黒き森
「わぁ、これが冒険者カードですか」
初めて見る冒険者カードを空に掲げながら眼を輝かせているクルルベルに、俺はカードについて説明する。すでにギルドで説明を受けているため、適度に省いてな。
「そうだ。そのカードがあれば、世界中どこのギルドでも依頼を受けることができる。逆にそれがなければ、依頼は一切受けられないから、無くすなよ?」
「まあ、無くしても再発行はできるからあまり心配はいらないんだけどね
とはいえ、再発行には、色んな検査や登録の料金が倍もかかるので、無くさないのが一番だ。ギルドカードには、名前や性別、年齢に出身地以外にも、どこのギルドで発行したのか、現在の職業ランクは何なのか。色々と個人の情報が書かれている。
「それにしても、魔王様なのにルーキーウィザードって……よかったの?」
「はい。それが規則だって聞いていますから」
「実力があれば、いきなりランクの高い職業になれるんだが」
クルルベルは、才能に溢れている。仮にも魔王なんだし、さすがにポテンシャルはウィザード以上だろう。エルカも、この間の勇者捜索依頼を得て、ウィザードの上のランクでハイウィザードになった。職業ランクは、最初のルーキーから始まる。
そこから、ウィザード、ハイウィザード、ウィザードマスターとなる。リーミアも、ヒーラーの上のハイヒーラーとなっているので、二人とも、後一歩で最高ランクになるんだ。
「私は、魔王です。本来なら、皆さんの敵。冒険者は、人々のために冒険をし、戦う戦士。なれただけでも、すごいことだと思います。なので、これからは皆さんのお役に立てれるように冒険者の一員として頑張っていきます!」
「おぉ……なんて、健気で真っ直ぐなんだ……」
「この子が、魔族の王だってことを忘れそうになるぐらいの真っ白な心ね」
本来なら、天使に生まれてもいいぐらいなんだ。……まあ、魔族だからって悪い奴らばかりじゃない。クルルベルがいい例だ。
「……兄貴」
「ああ、ここだな」
「ふむ。聞いていた通りの真っ黒さ加減ね」
そうこう話しているうちに、目的地に到着した。目の前に広がるのは、真っ黒な森林地帯。本来ならば、緑豊かな森林地帯なのだが、マナが失われている。近くにある、雑草に触れると、簡単に崩れ去ってしまっている。
ところどころまだマナが残っているため、緑が見えるが、これも時間の問題だろう。早く調査を済ませて、この森をどうにかしないと。
「ただマナを注ぎ込めばいいんだったら、簡単なんだが……」
と、実際にマナを流し込んでみるが、注ぎ込んだ先からマナが消える。どうやら、この黒さの原因をどうにかしないと無理なようだな。
「先輩の神パワーでどうにかできないのかしら?」
「いや、さすがにこれだけの広範囲は……って、なんで俺に神の力があるって知ってるんだ?」
あの時見せた力は、確かに神力だが、何も知らない者から見ればただの光にしか見えないはず。……そういえば、ソードマスター以外でもって言っていたが。
まさか。
「あら? ローリメデス様から聞いてなかったの? あたしも、神々から創られし神人なのよ」
「やっぱり、そうだったのか」
「じゃあ、兄貴とカルミナさんはご兄妹、ということになるんでしょうか?」
「うーん、ちょっと違うかな。先輩は、ローリメデス様だけの力で創られたけど、あたしはローリメデス様の副神であるメディネ様によって創造されたのよ」
「兄貴、メディネ様というのは?」
そうだったな、クルルベルはメディネのことを知らなかったな。
「アルメディネは、ママの側近。つまり、お前にとってのシルムみたいな存在だ。ママと違って大人な女性で、ママの代わりに聖域で仕事をしたり、世界の観察したり、ママがやるべきことを全て受け持っている超優秀な神様だ」
「す、すごいですね! でも、それだとメディネ様が大変なのでは?」
「大丈夫だって。メディネは、ママのためなら倒れてもいい!! とか言い出すぐらいママのことが大好きなんだ。にしても、だから俺のことを先輩って言い出したんだな」
メディネから創造されたんだったら納得だ。メディネは、ママの副神であるがゆえに、ママから創造の力を少しだが授かっている。その力とメディネ自身の神力を合わせてカルミナを創造したってことだな。
「そそ。まあ、あたしのことは今は重要なことじゃないわ。重要なのは」
「ああ。この現象についてだな。とにかく、原因を探るために奥に進むぞ。クルルベル? 何か気づいたら、教えてくれ」
「はい! 頑張ります!!」
これが闇の力だと仮定して、その力に敏感なクルルベルの出番だ。俺とカルミナも探ってみるが、闇の力をまだそこまで知らないので、頼りはクルルベルだ。
「奥に進めば進むほど、黒さが増していきますね」
薬草も採取しなくちゃならないが、見つけたのは全て黒く染まっているものばかり。奥に進めば進むほど、黒くなっていくとなれば、ちょっと採取は難しいかもな。
普段は、感じるはずの野生動物達の気配も全然感じられない。これは、狩人達も仕事ができなくて大変だろう。
「……とはいえ、魔物は生き生きとしてるみたいだな」
「まさか、こいつらが原因ってことはないわよね?」
「違う、と思います。この魔物達からは、闇の力は感じられませんから」
俺達の進行を邪魔するのは、森によく出現する猿のような魔物で【ザルグ】という。だが、普通の猿よりも顔が険しく、爪も牙も鋭利だ。どうやら、囲まれているようだな……こいつらは、集団で獲物を襲う習性がある。
森に入った旅人や狩人達は、よくこいつらに襲われることが多い。森の定番魔物の一体だ。
「餌がなくなって、ご機嫌斜めってところか?」
「ば、バナナとか食べますか?」
クルルベルよ。魔物に対しても、その優しさを見せるんだな……。とはいえ、奴らは凶暴な性格の魔物。情けなんてかけていたらこっちがやられる。
「グギャアッ!」
「せい!!」
まずは、二匹同時に襲ってくるもカルミナの細長い片刃の剣で同時に両断。
「どうやら、あたし達の肉を所望しているみたいよ、魔王様」
「私を食べてもおいしくないと思うんですが……」
「魔物にとっては、そうでもないんだよ。行くぞ、後輩! 子分! さっさと猿どもを倒して、奥に進むぜ!!」
「了解よ、先輩」
「森を荒らさない程度にやってみます!!」
俺もクルルベルも武器を構え、ザルグに突撃していく。ザルグは、集団で襲ってくる凶暴な魔物だが、俺達にとっては強敵じゃなかった。
伊達に、ソードマスター二人に、魔王じゃないってことだ。俺とカルミナが剣で切り裂き、クルルベルが魔法で一気に殲滅。クルルベルは、多種多様の魔法を使えるほど、存外接近戦もかなりのものだったことに驚いた。




