第十五話 旭川攻略作戦会議
2031年、春。
雪月花の拠点に設けられた作戦会議室には、アグリを始め主要なメンバーが集まっていた。
地図、衛星写真、手描きの構内図。並べられた資料には、約三カ月間にわたり収集した情報が詰まっていた。
アグリはホワイトボードの前に立つと、旭川基地の見取り図を指差した。
「コムロたちの分析により、いくつかの有利な条件が明らかになった」
声は静かだが、空気は張り詰めている。
「マリューチン大佐は、基本的に基地中央の司令本部に詰めている。日中はほとんど動かない。指揮命令系統はマリューチンに一元化されており、奴を抑えれば指揮系統を崩せる」
アグリは指を滑らせて地図の北側を示した。
「侵入ルートはここ。北側外周フェンス。ここだけ巡回が3時40分から5分間途絶える。理由は不明だが、恐らくシフト交代のタイミング。センサーは既に解析済み、シノハラの作った電磁シールドで一時的に反応を遮断できる」
隣に座っていたミカが、作戦概要を読み上げる。
「第一目標:マリューチン大佐の確保。
第二目標:東側兵宿舎で就寝中のロシア兵の拘束。
第三目標:捕獲した人員を人質とし、基地全体を制圧」
「極力戦闘は避ける」アグリが後を続ける。
「交戦すればこちらの損害が大きい。戦闘は最小限に抑える」
そして全員の顔を見て言った。
「必要なら、人質を数名見せしめに殺す。恐怖が最も効果的な制圧手段だとロシア軍が教えてくれた」
重苦しい沈黙が場を包む。だが誰も反論しなかった。
すでに全員が手段を選ばないと決めていたのだ。
サラが質問する。「もしマリューチンが即時拘束できなかった場合は?」
アグリは一瞬黙り、首を横に振る。
「それでも作戦は継続する。他の人質だけでも十分なカードになる。非戦闘員も含めて、可能な限り多くのロシア人を『生け捕り』にする」
コムロが資料をめくりながら補足する。
「制圧後の展開も考えている。燃料庫と通信室を押さえれば、通信回線が確保できる。ウクライナの抵抗組織の件も気になるところだ」
シノハラが手書きの構内図を見ながら呟く。
「やるんだな俺たちは……あの基地の制圧を」
アグリは短くうなずいた。
「やるしかない。
この春、旭川を奪い返す。俺たちの手で」
誰もが黙ったまま、視線を交わす。
緊張、恐怖、そして、希望――それらが混ざり合っていた。
作戦決行時刻は、3日後の午前3時40分。
それは、旭川の雪解けとともに響く、北海道における最初の本格的な反撃の合図になる。




