表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「step」  作者: 華南
12/42

坂下家の人々

Act.12 坂下家の人々




忍は生まれた時から坂下家のアイドルであった。



それは既に決まっていた事であり、また7年前、我が坂下家の養子になった時点で確固たるものになった。


理由は亡くなった忍の父親に由来する。


忍の父親は、父の親友であり叔母の夫であったが、かなりの美丈夫で人格者であった。


気難しく、わがままで自分勝手な父は忍の父親の前では大人しく従順であり、そしていつも笑顔を絶やさなかった。


母は、父と幼なじみの間柄で結婚したが、もし、先に忍の父親に出会ったら、即、自分がプロポーズしたと言う始末。


祖母は、穏やかで優しく、ハンサムな忍の父に、どうして自分の息子がこうでなかったのか?

いっそ、養子縁組をして自分の息子にしようかと息子の前でぼやいていた。


そして我が妹は、初恋が忍の父であった為、大きくなったら絶対に結婚すると、毎日、俺たちの前で宣言した。


最後に、叔母は…。


忍の父親が、父の秘書をやめて故郷に帰る事になった時、叔母は婚約を解消して忍の父親を追いかけた。


その後2人は結婚し、忍が生まれたのだが…。



忍の写真を見た途端、みんな涙して喜んだ。


そう、忍は父親にとてもよく似ていた…。




「忍さん、何処にいらっしゃるの?」


「忍、何処にいるの?」


「しーちゃん、何処?」


けたたましい叫び声が屋敷中に木霊する。


ああ、三人の魔女が可愛い我が義弟に、毒牙をかけようとしている。


「ここですよ。

おばあさま、母さん、姉貴」


にこやかに微笑んで返事をする忍を見て、三人の魔女、いや、祖母である弥生(73歳)、義母の愛由美(54歳)、義姉の朱美(30歳)がうっとりした表情で忍を見つめ、そして豪を見た途端、一斉に非難の眼差しで見つめた。


先に声をかけたのは、祖母の弥生であった。


「あら嫌だわ、こんな所で豪と話して。

忍さんの性格がひん曲がったら困るから、やめてちょうだい。」


あからさまに不満げな声で話しかける祖母に、豪は顔を顰めた。


「それが同じ孫に対するお言葉ですか?

おばあさま。」


「当たり前でしょう?

だって貴方は、浩貴の息子だもの。」


「…」


祖母の言葉が正しいだけに、反論出来ない豪であった。

そんな弥生の言葉に、すかさず反応する愛由美。


「まあ、お義母さま。

豪は私の息子でもありますよ。」


「あら、そうだったわね。」


「ええ。」


底はかと無い、ひんやりとした空気が2人を覆った。

極寒のツンドラ地帯を思わせる冷ややかな雰囲気に、豪は、ぞくりと背筋に悪寒を感じた。


(相変わらず、怖いな〜)


「で、おばあさま、俺に何か?」


2人の異様な雰囲気に飲み込まれる事なく、平常で答える忍は本当に大物だと感心する豪。


「ああ、忘れる所だったわ。


ねえ、忍さん。


一光で、貴方の好きな食材が入ったと言う連絡があったので、今から食事に行きましょう。」


「待って下さい、お義母様。

忍は今日、私と買い物をする事になっていますの。


とても似合う服を見つけたので、銀座迄、私とデートです。」


「それは違うわ。

しーちゃんは私と、映画を見に行くの。


しーちゃんが見たいって言う映画の試写会が、今日の夜あるの。

勿論、プレミアム席よ。」


「いや、忍は俺と…」


「「「貴方は黙って」」」


ぴしゃり、と一括されて何も言えない豪を見て、苦笑を漏らす忍。

そんな忍の表情にぽおおと頬を染め、ときめく三人の魔女達。


その姿は、まるでアイドルに恋をする乙女(かなり語弊があるが)の様だ。


「今、11時ですよね。


では、おばあさま。

今から、一光に食事に行きましょう。


母さん。2時から銀座に行って、買い物とお茶をしましょう。


姉貴。

6時から、映画の試写会に行けば、間に合うだろう?


兄貴、映画が終わってから食事でいいだろうか?


これでみんなの希望に添えると思いますが、それでいかがでしょうか」


極上の笑みを浮かべて提案を述べる忍に、一体誰が逆らうであろう。


意義無し、と皆、忍の笑顔につられてにっこりと微笑み返す。



そう、忍の休日はこのように坂下家の面々によって、予定が決められる。


これが今迄の忍であった。


だがしかし…。



「あ、みんなに報告があります。


俺に恋人が出来ました。


卒業後、結婚する予定です。


なので、これ迄の様に、なかなかお付き合いが難しくなると思いますので、どうかご了承下さい。」


深々と頭を下げる忍に、ぴしりと空気が引き裂ける。


「え…?


えええ?


今、なんて」


「はい、なので、結婚したい相手がみつかりました。」


答える忍の姿を見て、3人の魔女達は一言も反論が出来なかった。

それは自分たちが今迄見たくても、決して見る事の出来なかった忍の幸せそうな笑顔であった…。


その夜、3人は初めて酒会を催した。

夜明け迄続いたそのどんちゃん騒ぎは、屋敷中に響く程の騒ぎであったが、皆、敢えて何も言わなかった…。


アイドルに失恋し、号泣した三人(?)が最終的に出した結果は、忍の結婚を心から応援しようと言う事であった。


そう、彼女達は、まだ見ぬ忍の子供に期待をかけた。


忍そっくりに生まれるであろう男の子に、自分達は、直に、アイドルの成長を見る事が出来る…。


その素晴らしいプランに瞳を輝かせる三人であった。



その後、忍と夏流の(一方的な)交際が、坂下家公認になった事は、言う迄のない事であった…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ