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<完結済>契約に基づき離縁して頂きます。これはお家の乗っ取りではありません!貴族家健全化計画です!  作者: つーかたかさん


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4話 3年前 プロジェクトの始まり

よろしくお願いします。

ロンダール伯爵家にメリッサが嫁ぐ3ヶ月前。


メリッサは王宮で優秀な文官として毎日忙しく働いていた。メリッサには恋人がいた。それが、同じく王宮文官として働くカイルだった。


カイルはロンダール伯爵の妹が子爵家に嫁いで産んだ三男。彼も優秀な文官だ。メリッサと働く部署は違う。


「メリッサ、今日も遅くまで無理をしているな。はい、ハーブティーだよ。手伝うから、早く帰ろう。送るよ」


夜の、他に誰もいないメリッサの勤務する仕事部屋。

カイルはメリッサの机に温かいカップを置き、愛おしげにメリッサの明るいミルクティー色の髪を撫でた。

彼の青い瞳に見つめられるだけで、メリッサは一日の疲れなど吹き飛んでしまう。

先日カイルがプロポーズし、メリッサが承諾したばかり。


「ありがとう、カイル。……あのね、そろそろ上司に結婚の報告をしましょう?」


「ああ、そうだね。先ずは私の上司に話をしよう。

…君を早く私の妻にして、毎日、毎朝、君の笑顔を見たいよ」

カイルは嬉しそうに微笑み、頬を染めたメリッサの薬指にそっとキスをした。


2人は翌日、カイルの直属の上司である国家財政統括官のもとへ向かい、結婚の意思を告げた。


しかし、上司の反応は祝福ではなく、重苦しい沈黙だった。彼は執務室の鍵を閉めると、2人を部屋の奥にある防音結界の張られた密室へと誘った。


「……二人の結婚報告、真に喜ばしい。だが、その前に国家の命運を賭けた、極秘プロジェクトに参加する気はないか」


上司から明かされたのは、世襲にあぐらをかき、国を蝕む無能貴族を内側から合法的に解体・再編成する『貴族家健全化計画』だった。王の考えた肝いりのプロジェクトだ。


その最初の標的が、奇しくもカイルの血縁である名門『ロンダール伯爵家』だという。


「没落寸前のロンダール伯爵家を内側から改革する。その第一歩として、貴族の娘であり優秀な文官を嫡子アベルの元へ嫁がせる。

その役にメリッサ、君を指名する。内側から査察を行ってほしい。君がこのプロジェクトの要だ」

驚いたメリッサが青い目を見開き、息を飲んだ。


「お待ちください!」

カイルが激昂して机を叩いた。普段は冷静なカイルの声が、怒りで震えている。


「メリッサを、あんな放蕩者のアベルの妻にするというのですか!? 私の従兄弟だが、ろくでもない奴だ!そんなこと、私はさせない!嫌です!」


「落ち着け、カイル。これは君にもチャンスがある話だ。結婚契約書には『名前』ではなく『ロンダール伯爵家嫡子』と記載させる。3年間の結婚を経てアベルを廃嫡とし、ロンダールの血を引く優秀な男に爵位を委譲する。その『次期当主候補』として、カイル、君も含めた親族の男たちに公平にチャンスを与える。

メリッサには、安全な避妊薬を毎月届ける。優秀な査察官を同行させる。

それに、メリッサが次期当主候補者と結婚したくなければ、3年後には任務完了で自由だ。建て直しに見合った報償金も支給される」


「しかし……!嫌です!メリッサを物のように……。それに、私はメリッサを愛しています。メリッサが大切なのです。あんな男に…」


怒り反対するカイルの袖を、メリッサは震えながら静かに引いた。


「……カイル、私、このプロジェクトを受けるわ」


「メリッサ!? なぜだ!」

カイルが信じられないという目でメリッサを見る。


メリッサはカイルの真っ直ぐな瞳を見つめ返し、固い決意を口にした。


「これは、私たちの未来のための戦いよ。3年後、任務を完遂すれば自由なんですよね?

カイル、もしあなたが他の親族に負けて伯爵家の新当主になれなかったら、私はロンダール家から去るわ。

そうして自由の身になって、あなたと結婚する。でも……あなたなら、他の候補者に絶対に負けないでしょう?

これは、あなたにとって伯爵家当主になるチャンスだわ。

私たちは結婚したら平民になる。私たちの子供も…。それが当たり前、それで十分だと思っていたわ。あなたとなら幸せになれるから。でも、もしあなたが伯爵になれたなら。

私たちの未来は大きく変わる。

それに、私はあなたが伯爵に相応しい人物だと思う。領地の民の暮らしを守る領主様になれると信じてる。

…あなたは3年後、キレイな身体でなくなった私でも結婚してくれるでしょう?」


メリッサがカイルにすがるような瞳で見つめ、言った。

カイルも決意を瞳に宿し、メリッサに頷く。そして、メリッサの手を強く握り締めた。


「……分かった。

死に物狂いで、私がロンダール家の当主の地位を勝ち取ってみせる。メリッサを伯爵夫人に、私の妻にしてみせる。

だから、3年だけ……私も我慢し、努力を続ける。3年後、仕事をやり終えてメリッサと結婚するために」

カイルが悔しそうに言った。


「補足だか、現当主の嫡子アベルには平民の恋人がいる。

その女を伯爵家に置くよう、働きかけよう。こちらの手の者を送り込んでいる。

アベルがどう動くかは絶対ではないが、メリッサの身を守るよう努める。

そうだな、変身魔法でメリッサの容貌を変えよう。絵姿も手に入らないよう手をまわす。

メリッサは社交界に出ないようにしよう。

おまえ達は候補者と共にロンダール伯爵家を立て直せ。

領地経営の手腕有りと認められれば、カイルはロンダール伯爵家嫡子となる。メリッサはそのまま、カイルと夫婦となる。

メリッサの持参金は退職金として用意する。

メリッサの実家のアンダーソン伯爵家にも、根回しをしてロンダール伯爵家との婚姻をまとめるようにさせよう。

これは秘密の任務だ。

ただし、カイル。査察官がお前を選ぶとは限らない。より優秀な親族の男が新当主にふさわしいと判断される事もありえる。…精進せよ。

指令が下れば、速やかに動け」



これが、上司、ひいては陛下の肝いりの極秘プロジェクト。

メリッサとカイルが交わした、秘密の計画の始まりだった。





お読み頂きありがとうございました。

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