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「step」  作者: 華南
13/42

Act.13 夢





「俺にとって夏流は…」



貴方はそれ以上の言葉を紡がなかった。


違う。


紡げなかった。


だって言葉をかけて貰う資格すら、既に私にはなかったから。


好きだった、貴方が。


同じ季節を見て感じて、そして想いをお互いが強めていくんだ、と信じて疑っていなかった。


なのに…。


どうして私達は、出会ってしまったんだろう?



深夜、部屋中に鳴り響く強い雨音で、夏流は目を覚ました。

カーテンの隙間から見えるのは、今にも雷の音が聞こえそうな位、真っ暗な空。



「雨…。


いつの間にか降ってる。」


手で髪をくしゃりと梳き、目元に軽く触れると顔が腫れぼったくなっているのが解った。


ああ、私は泣いていたんだ…


目を閉じ、夢の内容を思いだしながら、どうしてまたこの夢を見たんだろうか?と夏流はぼんやりと考えた。

そして自分がまたこの夢を見たのは、忍が自分に絡んできたから。

自分の防壁が忍の存在で緩んでしまった所為だ、と夏流は自分の心の弱さを罵った。


踏み込ませてしまった…!


自分の心の中に、完全に忍の存在が焼き付いてしまった事実を、夏流は素直に認めた。


忍の言葉が自分の心の中に強く、突き刺さる。

熱い目で請われ、情熱を注がれ、求める言葉を囁かれ。


自分の中にまだ、彼に対する恋心が芽生えてなくても、激しい迄の想いをぶつけられたら、誰が拒めるだろう?

そう思う事が正当だと自分に言い聞かせた。


でもそれは自分の都合のいい様に解釈をしているだけ。

事実に目を背け、自分の存在が罪だと言う事から逃げているだけだ。



「透流くん。


私は貴方の家族にとって、忌むべき存在なのに。


なのに、私はまだ、ここに存在しないといけない。


私は…」


窓を開け、空を仰ぎ激しく降る雨を顔に浴びせながら夏流は、溢れる涙を雨と一緒に頬に流した。



7年前。


私は事故で大切な人を失った。


ううん。


確かに存在はある。


だけど心が無いだけ。


夢の住人になったあの人は、私にとってたった一人の家族だった。


だけどあの人が奪ったのは、私の好きだった人の家族。


父親を奪われ、愛情を奪われた彼に、私は何が出来るのだろうか?


自分の存在がなくなったら許してくれるのだろうか?


そう何度も自分の心の中で、答えを見つけようとした。


だけど、それは出来る事ではなかった。


そうなれば、誰が夢から覚まさせるのだろうか?


いつか目覚めた時、だれが側にいるのだろうか?



だから、私はその日から自分の心の中を閉ざした。


そうする事で許しを乞おうと思った。


幼い自分が思いつく最大の謝罪。




それに人に何も求めなければ自分は傷つく事はない。


心ない言葉で非難され、罵られ、嫌われる事も無い。



それ以上でもそれ以下でもない存在。


それが自分のあるべき姿だった。



「坂下君」


どうしてだろう?


彼といる時、私は何故か自分の感情を上手く扱う事が出来なかった。

彼の態度に怒りを素直に表し、腕の温かさに心が揺れ動き、そして…。


奪われる様な口づけに、私は自分の存在を強く意識した。





彼の存在が私にとって一体なんだろう?と言う問いに、まだ私は答えが出ない。



「好き」と言う言葉で簡単に終わらないと思う。


だって彼といる時、私は「藤枝夏流」でいられたから…。





「雨がいつの間にか止んでいる」



また、今日という日が終わった。


明日はまた今日と同じなのだろうか?


もしかして。



今があると言うことは前に進むという事。


確かな未来なんてあるとは思っていない。


永遠と言う言葉が存在するとも思っていない。


ただ。



何時か、あの夢が風化される日が来るのだろうか?


その時、私は…。




「透流くん。


私は何時か貴方と向き合えるときが来るのかしら?


そうなった時、私は。」



貴方にどんな言葉をかける事になるのかしら。





その日が既に近づいている事を、今の夏流には、知る由もなかった…。



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