分陝
外伝もこれで最終回です、読んでくれた人に感謝を、批判でも、間違いの指摘でも大歓迎です、よろしくお願いします。
召奭伝 第18話 (完結編)天下を真っ二つに叩き割った大内戦『三監の乱』は、我が召国軍の全力の参戦、そして東方からすべてを塵へと変えて進撃した斉軍の猛打によって、ついに完全なる鎮圧をみた。反乱の盟主となった武庚殿は商の誇りを抱いたまま堂々と処刑され、管叔鮮殿ら三監の兄弟たちもまた、それぞれの罪にふさわしい断罪と流刑に処された。そうして激動の血煙が収まったのち、新王朝の真の中枢で、私による完璧な策謀が音を立てて完成した。乱の直前、絶望の泥を啜った周公旦殿と交わした、あの密約。これによって私は、代々の周王の「養育権」を完全に掌握し、天下の富が注ぎ込まれる財政の最高機関「大府」をすべて我が配下へと収めた。さらに、太保として元より有していた裁判権と地方行政の全権をも統合し、名実ともに新王朝の最高権力者として君臨したのである。対する周公旦殿には、制度設計や儀礼の制定、そして新たな副都(洛邑)の建設といった、泥臭い戦後処理の雑務のすべてを押し付けてやった。そして、時は流れる。私が手元で英才教育を施し、立派な若者へと育て上げた新王・姫誦(成王)様が成人(加冠)を迎えられたその瞬間、私は周公旦殿へ向けて、政治家としての最後の「留め」を刺した。「摂政殿。王は成人された。これ以上の独裁は、天下の諸侯に示しがつきませぬな」王のため、国のためと、頑なな独裁を続けて朝廷で孤立しきっていた周公旦殿に、これ以上の反論は不可能であった。彼はついに折れ、全権を王へと返上して、中央政界からの「引退」へと追い込まれたのである。かつて論功行賞の天幕で、この私を中央から排除しようと謀略を巡らせた姫発殿と姜子牙。主導した姫発殿は疾うに世を去り、残された周公旦殿をも、私はこうして完璧にハメ落としてみせたのだ。さらに、新王朝の権力構造を決定づける「分陝」の沙汰が下される。天下の要衝である『陝』の地を境界とし、これより東のすべてを周公旦が、そして、新王朝の中央(都)を含む「西のすべて」の統治権を、この私が完全に掌握することとなった。(せいぜい、東方で強大化したあの姜子牙の機嫌取りにでも奔走するが良い、周公旦。……それこそが、中央を追われたお前の残りの役目だ)東方の怪物に怯える彼らを尻目に、私は中央の最高権力者として王を支え、周王朝を空前絶後の繁栄へと導いていった。だが、私の真の足跡は、華やかな王宮の中だけにとどまらない。私は西方の総督として頻繁に地方を巡察し、行き届かぬ市井の声を直接拾い上げた。役所の堅苦しい部屋ではない。地方へ赴いては、どこにでもある甘棠の木の下に敷物を広げて腰を下ろし、集まってきた平民や農民たちの他愛のない悩みや訴えにじっくりと耳を傾け、その場で一つひとつ、明快に問題を解決してやったのだ。「太保様、ありがとうございます!」「召公様こそ、我らの真の守護神だ!」泥にまみれた民たちが、涙を流して私の手を握りしめる。周王室や姜子牙からは「冷徹無比な政治の怪物」と恐れられたこの私が、天下の民草からは「誰よりも実直で慈悲深い聖人」として、熱狂的なまでに慕われ、崇拝されているのだ。これほど愉快な皮肉(政治)が、他にあるだろうか。ふと中原の地図を見渡せば、今回の王朝交代における本当の勝者が誰であるかは、もはや一目瞭然であった。周王朝が定めた爵位の最高位である「公」を戴くのは、我が召国(召公)のみ。東方を手に入れた姜子牙の斉国も、引退した旦の魯国も、格下の「侯」に過ぎない。そればかりか、かつて私を中央から追い落とすための蛮族の盾として与えられた、あの遥か北方の「燕国」すらも、我が長男の克が立派な大国(侯国)へと育て上げ、周の北辺に強大な牙としてそびえ立っている。本家は中央(都)の最高権力を握り続け、分家は北方に不滅の大王国を築く。仕掛けられたすべての罠を喰い破り、新王朝の誕生の裏で、最後に文字通りの「一人勝ち」を収めたのは、周王室でも姜子牙でもない。この私、召公奭であった。ザワザワと、風に揺れる甘棠の木の葉の音が、まるで私の勝利を祝福する喝采のように心地よく耳に響く。これからの数百年、我が召の血統が天下に覇を唱え続ける未来を確信しながら、私は静かに目を閉じ、会心の笑みを浮かべるのだった。(召奭伝 完)




