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氷山の歪み

 ギルドマスターオルベに連れられ、俺達はギルド内のとある一室へと訪れている。そこへ行く最中も、このユドルフの冒険者達の注目の的だった。


「ふい……温かいね」

「はい。体の芯から温まっていきます」

「それはよかった。このお茶は、この雪国では日常的に飲まれているアトワ草を使ったものなんです。アトワは、料理の香辛料としても使われるので、今度食べてみてください。とてもおいしいですよ」


 オルベが出してくれた茶は、冷え切った俺達の体によく染みる。彼らは、常に体を温め、足場の悪い雪の上で、過ごしている。

 これが雪国の味、温かさってやつか。それを体で感じながら、俺達を呼んだ内容を、オルベから聞く。


「さて、そろそろ本題に入りますが。よろしいでしょうか?」

「ああ。わざわざ大陸を越えたところの冒険者である俺に名指しで依頼した内容っていうのは?」


 謎の異変を解決してほしい、ということだけはわかっている。だが、いったいどんな状況でどんな異変なのかはわかっていない。

 普通は、その辺りもわかったうえで受けるのだが、ぶっちゃけ雪国には一度言ってみたかったのもあるし、もう乗りかかった船ってやつだ。このまま最後までやってやろうじゃないかと。それに、困った者達を助けるのが冒険者であり、ママから創られた俺の役目のひとつでもある。


「はい。あれは、今から三日前の話です。私のギルドが誇る冒険者達が、この近くある氷山で謎の空間の歪みを見つけたんです」

「空間の歪みね……」

 

 それはいきなり大きなものが出てきたものだ。


「彼らは、冷静に一度そこから引き、私に連絡を入れました。そして、新たなに調査隊を編成して、その歪みを調べることにしたのです」

「それで、結果はどうなったの?」

「……その歪みは、別の空間が出来上がっており、中へと調査へ向かった冒険者達は、いまだに戻ってきません」

「なるほど。俺達のやることはその空間の調査と、行方不明の冒険者達を連れ戻すこと。この二つってことだな?」

「はい。あの歪みは、明らかに異質なオーラを放っています。報告にあった闇の力かもしれません」


 それで、俺が、そして一緒に来るであろう魔王クルルベルの力が必要だったということか。まあ、闇の力が関係しているんだったら、尚更やらなくちゃな。アトワ草の茶が入ったカップを一度置き、俺は立ち上がる。


「よし、じゃあさっそくその歪みのところへ行くか」

「はいさ。リーダーの仰せのままに」

「兄貴! 行きましょう! 体は十分温まりました!」

「僕は、魔王様に従うまでだ」

「……ありがとうございます。では、案内は私自らやります」


 ギルドマスター自ら案内をしてくれるとは。そもそもギルドマスターとは、ギルドの頂点世界中にあるギルドは、中央ギルドから選ばれたギルドマスターを中心に運営されている。

 彼も、ギルドマスターをしているということは、中央ギルドから選ばれた実力者ということなのだろうが。そういうオーラは、まったく感じないな。まあ、ギルドマスターにも色々と居るものだ。純粋に強さを認められた者、知識を認められた者、その人柄を認められた者などなど。おそらくオルベも、実力というよりも別の何かを認められギルドマスターになったんだろう。



・・・・



 オルベに案内され、俺達は街から一時間ほど歩いたところにある氷山へと訪れている。見た感じは、普通の氷山のようだが……上のほうから確かに異質な力を感じる。クルルベルもそれを感じ取っているのか、表情が険しい。


「歪みはこの上です。頂上ではないので、すぐに到着すると思います」

「ところで、この氷山には魔物は居るの?」

「いえ。ここは、氷の大精霊様の加護により、守られているため魔物は寄り付きません」


 大精霊の加護があるのにも関わらず、闇の力を感じる謎の歪みがあると。


「クルルベル達は、大丈夫?」

「はい。確かに、ちょっと肌にちくっと来ますが、大丈夫です」

「僕達は、魔なる者ではあるが、魔物とはまた違った存在だからな。とはいえ、力の弱い魔族ならば、近づくことすらできないだろう」


 つまり、二人のような力の強い魔族ならば大丈夫ということか。ここに張られている加護は、魔王とその側近には効かないようだ。


「では、参りましょう」


 氷山ということもあって、足場は凍っているところが多いうえに、上り坂だ。しっかりと魔力で足場を固定しないと転がり落ちてしまうかもしれない。

 これで、吹雪いていたら更に危なかっただろう。


「ふいぃ……さむさむ」

「ほら、ちょっとじっとしてろ」


 十分に厚い防寒着のはずだが、それでも寒がっているエルカのため俺は神力で包み込む。


「おぉ! これは温かい!」

「いいだろ? これで、寒くないはずだ」

「そういうのがあるなら、貴様も防寒着を着る必要はなかったんじゃないか?」


 それはごもっともな言葉です、シルムさん。


「ふん。そんなことしたら、周りから怪しまれるだろ? 薄着なのに、どうしてあんなに平然としてるんだって」

「鍛え方が違うって言えば解決だろ」

「……お前、案外馬鹿だろ」

「なんだと!?」


 鍛えれば、寒さなんて、暑さなんてどうってことない! とか言ってる奴らは居るが、ただ鍛えただけじゃ無理だと思ってる。結局のところ適した服を着るか、それを防ぎ技能がないといけない。


「あの小屋です」

「小屋の中にあるのか?」


 氷山を登ること十分ほどで、とある小屋に辿り着いた。まさか、小屋の中にあるとは思っていなかった。てっきり、どこかの洞窟か崖のような危険なところにあるものだと。……だが、この小屋はどこか真新しいな。

 まるで、最近急ピッチで建てたかのような感じだ。


「この小屋は、歪みを隠すために我々が作ったものなんです。調査をすることもあって、やはり雪風などを防げるような場所が必要ですから。さあ、中へ」


 オルベが小屋のドアを開ける。そして、中へ入るとすぐその問題になっている歪みが現れた。無駄なものはなく、ただただこの歪みを調査するためだけに建てられた感が滲み出ている。


「こいつか……」

「兄貴。この歪み、やっぱり闇の力を感じます」

「正解だね。さあ、キリバ。これからどうする?」


 どうするか、か。


「そんなこと決まっているだろ。突撃! あるのみだ! ……だが、もしものことがあるから慎重に行こう」

「では、私はここで待っています。皆さん、お気をつけて」

「もしもの時は、空間をぶち壊してでも出てきちゃうから。その時は、巻き込んじゃったらごめんね?」

「そ、そんなことができるんですか!?」

「さあ?」


 エルカだったらできそうだから怖いところだ。だが、本当にもしもの時は、空間を壊してでも脱出しよう。異次元の中に閉じ込められるなんてまっぴらだからな。

 それにしても、別空間か……しっかりとした仕事だが、ちょっとわくわくしている自分が居る。


「そんじゃ! いっちゃ仕事してきますか!!」

「おー!!」


 いったいこの奥に何があるのか。それを確かめるため、俺達は歪みの中へと足を踏み入れた。

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