2話
よろしくお願いします
ロンダール伯爵家は、外見こそ名門だが、中身は完全に腐りきっていた。
アベルの両親も政略結婚で、互いに冷え切り、それぞれ別の屋敷に愛人を囲って遊び呆けている。
当主である父親は領地経営を完全に家臣へ丸投げしていた。結果として悪徳商人や代官による横領が横行していた。
領民がロンダール伯爵家から他領地へ流出し、税収は激減。それなのに浪費を止めない伯爵家。
「本当、信じられないわ。こんな簡単な帳簿の誤魔化しにも気づかないなんて。それに、この帳簿、抜けまくってるし間違いだらけ!」
アベルに追い出された離れの一室で、メリッサはロンダール家の過去数年分の帳簿をめくりながら怒っていた。
アベルが物置同然と言った離れは、メリッサ達の執務室として既に初日から整えられていた。
王家が立ち上げたこのプロジェクトは、法を犯してはいない(あるいは、尻尾を出していない)ものの、世襲にあぐらをかいている無能貴族家を、優秀な貴族の娘を嫁がせることで『内側から強制的に立て直す、あるいは合法的に解体する』ためのものだ。
結婚した嫡子が優秀な嫁を大切にすればそれで良し。
変わらず浪費するならば、後継をすげ替える。
メリッサが望むのは、もちろん後者。
遊び呆けるアベルやその両親を一切邪魔せず、放置した。
彼らはメリッサが何も言わないのをいいことに、夜な夜な夜会やギャンブルに興じていた。彼らもメリッサを放置していたのだ。
彼らが遊んでいる間、メリッサは動きを始めていた。
ロンダール伯爵家には既にプロジェクトメンバーが使用人として入り込んでいた。
無能な執事長から仕事の実権を譲り受けた有能副執事。副執事が無能な使用人を選別、辞めさせては有能な使用人を雇い始めている。ある程度進めたら、無能執事長も解雇する。
メリッサとプロジェクトチームは、ロンダール伯爵家の血を引くものの、冷遇されていたり、埋もれていたりする「有能な人材」を、伯爵家に雇い入れ、領地経営の中枢に据えた。
こうして集まったのは、五人のロンダール家の血をひく爵位を継承しない男たち。
代表的なのは、アベルの従兄弟(叔母の三男)で、優秀な王宮文官のカイル。
アベルの祖父がメイドに手を出して生まれた庶子(アベルの叔父にあたる)のレイモンド。商会で働いていた所を引き抜いた。
アベルの祖父の妹の孫に当たる、ジェフリーとクリス。
アベルの祖父の弟の息子、ラルフ。
領地経営の補佐や、領地で実務する仕事、タウンハウスで執事見習い名目で呼び寄せた。
それぞれに仕事を命じて査定する。査定するのはセレナとライナスを始めとしたプロジェクトメンバーだ。
「カイル、レイモンド。この東部領地の流通経路、不自然な関税がかけられているわ。どう思う?」
メリッサが書類を差し出すと、カイルは書類に目を走らせた。
「これは……代官が特定の商会と結託していますね。メリッサ様、私に三日ください。すべての証拠を揃えてみせます」カイル。
「私は領民たちの不満を調査してきましょう。良い証拠が手に入ると思います。彼ら、現当主に相当怒っていますから、味方につけるのは容易です」
レイモンドも不敵に笑う。
メリッサは彼らに仕事を振りながら観察した。
仕事をきちんとこなす能力があるか。アベルに冷遇されているメリッサに対して、貴族としての義務を怠らず、敬意を持って接するか。使用人や領民を理不尽に虐げないか。
セレナとライナスが、彼ら五人の言動を毎日シビアに記録、採点していく。
「カイル氏、事務能力・人間性ともに『特A』。レイモンド氏、統率力・誠実性『Aプラス』。他の三名も、全員合格ラインを大きく超えています」
「素晴らしいわ。やっぱり、無能な本家の影に、こんなに優秀な人材が埋もれていたのね」
メリッサは微笑んだ。
メリッサがロンダール家の領地を裏から完璧に掌握し、悪徳代官を罷免。着実に領地を改革していく。
カイルとレイモンドはメリッサの補佐、ジェフリー、ラルフ、クリス達は現地に派遣され、実務をし、経営を黒字化して立て直していく。
その中で、信頼出来る人物を育て、仕事を任せていった。
次々にロンダール伯爵家の各地を正常化していく。
すべては、メリッサを支えてくれる、この五人の「新しいロンダール家の担い手」たちのおかげだった。
アベルたちは、領地から上がってくる税収がなぜか増え、自分たちの小遣いが増えたと勘違いし、さらに遊び呆けていた。
彼らは気づいていなかった。彼らの領地経営の帳簿が証拠として王宮に提出されている事。
メリッサが来てからの領地経営の帳簿と改革が事細かく記録されている事。
メリッサとロンダール伯爵家の血縁者5人、査察官のセレナとライナスが仕事を始めて3年が経過した。
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