら、考える。立ち止まってても何も始まらないからな」
「魔王様。足下、お気をつけくださいね」
「うん、シルムもね。できるだけ一列になって」
道がそれだけ狭いということだ。二人ならば大丈夫だが、三人だと少し足りない。無理に並んで進めば、足を踏み外してそのまま落下してしまう恐れがある。
なので、俺が先頭。その後ろがエルカ、クルルベルときて、最後尾がシルムとなる。一歩一歩慎重に、足下を確認しつつ進んでいく。
「魔物とかは、出てこないのかな?」
「どうだろうな。ここだけの魔物ってのも居るかもしれない」
「もしかしたら、そいつらに調査隊の奴らはやられたかもしれないしな」
「シルム、そういうこと言っちゃだめだよ?」
「申し訳ありません。ですが、可能性としてはありえることだと思いまして」
確かに、シルムの言っていることはわからなくもない。もし、この空間だけに住み着いている魔物が居て、調査隊がそいつらにやられた、ということもある。
どちらにしろ、こういう謎の空間の中だと、最悪の状況は考慮しておかないとな。
「おっと、分かれ道だね」
「……こっちから闇の力を感じます」
そう言って、クルルベルは右方向を指す。
「よし、可愛い子分を信じて右に進むぞ」
「何度も言ってるだろ? 貴様の子分などではない。可愛いのは、否定しないがな」
「お前もいい加減認めろよ。もうこいつは、俺の子分なんだぜ?」
「ひゃっ!?」
と、俺は見せ付けるようにクルルベルを抱き寄せる。案の定、シルムが眉間にしわを寄せ、剣に手を添える。
「貴様! 魔王様に気安く触れるな!!」
「し、シルム。私は、大丈夫だから」
「いえ! そんな奴に触れられたら、魔王様が汚れてしまいます!!」
「おいおい。人を、汚染物みたいに言うなよ。ちゃんと体は毎日洗ってるぞ?」
「そういう意味ではない! 僕が言いたいのは……話は後だ」
突然シルムが静かになった理由は、何かがこちらに急接近してくるからだ。そう、クルルベルが指し示した方向から。
そして。
「おっと!」
「いきなり足場が……!」
細い足場が、突然変化する。
円形状のまるで、戦いのフィールドかのように。俺達は、ならばとどこから来てもいいように円形に並んで構える。
「消えた、のかな?」
「いいえ……シルム!!」
「はい!!」
一瞬、気配が消えた。しかし、すぐクルルベルが気配を察知し、シルムへと指示する。シルムは、すぐに剣を抜刀し、何も無いところへと切りかかる。
「ちっ! すみません、逃しました!!」
「心配するな!! おらぁ!!」
シルムの攻撃は外れたが、すぐ俺が気配を追い、先回り。剣を取り出すのもめんどうだったので、拳で殴った。手ごたえはあり、地面に叩きつけられる音が鳴り響き、砂煙は舞う。
「しっ!」
「くっ! まさか、貴様にフォローされるとは!」
「気にするなって、子分の子分は、兄貴がフォローしてやらないとな」
「誰が子分だ!」
「まあまあ。喧嘩は後々。それよりも……」
仲裁しつつもエルカは、何かが落ちたところを睨む。俺達も、すぐに言い争いを止めて、同じところを睨んだところ。
「……」
「なんだあれ」
「鎧?」
無言で立ち上がる巨体。そいつは、三メートルは超えている鋼鉄のフルプレートの鎧。なので、いったい誰なのかがわからない。
しかし、俺でもわかる。あいつから闇の力が出ているということは。
「ねえ、君いったい何者?」
「……」
エルカが問いかけるが無言のままだ。喋らないのか、それとも喋れないのか。
「あの! ここに私達の他に数人居るはずなんですが。ご存じないですか?」
「……」
クルルベルの問いかけにも無言だ。
「おい貴様! 魔王様の質問に答えぬか!!」
と、シルムが剣を突きつけたところ、返事をする代わりに背負っていた大剣を抜刀する。まさか、こちらから攻撃しない限り、無害だったってことなのか? そして、シルムと俺が攻撃したことで、警戒態勢に入り、またシルムが武器を突きつけたことで、戦闘態勢に?
「どうする? キリバ」
「……逃げる、という選択肢もあるが」
「……」
それも無理なようだ。無言のまま大剣を振りかざしながら突撃してくる鎧。そもそも、逃げる道がなくなっている。もしかすると、こいつを倒さないと道が開けない仕組みになっているのかもしれない。ならば……やるしかないな!
「よーし! まずは先制攻撃!! 《ライジング・ブラスター》!!!」
やられる前にとばかりに、エルカが雷の砲撃を放つ。かなり貫通力のあるこれまたエルカオリジナルの魔法なのだが。
「ありゃ?」
相手の耐久度のほうが上だったようだ。雷は、鎧に弾かれてしまう。
「はっ!!」
振り下ろされた大剣は、シルムがその細身からは考えられない怪力を見せ、受け止めた。しかし、相手もその巨体通りかなりの力があるようで、受け止めたシルムの足下にクレーターができる。
「シルム!」
そんなシルムを助けるように、クルルベルが魔力を練り上げ大剣へと解き放つ。大剣は、シルムの剣を滑りそのまま鎧ごと吹き飛んでしまう。
「感謝致します、魔王様!」
「うん。無事でよかった」
「そんな無事を記念して!!」
俺は飛び上がる。
そして、一瞬にしてチュルメGを身に纏い剣を縦一閃。なんとか兜を叩き割ることができた。これえ、鎧の中の正体も明らかに……。
「わーお」
「無言の正体はそういうことだったのか」
二人が驚くのも無理は無い。
なんと、俺達に襲い掛かってきた鎧の中には……誰もいなかったのだ。




