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第二十四話 対中国過激派組織「白虎隊」①


2032年、春。22時53分。


長崎県佐世保市近郊――かつての海上自衛隊基地。現在は”所有者の変わった港”の暗闇に、ひっそりと動く影があった。


大型の軍用船からは、中国人民解放軍の兵士たちが雑に物資を降ろしていた。武器箱は乱暴に床に放り投げられ、食料や弾薬はトラックに次々と積まれる。怒号や笑い声、金属がぶつかる音が港中に響き渡り、秩序よりも勢いと雑さが目立つ作業風景だった。


影に潜む者たちは、息を殺しながら港の様子を見守る。足音ひとつ立てぬよう、海風に混ざる作業音に耳を澄ませる。建物の陰、コンテナの陰──その存在は、夜の闇に紛れてほとんど見えなかった。


影の中で一人がそっと手を伸ばし、持ち込んだ小型の装置を滑らせるように地面に置く。次の瞬間、別の影が慎重に投擲姿勢を取り、ーーーピン、と小さな金属音を伴って、手榴弾を港内に向かって放った。


薄暗い港が瞬間的に煌めき、闇を切り裂く。

何が起きたのか、兵士たちは反応する間もなく、続けて複数の手榴弾が投げ込まれた。


怒声と悲鳴が入り混じる。

「又来了……!又是白虎队!(またか……!また白虎隊か!)」

「他们哪儿都能冒出来……该死,卑鄙的家伙!(奴ら、どこからでも現れる……くそっ、卑怯者め!)」

中国兵たちの声は恐怖と怒りで震えていた。


爆発の衝撃で地面が揺れ、弾薬箱や物資が散乱する。


闇の中から、イシカワとナカムラと数名の隊員が現れ、素早く中国兵の前に立ちはだかる。銃撃と格闘の応酬が瞬時に起き、数名の兵士が倒される。


混乱の中、必死に反撃する兵士と逃げ惑う兵士が入り混じる。銃声、怒声、金属がぶつかる音が港中に響く。


戦闘に参加していなかった隊員も続けて飛び出し、手際よく散乱した弾薬や物資の一部を集め、近くの軍用車に積み込む。

盗んだ車両には小型のGPS発信器が取り付けられているが、そんな些末な追跡など意に介さない。


戦闘中のイシカワ達も同様に、制圧した場所で中国兵を押さえ込みつつ、軍用車両を奪取し、港の出口へと撤退する。


背後では、散り散りになった中国兵が怒号とともに銃を乱射した。弾丸が舗装路を跳ね、金属片が火花を散らすが、狙いは定まらず、イシカワたちの軍用車両には届かない。

夜風にかき消されるように銃声が遠ざかっていった。


「歩哨は撒いた……が」

助手席にいたナカムラが、バックミラーに目をやる。


闇の上空で虫の羽音のような低いプロペラ音を立てながら近づいてきた、3機の巡回用の小型ドローン。

港で奪った軍用車のGPS信号を追ってきたのだ。機体下部の赤いランプが点滅し、まるで逃走経路をなぞるように隊を追尾してくる。


「やっぱり来やがったか」

イシカワは鼻で笑い、バックミラー越しに赤い光をちらつかせるドローンを指差した。


「放っとけ。予定通りだ」

ナカムラは淡々とした声で返す。その目は前方の廃墟を冷静に捉えていた。


佐世保市街は既に瓦礫と化し、人の気配は少ない。

現在の佐世保市街は、2029年の中国軍の占領へ抵抗した市民蜂起を力で押さえ込むため、無差別の爆撃を浴びせられた跡だ。

ビル群は骨だけを残して焼け落ち、道路は砲弾で裂け、街全体が黒焦げの瓦礫に変わっている。

生き延びた住民の多くはその後、反抗の芽を摘むために粛清され、あるいは強制的に収容所へ送られた。

人の声が消えた街に残っているのは、瓦礫と灰、それに鉄錆の匂いだけだった。


爆撃で半壊したビルの間を、軍用車両がエンジンを唸らせて疾走する。舗装の剥がれた道路に車体が揺れ、天井の鉄骨が影のように流れていった。


「振り切る必要はない。あいつらに“追っているつもり”でいさせればいい」

ナカムラの言葉に、荷台の隊員たちは緊張を解かれたように短く笑う。


しかし背後のドローンは執拗だった。赤い光を点滅させながら高度を上下し、軍用車の進路をなぞるように追随してくる。機体下部のセンサーが街路を照射し、瓦礫に反射して青白い光がちらついた。

時折、取り付けられた機関銃のような小口径火器が、短い弾幕を吐き出す。舗装路が削れ、火花が散った。


「ちっ、玩具のくせに張り切りやがって」

イシカワが吐き捨てる。


車列は予定ルート通り、黒焦げの廃墟の街を駆け抜ける。

やがて巨大な影が前方に迫った。かつての繁華街の象徴──大型デパートだ。


「入口、見えた。地下に入るぞ」

ナカムラの声と同時に、軍用車は減速もせず斜めに切り込み、破れたシャッターの隙間から地下駐車場へと滑り込むーーーー。


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