動けない間に
「くるちゃんって、本当に魔王様だったんだねぇ」
「ど、どういうことですか?」
「自称、だと思ってた」
「ひどい!? で、でも魔界でも、本当に魔王なの? ってよく言われるので……えへへ」
「まあ、シルムから話を聞いたが、クルルベルは魔王になるべくして魔王になったわけじゃないからな。その辺りは仕方ないって思おうぜ。それにいいんじゃないか? 魔王らしくない魔王ってのもさ」
俺はそっちのほうが好みだ。魔王魔王してるのにも会ってみれば、変わるかもしれないけど。
というか、いつの間にかカルミナもくるちゃん呼びに……ママから聞いたのか?
「シルムねぇ。で? そのシルムは、どうしてるの? いつも魔王様のお傍にぃ! とか言っていそうなのに」
「シルムは、魔王城で色々とやることがありまして。それに、私から言ったんです。人々からの信用を得るために、私は頑張るからって」
未だに、魔界からの新たな刺客は現れていない。もうあれから数週間が経っているから、もう侵略はないんじゃないのか? と思うところだが、油断など一切できない。相手は、クルルベルをイジメで強制的に城ごと転移させるような奴が居る魔界だ。
それに、魔界の創造神はママの弟。
「あっ、そういえばそろそろだな」
「何がですか?」
「それはだな。……っと、話している場合じゃなさそうだぞ」
「また魔物ね。懲りない奴ら」
大分奥へと来たが、まだこの森を黒くした原因はわからない。今は、ただただ興奮した魔物達が襲ってくるだけ。クルルベルも必死に闇の力がないかと探っているのだが、簡単ではないようだ。
「神衣展開。剣撃武装チュルメG!!」
こいつらを相手に時間を割くわけにはいかない。そう思った俺は、持っている鎧の中でも剣を使う時に使う武装を身に纏う。
刃のように鋭く尖った兜や肩や手、足などの部分が特徴的な漆黒の鎧。近づくものを容赦なく切り裂くこの鎧にて、俺はザルグ達へと回転しながら突撃していく。
「はっはっはっはっはっ!! 邪魔だ! 邪魔だぁ!!! 切り刻まれたくなければ、俺達の目に前に現れるなぁ!!!」
「あわわわっ!?」
「まるで、人間凶器ね。どっちが、悪なのかわからなくなってきたわ。こらー! 先輩! あんまり森を切り刻むんじゃないわよー!!」
そんなことは承知の上だ。だからこうして、ザルグ達へと攻撃するふりをして、脅かしている。一体、また一体と馬鹿なザルグ達は、細切れになってしまい、一瞬にして光の粒子となり大地へと還っていく。
「ふいぃ……いい汗を掻いた! そして、目が回る……」
とっとと。俺が人間凶器となって、道を切り開きながら進むこと数分。どうやら、森の中央へとやってきたようだ。大きな広い空間となっており、木々は生えていない。ただ、ここだけ異様にマナの濃度が高いように感じる。
何よりも、今まで真っ黒だった光景から、元々俺達が見慣れている緑溢れるものへと一変した。
「これは、どういうことかしら?」
「おそらく、森中のマナがここに集まっているってことじゃないか?」
鎧を外し、地面から生えている緑の雑草に触れると、より濃度の高いマナが集まっているのがわかる。
「兄貴。ここからマナが出ないように術式が刻まれています」
「やっぱりそうか。てことは、その術式を破壊すればここに集まったマナはひとまず解放されるが」
それでも、森が元に戻るかは謎だ。あのままだとマナが戻ったところで、そのマナが消滅してしまうだろう。今やるべきなのは、あの黒さの謎の解明と直す方法についての模索。
「でもどうして、こんなところにマナを……」
「それは、そこに隠れてる人に聞けばいいんじゃないの? ねえ? そうで、しょ!!」
カルミナが何かの気配に気づき、剣を投擲。
普通ならば、何も無い空間のため剣がそのまま突き進んでいくのだろうが……ガキィン! と弾かれた音を響かせ、弾かれる。
宙に投げ出された剣は、カルミナが予め戻すためにつけていた魔力の糸で引き寄せる。
「よくぞ気づいた。人間達よ」
「……なんだまたローブか」
「流行ってるのかしら?」
「た、ただ姿を隠すのに適してるからじゃないでしょうか? たぶん」
何も無い空間から姿を現したのは、全身をローブで隠している人物。ゼルドのこともあるし、ローブとなると怪しさ全開だ。ただ、声的にゼルドではないようだ。
男ではあるようだが。
「で? この真っ黒な森は、お前が原因か?」
「その通り!!!」
「はい、じゃあ、元に戻す方法を教えなさい。先生、怒らないから」
「誰が教えるか! 俺は、本物の悪! お前達になす術もなくやられたゼルドとは大違いなのだよ!! 主様のため、悪事の限りを!!」
とりあえず、ゼルドが言っていた主様ではないようだな。
「はいはい。それで? あなたは何がしたいんですか。本物の悪さん」
「もちろん! この世界中のマナを集め、主様の計画に糧とするのだ!! ……はっ!?」
気づいた時にはもう遅い。
なるほどなぁ、主様の計画のためにか。熱心な配下を持てて、主様は嬉しい限りだろうな。
「お、お前! なんて巧妙な誘導尋問を!?」
「……くるちゃん。さっきのって巧妙だったかしら?」
「巧妙、ではなかったと思いますが」
つまりこいつは馬鹿ということが判明した。時期に、この森を戻す方法も聞きだせるだろう。だが、さっきので警戒心は高まったはず。
いくら馬鹿でも、その状態で最重要情報をころっと話すとは考え難い。
「くっ! これ以上お前達と語ることはない!! さあ! 俺の姿を見たからには、ここから生きて帰すわけにはいかない! ゼルドは油断していたようだが、俺は違う! お前達が、ここに入って来た時点で俺の勝利は確定したも当然なのだからな!!」
「どういうことですか?」
「どうもこうもない。この中でこそ、俺は最強なんだぁ!!」
自分を最強と自称した名も知らぬローブは、自分の周りに赤、青、黄、緑の四色の球を出現させる。あれは、魔法における基本四属性の球だろう。
となると、あいつはウィザードか。
だったら、何かをされる前に。
「大丈夫よ、先輩」
「ん?」
「もう先制攻撃はしておいたんだから」
にやりと笑むカルミナは、先ほど投げた剣の刃を、指で弾き音を響かせる。すると、先ほどまで高笑いしていたローブが、急に止まったではないか。
「あ、が……ど、どういう、ことだ、体が」
「しばらくは動けないわよ」
「何をしたんですか? カルミナさん」
俺にもよくわからないので説明してほしいものだ。クルルベルの問いに、カルミナは得意げな表情で剣を鞘に収めて、口を開く。
「さっき、剣を投げたでしょ? その時に、あいつが剣に触れた時点でもうあたしの術中でこと」
「なん、だと?」
「この剣の名は【静寂の剣】よ。この刃に触れたもの全てに静寂を。つまり、動きを止めたりできるの。一番強力なのは、眠りにつかせるってものだけど。そんなことをしたら、聞きだすものも聞き出せないからね」
なるほどなぁ、便利な剣もあったものだ。それで、ローブは動けないのか。
「どれだけ動きを止めていられるんだ?」
「十五分ってところかしら。とりあえず、その間にこの結界だけでも破壊しておきましょうよ。この結界内だと最強らしいし」
「そうだな。クルルベル、お前も手伝ってくれ」
「はい!」
「お、おい! お前達! 卑怯だぞ!?」
別に卑怯ではない。というか、最強なのに簡単に動きを止められてるな。本当にこの結界内では、最強なのか? と疑問を思つつも、結界を破壊するためにどこかに刻まれているであろう術式を、ローブが何かを叫んでいる中、結界近辺を探すのであった。




