キリバの秘密
俺の家は、王都の中央区にあるとある一軒家。そこまで大きくない。というか、他の家よりもちょっとばかしこじんまりしてるかもしれない。
悪く言えば、山小屋ぐらい。
中央区には、大きな家が多いので、余計に目立ってしまっている。
「けど、そこに住んでいたのが、王都でも一番有名なキリバだったから、悪戯するような輩は出なかったんだよ」
「俺が居なくても、我が最愛の母なら、余裕で追い返すだろうけどな。ほら、着いたぞ」
家に行く途中で、エルカとリーミアの二人と合流し、そこから数分後、懐かしの我がマイホームに到着した。いやぁ、相変わらず山小屋みたいな外観してるなぁ、本当懐かしい。
「稼いだ金をちゃんと渡してるはずなんだけどな……新しい家だって、買ってやるって言ってるんだが」
「よほど、この小屋が。キリバさんとの思い出の家から離れたくないんですね」
「まあそうなんだろうな」
苦笑しつつ、俺は扉を開けようとする。まあ、それだけの理由じゃないっていうのが、今にわかるだろう。
「た」
「うわーん!!!」
「おぶっふっ!?」
扉を開け、ただいまのたを言ったところで、何かが俺に突撃してきた。その勢いを殺しきれず、玄関から数メートルほど離れたところで、やっと止まる。
や、やっぱりいつも以上にすごい勢いだ……。
「だ、大丈夫ですか?! 兄貴!!」
「なになに?」
「何が飛び出してきたんですか?」
突然吹き飛ばされたので、心配して近づいてくる三人。俺は、大丈夫だと伝え、家から飛び出してきた人物を見詰める。
「まったく、俺じゃなかったら、どうしてたつもりだ?」
「だって! だってぇ!! だってぇええ!! 数週間もどこに行ってたの!? 寂しくて、死にそうだったよぉ!!!」
俺に抱きかかえられながら、わんわんと大泣きする少女。白銀の長い髪をしており、頭の天辺から生えているアホ毛は、まるで天使の輪かのようになっている。
身に纏っている服は、明らかに身の丈に合っておらず、灰色のシャツは足の膝上まである。
「えっと、キリバさんの妹さんですか?」
何も知らない人から見れば、そう見えるだろうな。
「妹じゃないよ! お母さんだよ!!」
がお! と未だに涙目のまま叫ぶ少女の言葉に、三人は目を丸くする。
「え?」
「なんと」
「こ、この子が。あ、いやこの方が、兄貴のお母様、なのですか?」
「その通り! このちっこいのが、俺の最愛の母!」
「うむ! 私が、キリバの一番の理解者であり、愛すべき母!! その名も!!」
「おっと、ここで名を告げるのは、やばいんじゃないか? 母よ」
「おっと、そうだったね、息子よ。ま、とりあえず家に入って入って」
ギリギリのところで、止めることができた俺は、三人を連れて懐かしの自宅へと入っていく。そんで、扉を閉めたところで、こほんっと咳払い。
「改めて! 私が、キリバの一番の理解者であり」
「そこからなの!?」
「愛すべき母!!」
「気にせず続けてますね……」
こういう人だから。マイペースというか、いざ決めたら中々曲げない真っ直ぐな性格。純粋で、何にでも興味を示す、子供っぽいところが魅力的な母の名前は。
「その名も! ローリメデス!!!」
決まった! と、久々に見る我が母のドヤ顔を拝みつつ、三人の反応を確認すると。
「……」
「……」
「……」
案の定、驚いた表情で硬直していた。それもそのはずだよな。まさか、俺の母親である人物から、あの創造神ローリメデスの名前が出てくるとは、誰が思うか。
いや、誰も想像できないだろうな。偽者という可能性がかなり高く、疑うところだろうが、溢れ出す神々のオーラで、三人は直感的に本物のローリメデスだと感じ取っているようだ。それゆえに、硬直している。
「なんで、皆驚いてるの?」
しかし、我が母は、まったくわかっていないようで。
「そりゃあ、驚くって。母さんは、自分が誰よりも有名な神様だって、自覚を持ったほうがいいと思うぞ。この家にだって、母さんの神々しきオーラを逃がさないようにする結界が張ってるんだし」
「もう! 母さんじゃなくて、ママって呼んでって言ってるじゃん!!」
「了解です、ママ」
「そ、それもそうですけど! あ、あのローリメデス様」
「なにかな? 魔王クルルベルちゃん」
「あの……その」
可愛い子分も、さすがに創造神の前では、中々言葉が出てこないようだ。それは、他の二人も同様だ。しかし、彼女が、三人が言いたいことは、わかっている。なので、俺が代わりに答えるため、前に出た。元々、俺から話すつもりだったからな。
「皆が知りたいのは、俺のことだろ?」
「う、うん」
「キリバさん。あなたは」
「ああ、皆の察しの通りだと思うぜ」
三人は、互いに顔を見合わせ、俺を再び見る。
「俺は、創造の神ローリメデスの息子。キリバだ」
今明かされる衝撃の事実。
ずっと、誰にも言わなかったことを、三人の仲間が知った。そもそも、ローリメデスの子なんて言っても、簡単に信じてはくれないだろうし。けど、あの洞窟での出来事が強く影響してる。クルルベルにいたっては、神様と知り合いってことも教えてるからな。俺が、ただのソードマスターではないってことは、わかっていただろう。
「あわわわ!? そ、そうとは知らずとんでご無礼なことを今まで!」
「いやいや、別に畏まることは無いって。俺とお前らの仲だろ?」
「で、ですが……」
こうなることは、想定内だ。俺が、神の子。それも、創造神ローリメデスの子だとわかれば、自然と畏まってしまう。
「息子って言っても、直接生まれてきたんじゃないんだ。創造の力で、創造された存在。俺は、ママの代わりにこの世界を見守りつつ、やばい時にはそれを解決する役目として、創られたんだ」
「それでも、キリバは私の子だもん! だから、甘えるじぇえ!!」
「おっと」
真面目な話をしている中、我が母は俺に抱きついてくる。俺は、慣れたように頭を撫でてやった。まるで、娘を撫でてやるかのように、優しくタップするように。あぁ、懐かしのこのさらさら感。やっぱり、母親なのだからなのか、落ち着くな近くに居ると。
「は、母親というよりも娘さんとか妹さんに見えます……」
「まあ、この神様は、すごい甘えん坊だからな。俺が、可愛い好きになったのもママが原因かもな」
「私、可愛い?」
「うん、可愛いよ」
「いえーい」
とりあえず、いつまでも立ち話をしてるのも疲れるだろうから、座れと指示する。俺は、胡坐をかき、ママを撫でながら、話を続けた。
「クルルベルには、話したと思うけど、俺がバッカスの護衛に選ばれたって」
「は、はい」
「実は、それママの指示なんだ」
「あっ、そういえばキリバを選んだのは、神々の言葉があったからってバッカス言ってたっけ」
「それを、あの馬鹿は何が神の言葉だ! とか言ってさ。終いには、俺を追放しやがって」
「本当だよ! せっかく、私が召喚してやったのにさ。そいつ、もう元の世界に帰しちゃおうよ!」
まあまあとぷんぷんと頬を膨らます母親を宥める。ママなら、本気でやってしまいそうだから、心配だ。しかし、あいつはもう勇者としての役目がなくなっちゃったからなぁ。元々、魔王を倒すために召喚された勇者だからな、召喚した創造神が帰すと言ったら、この世界の人達は絶対そうしちゃうだろう。
「ともかくだ。俺の神としての力も見せちゃったから、ママの紹介と俺の正体を明かすと同時に、今後について話そうってことだ」
「今後については、あたしもそう思ってたけど。なんだか、驚き過ぎて頭の整理が簡単にできないっていうか」
「で、ですね」
「私は、多少耐性があったのか、大丈夫ですけど」
うーむ、これは、落ち着かせてからじゃないとだめかもしれないな。よし、別の話で空気を変えるとするかな。そうだなぁ……よし、バッカスとまだ出会った頃のあの話をしてみるか。




