森を元に戻そう
そんなこんなで、術式を全て発見して、破壊した。ただ、それだとマナがそこらかしこに散らばってしまうけど、今は仕方がない。
「さて、こいつどうする?」
「この森の原因について喋ってくれればいいんだけどね。ちょっと痛めの尋問でもしてみる?」
そう言って、剣を突きたてるカルミナ。
「はーい、ちょっとちくっとしますよぉ」
「ま、待て! 注射感覚で何を言っているんだお前は!?」
いまだに動けないローブに対して、切っ先を近づけていくので、俺はとりあえずそれを止める。
「まあまあ、そういうのはまずはいいだろう。必要になったらやるとして」
「仕方ないわね。ほら、ちゃっちゃと喋っちゃいなさい? じゃないと、本当にざくっと行くわよ」
「待て! さっきと効果音が違うじゃないか!? 明らかに、深く突き刺さってるぞ、その音は!?」
そうかしら? とそっぽを向く。
そんなカルミナの態度に、本気だと思ったのか。ローブは、明らかに動揺しているのがわかる。
「というわけで、早く話さないと俺の過激な後輩がマジでやっちゃうぞ?」
「くっ! いくら脅されようとも、俺は話さん!」
「あの、素直に話したほうがいいと思いますよ。なんだかカルミナさんだったら、本当にやってしまいそうな気がするので」
「お前は、魔王だったな?」
「は、はい。そうですけど」
「なぜ、人間などと仲良くしてる! 魔なる者ならば、悪染まれ! そして、俺にそんな心配そうな目で見るな!! 本当に魔王なのか、お前!?」
そうじゃないところが、クルルベルの良いところだ。俺は、クルルベルに変なことを吹き込まれないように、前に出る。
カルミナも、俺と同じ気持ちだったようで、一緒になって前に出てくれた。
「はいはい。うちの子分に変なことを吹き込まないでくれるか?」
「まったくよ。くるちゃんが、悪に落ちちゃうなんて、あたしが許さないわよ」
「魔王が、悪に染まるのは道理! 大昔にこの地へと訪れた最初の魔王も、悪事の限りを尽くした! 主は、そんな魔王に憧れている……そして、再びこの地に魔王が降臨したと聞いて、張り切っていたというのに……! 全ては、お前のせいだ!!」
などと勝手に怒り出し、全てが俺のせいになってしまった。森に関しては、話してくれないが、他のことについては勝手に話してくれるからどんどんわかってくるな。
つまり、今その主様とやらが動いたのは、憧れだった悪の化身たる魔王が再びこの地に降臨したから。だが、その魔王は悪事を一切することなく、なぜかどこぞのソードマスターの子分となってしまったと。そこで、怒り狂った主様は、自分で魔王のように世界を混乱させようと、そういうことか。
「何言ってんだよ。魔王だからって、全て悪だと決め付けるのはよくないぞ。俺の子分みたいに、争いごとが嫌いな魔王だって居るんだからな」
「まったくよ。あんたのところの主様にも言ってやりたいわ。憧れるのはいいけど、思い込みはほどほどにしておきなさいよって」
「お前らぁ! 主様を愚弄するのか!?」
別に愚弄しているわけじゃないんだがな。カルミナの【静寂の剣】の効果もそろそろ切れる頃だ。その間に、森を直す方法を聞ければよかったんだが、これは難しいだろうな。
そうなると、動けるようになった時の保険をかけておくか。
「縛れ」
「うおっ!?」
魔法はあまり得意ではないが、これぐらいなら俺にだってできる。そもそも使っているのは、魔力ではなく神力なので、魔力で縛るより強力だ。
「これで、静寂の剣の効果が切れても大丈夫だろう。森については、帰ってからゆっくり話してもらうことにする」
「そうね。こういうのは、専門家に任せたほうがいいわね。あたしだったら、我慢の限界でざしゅってやっちゃいそう」
「お、おい。刺すどころか、もはや斬ってるじゃないか、その音。くっ! まさか、人間ごときに捕まるなど!! 主様、申し訳ありません……!!」
これで、後は薬草を採取するだけだ。
縛り上げたローブを連行しつつ、薬草採取へと向かおうとした刹那。
「そうはさせないよ」
「おっと」
突然、俺の腕ごと何かの渦が持っていこうとしていたので、思わずローブを縛っていた光の縄を離してしまった。ローブの姿は渦の中に吸い込まれ、代わりに一枚の紙が落ちてくる。
「それが、森を元に戻す方法だよ。この子を返して貰う変わりに置いていくから」
「……まさか、噂の主様ってやつか?」
「さあね。……ソードマスターキリバ。君の正体がただの人間じゃないってことはもうわかってるからね。それじゃ、せいぜい頑張るといいよ」
それだけと言い残し渦は消えていく。
俺は、その場に落ちている森を元に戻す方法が書いているという紙を拾い、先ほどまで渦があった場所を見詰める。
「主様っていうのは、案外子供っぽい感じだったわね」
「逃がしてしまいましたが、森を元に戻す方法は手に入れましたから、よししましょう。ね? 兄貴」
「そうだな……だが、いずれにしろ。また奴らが現れるはずだ。これは、本格的に動かないとだめかもしれないな」
どうやら、相手は俺の正体を知っているようだし。まさか、ゼルドにでも聞いたのか? そうなるとあの砲撃から生き延びたことになるな。
本当、頑丈な奴だ。
「じゃあ、さっそく森を元に戻して、薬草を採取するか」
「それは、すぐにできることなんですか?」
「ああ、この紙に書いている通りなら、もうそれは実行されている」
「もしかして、結界を壊すってこと?」
「ああ。だが、それだけじゃまだだ。どうやら、この辺りにこの黒さの原因となる術式が刻まれている木があるようだ」
それを探し出し、術式を破壊すればこの黒さは元通りになる。本来ならば、そっちのほうが先なんだ。じゃないとマナを解放した時に、草木にマナが戻らないからな。手順を間違えたせいで、黒さは元に戻るが草木は、必要なマナを吸収しきれず、次第に元気がなくなり結局枯れていくかもしれない。
だが、その辺りに関しては俺に考えがある。
「……あれ、ですかね?」
「明らかにあれでしょ」
肝心の術式が刻まれてる木は、すぐに見つかった。かなりわかりやすかった。明らかに、周りの黒い木よりも真っ黒というか、そういうオーラを放っている。
あれじゃなければ、いったいなんなんだと。
「よし、さっそく術式を……これだな。ほいっと」
かなり強力な術式だったが、チョップ一発で砕ける。これでどうだ? と周りを見渡すと……徐々に緑が戻っていくのが目に見えてわかる。
「これでいいな」
「それで、先輩。これからどうするつもり?」
「こうするんだよ」
二人が見守る中、俺は意識を集中させ、体中からマナを放出させる。そう、俺の考えとは、自分のマナを森中に与えるということだ。
かなりきついだろうが、普通の人間だった場合の話だ。俺は、創造神に創られし神人。普通の人間とは桁違いのマナを有してる。まあ、それでも森中に与えるのは、きつくないわけがないんだが。
「あ、兄貴すごい!」
「さすがは先輩。頑張れー!!」
「おっしゃああああっ!!!」
二人の応援の力を糧に、俺は森中へとマナを放出。
その結果。
あんなにも黒く染まり、今にもなくなりそうだった森が元通りになったのだった。しかし、俺は体内マナを放出し過ぎて、後に疲労が襲ってきたのだった……。




