4月13日②
なんか書いてて自分で訳わかんなくなっちゃいました。
不明な点がありましたらどんどんいってください。
メイドの制服を脱ぎ、襦袢を身につける。
今日着るのは、2年前に名取を取った時に奥様にもらった着物です。
高校の進級祝いにも奥様からは着物をもらったのですが、本日にはふさわしくないのでこちらにします。
お茶会にも格があり、それに合わせて着物も変わるのですが、今日は身内の小さなお茶会らしいので薄い山吹色の小紋にします。
白に橙色の線の入った帯を締め髪を頭上でまとめ準備完了です。
扇子やくろもじなどの入ったカバンを持ち玄関に行くと、すでに奥様は待っていらっしゃいました。
「あら、さららちゃん早かったわね」
「いえ、奥様お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫よ。あら、私があげた着物来てくれたのね!よく似合ってるわ~」
「ありがとうございます」
「さあ、早く乗って。祥子さん達が待っているわ」
私が乗ると車はすぐに発進し、一条家の庭・門を抜け塀伝いに5分ほど進み青柳家の門を通り抜けます。
一条のおうちは広いです。本館のほかに別館がある上にお庭も広く、温室もあります。
ですが使用人の数は少なくメイドは8人、執事|(的なもの)が2人庭師が1人、後は下働き(と言っても女性では無理な仕事をしたりするぐらいです)が3人の全部で14人とお金持ちの家では少ない人数です。
専属コックなどはおらず、奥様とメイドが交代で食事の準備をしてみんなでいただきます。
真理達から主人と使用人が同じ食卓を囲むのはあんまりないことだといわれた時、それが普通だと思っていた私は驚きましたがなんとなく寂しいなと思いました。
私にとっては大勢で食事をするのが当たり前の事でしたから。
思考が明後日の方向に行ってましたが、青柳家につきました。
本当は昔から仲の良かった一条と青柳が楽に行き来できるよう作られた通路がありそこを通れば歩いて5分とかからず互いの家を行き来できるのですが、今日は少しだけ改まった形ということで正面玄関から入るために車での移動なのだそうです。
「奥様、どうぞ」
「ありがとう緑川さん」
運転していた父が車のドアを開く。
「それじゃあ、終わったら連絡するから一度帰っていいわよ」
「かしこまりました。さらら、粗相のないように」
「はい。お父様」
「大丈夫よ緑川さん。さららちゃんなら」
私に注意をする父を奥様が笑い飛ばします。
「家、皆様にご迷惑和かけられませんので。それでは」
「心配性ね~、まあいいわ。さららちゃん行きましょう」
「はい。ではお父様行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい。奥様も行ってらっしゃいませ」
父は深く腰を折って私たちを見送りました。
玄関に入ると燐様が出迎えて下さいました。
「あら、今日は燐君がお出迎え?」
「はい。母は準備中ですので」
「じゃあ、梅子ちゃんは水屋の方にいるの?早く行って手伝わなくちゃ。このお茶会を提案したのは私だし」
「いえ、母も近々する予定だったそうなのでちょうどよかったと言っていましたよ」
「あらそう?あ、さららちゃんは来ちゃだめよ?呼ぶまで待っていて。燐君お願いね」
奥様が足早に奥に向かおうとなさるのについていこうとしたら止められてしまいました。
奥様は大体いつもお客として参加し、私や燐様がもてなす方で動くのにめずらしいです。それに、私の勘を取り戻すためなら余計に私はもてなす方だと思っていたのですが…。
よくわからない私はとにかくいつも茶道をする部屋に行こうと足を動かしました。
「あ、さららそっちじゃないよ」
ですが、燐様に止められてしまいました。
「えっ?」
「小母様も言ってたでしょ?準備ができるまで待っててって。だらか準備ができるまで、今日はこっち」
燐様は私の手を引いてお茶室とは逆の方、居住区の方へ歩いて行かれます。
青柳の家は舞踊の家元ですが、ほかにも茶道・華道・着付けその上薙刀などの教室もしているのでそれ専用の部屋があります。また、内弟子として住み込みのお弟子さんもいらっしゃるのでその方たちと本家の方たちとの居住スペースが分かれているのです。
連れてこられたのは燐様のお部屋でした。
私は今嫌な予感がしてます。昔からお稽古などでこちらに来ることは多かったですし居住区にも何度も来ていますが、いつも桜様のお部屋か、リビングですので(ちなみの居住区は洋風づくりです)燐様のお部屋に入ったことはほとんどありません。
しかも、数少ないその記憶は嫌な思い出しかありません。
「あ、あのっ燐様?」
「ん?何、さらら」
「どうして私は燐様のお部屋にいるのでしょうか」
予感を否定したくて問い掛けてみますが返ってきたのは呆れた様な溜息でした。
「どうしてってさっきも言っただろう?準備ができるまで待つからって。さららって馬鹿じゃなかったと思うけど」
「待つのはわかってます。ではなくて、それならリビングの方でもよろしいのではないですか?」
燐様のお部屋にいる意味が分からないというと、不機嫌そうな顔をなされなす。
「何、さららは人の家に来て文句言うの?そんな風に育てた覚えはないけどな~」
燐様に育てられた覚えはもちろんありませんけど、
「そうではなくて………‥そう!私のような使用人でも女の子を部屋に入れたと知ったら彼女さんが怒りますよ!」
「そんな文句は言わせない。それに、それこそ使用人なら部屋に入ってても気にしないんじゃない?それに、僕いま彼女いないし」
陳腐な言い訳はあっさり撃沈です。自分で矛盾をついてしまいました。
「さあ、さらら観念しようか」
「い、いやです。何か企んでますよね」
「人聞きの悪い。待っている間暇だろうから僕の部屋に連れてきただけなのに」
と言いながら燐様は服を脱いでいきます。
突然すぎて思考がついていきません。
「り、燐様っっ」
「ん?ああ僕も今日のお茶会に出るからね、着替えないといけないんだ」
何でもないように言う燐様はこちらを振り向きにやっと口の端をあげます。
「ところでさららいつまで見てるの?さららのえっち」
「っっっ!」
慌てて後ろを向きます。これでは冗談でなく彼女さんに睨まれてしまいます。いえ、それよりも悲しませてしまうでしょうね……。彼女は繊細な人ですから。
反省しながらついでにお作法の復習を頭の中でします。
久しぶりでも体は覚えているなと考えていると後ろから何かが覆いかぶさってきました。
「ねえさらら、これからいいことしない?」
燐様が耳元にささやきかけてきます。体がぞわぞわっとしましたが正直言って意味不明です。
「からかわないでください」
「からかってなんかない。僕は真剣だよ」
私の腰に回した腕にギュッと力を入れて抱きしめなさいます。
この状況をどうしようかの悩んでいると部屋の内線が鳴りました。
燐様がちっと舌打ちをして電話に出ます。
「はい、はい分かりました。今からそちらへ向かいます」
受話機を置いた燐様は悔しそうに、
「残念、タイムアップ」
といい残りの着付けを終えます。
「何が目的だったのですか」
「ヒミツ。にしても顔を赤らめるとかないの?ずっと無表情ってなんだかへこむな~」
「冗談はほどほどにしてください」
燐様から自分がそういう対象として見られていないのは十分承知しています。
だからこそ、先ほどの行動の意味が分かりません。
首をかしげていると手を引いて立たされ、背を押されて燐様の部屋をでます。
「はいはい呼ばれたからもう行かないとねー。それにしてもほんと残念。ちょっとでもさららがときめいたらそれをネタにしてからかおうと思ってたのに」
はあ、やっぱり燐様はろくなことを考えていません。
ですが、始めに感じた嫌な予感があまりあたっていなかったようでよかったです。
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燐様にからかわれた以外、お茶会は何事もなく終わりました。
こちらの流派は表千家、部活の流派は藪ノ内流です。師匠(桜様たちのお母様、梅子さん)は他の流派の事も詳しいので教えてもらいました。
新しいことを学ぶというのは面白いです。
帰ったのは6時過ぎだったので見習い仕事の再開はできず、食事の後は勉強をしただけでした。
茶道の予習も済んだことですし、さっそく入部届けを出そうと思います。
「どうだったの?作戦は。うまくいった」
亮とのデートから帰って燐と見かけた桜が開口一番のセリフはこうだった。
「姉さんただいまくらいないの」
燐があきれた様子で言う。
「駄目だったよ。何か反応があったらそのまま攻めてよくわからないうちに一条との関係をばらすことにうなずかせようと思ってたのに」
「それでこそさららちゃんだわ!燐なんかの誘惑に負けるとは思ってなかった」
桜が手とたたいて喜ぶ。
「なんかとは失礼な。まあ、上手くいくとは思ってなかったけどね。ここからが本番だよ。亮兄さんも色々と計画してるんでしょ?」
「うん。会長権限でいろいろするって」
「さららいつまで持つかな?」
「亮のことだから1年以内にはばらしちゃうと思う」
桜の予想に燐はうなずく。亮は綿密に計画を立て獲物を逃がさない。さららが追い込まれるのも時間の問題だろう。
燐は亮をサポートしつつも自分でも動く。
今日はそれの第一手だった。
「覚悟してねさらら。手なんて抜かないから」