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第二十二話 微かに香る陰謀の影


2032年、3月。


旭川の雪月花による激戦から約1年。

北海道では、俄に雪月花の噂が広がっていた。まだ完全にロシアに屈したわけではない。

希望の光を残す抵抗勢力の存在が、人々の耳目を引いていた。

しかしあの戦いの後、雪月花による大規模な戦闘は報告されていない。

だがそれは決して彼らが力を失ったからではなかった。

むしろ長い沈黙こそが、周到な準備の証だったのだ。



一方その頃。富士山麓、南都留郡にある桜花の拠点。


広い倉庫を改造した作戦室には、地図や衛星写真、電子機器が所狭しと並べられ、桜花のメンバーたちは首都圏に関する徹底的な調査に没頭していた。

厚木飛行場襲撃で鹵獲した米軍の通信機は、今や敵の無線を傍受・解析するための最重要の武器となっている。


モニターを前に座っていたシノザキが、椅子を回転させてスガワラに向き直った。


「最新の解析結果だ」

彼は画面を指さしながら淡々と告げる。


「まず米軍の状況だ。厚木、横須賀、横田──三拠点は依然として強固な防衛体制を維持している。特に横田は航空輸送の要で、兵站の大部分を担っているようだ。厚木は海兵隊と海軍航空隊の拠点化が進み、横須賀は完全に第七艦隊の牙城になっている」


スガワラは黙って頷く。


「次に永田町だが……」

シノザキは苦々しげに言葉を選んだ。

「官僚連中は常時アメリカの監視下に置かれ、完全に傀儡化している。独自判断など不可能だ。中にはハニートラップにかかっている馬鹿もいるらしい……恥ずかしい話だ。もう奴らは体裁を取り繕う気も無いらしい」


続けて嘲るようにシノザキは呟く。

「もしかしたら2025年のあの頃、民自党政権の方が、まだ気骨があったのかも知れないな」


スガワラの眉がわずかに動く。


「さらに別件。旭川でロシア軍と不明の抵抗戦力が衝突した形跡がある。詳細は不明だが、規模は小さくない」


「俺たちと同じで、日本を諦めていない連中……か」

スガワラが低く呟く。


「首都圏の制圧状況については、住民の一部がNATO管理下の“保護地区”に逃げ込もうとしている。しかし米軍は露骨にこれを嫌がっている。住民を外に逃がすことで、自らの統治が揺らぐのを恐れているんだろうな」


シノザキは画面を切り替えた。そこには複雑な通信ログの解析データが映し出される。


「最後に……重大な内容だ。確証はまだないが──」

彼は小さな声で言葉を区切り、スガワラを正面から見据えた。


「アメリカが中・露と裏でやり取りしている形跡がある。単なる撹乱かもしれんが……もし事実なら、俺たちが想像している以上に事態は深刻だ」


緊張が走る。

スガワラはしばし黙し、深く息を吐いた。


「……そうか。最悪のシナリオが見えてきたな。アメリカと中・露のやり取りの件は、もう少し詳しく調べておいてくれ」


「了解だ」


スガワラは目を閉じ、深く息を吐いた。

頭の中には、通信ログに残されたごく僅かな痕跡がこびりついている──それは、表面には見えない巨大な力の動きの兆しだった。


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