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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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不穏

召奭伝 第1話 我ら召の北方に位置する国――周。 先代・季歴きれきの時代から急速に領土を拡大させ、周辺の諸侯を次々と従えてきた新興勢力である。 当代の君主、姬昌きしょうに代わってからもその勢いは衰えず、貪欲に勢力を広げ続けていた。 そして、ついに。 彼らの版図は我がしょうの領地と重なり、国境線では小競り合いが絶えなくなっていた。「……また周の小部隊と衝突したか。底の割れた器のごとく、溢れ出て止まらぬな」 前線からの報告書を放り投げ、私は深く息を吐き出す。 連日の小競り合いによる苛立ちは、すでに限界に達しつつあった。だが、その苛立ちの底にあるのは、あまりに早すぎる周の膨張に対する、言語化しがたい「不安」だ。 あの国は、一体どこまで広がるつもりだ。そして、どこで止まるつもりなのだ。 この不穏な動きに、いち早く危機感を覚えた者がいる。 しょうの西方担当者であり、本国で重きをなす微子びし殿だ。 微子殿はこれまで、何度も周に対して警告の使者を送っている。自重せよ、と。超大国である商の目を引くような真似は慎め、と。 現在の商は、東方経営に血道を上げている。西方の些事にかまけている余裕はない。 だが、それも限度がある。 商に少しでも「反逆の意あり」と疑われれば、待っているのは容赦のない滅びだけだ。 周に反逆の意志があろうがなかろうが、そんなことは関係ない。疑いを持たれた時点で終わりなのだ。(なぜ、それが分からん……。いや、分からぬはずがなかろうに) 私と姬昌は、同じ地方を纏める「はく」の身分。 中央の商という絶対的な巨人の足元で、綱渡りのような舵取りを強いられる地方諸侯の苦しみは、痛いほどよく分かる。だからこそ、危うい均衡を破ろうとする周の暴走が恐ろしいと同時に、どこか他人事とは思えない、奇妙な共感を抱いてもいた。 本当に、商へ反旗を翻す覚悟があっての行動なのか。それとも、ただ肥大化する己の力に狂っただけなのか。 しかし、結末はあまりに早く訪れた。私の懸念は、最悪の形で的中する。「姬昌が、商の首都・朝歌ちょうかに召喚された、だと……?」 報告を受け、私の脳裏を冷たい戦慄が駆け抜けた。 あれほど警告されていたというのに、自ら虎の尾を踏み抜いたのだ。  同じ伯として抱いていたわずかな共感は、一瞬で冷徹な現実へと塗りつぶされる。ここで周に巻き込まれれば、我が召もただでは済まない。「馬鹿が。……自業自得だ」 吐き捨てた言葉は、愚かな同業者への罵倒か。 あるいは、間もなく商に押し潰されるであろう、哀れな隣国への弔いだったのか。 私はただ、西の空を見つめるしかなかった。

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