第十三話 沈黙の冬
吹雪の音が、壁の向こうで怒り狂っている。
雪月花の拠点の一室に、アグリ、ミカ、シノハラ、コムロの四人が静かに座っていた。
照明は最低限に絞られ、厚手のカーテンが隙間なく閉じられている。
テーブルの上には広げられた地図とデータ。
雪解けの気配など微塵も感じられない、冷たい現実だけがそこにあった。
「……春を待って、一気に仕掛ける」
アグリの声は低く、重かった。
その言葉にミカが頷き、端末の画面を指で軽く弾きながら応じた。
「吹雪が続くあいだは視界も通信も限られる。今は潜伏と準備に専念するしかないってことね」
コムロは静かに目を細め、異論はないといった表情で黙っていた。
アグリは彼らの顔をひととおり見渡し、小さく頷いた。
「三月末までに、司令部の構造とマリューチン大佐の動線を完全に把握する。
侵入口、脱出ルート、障害物の位置まで、寸分違わず頭に叩き込む。
目標はあくまで、生け捕りだ」
四人は黙って頷いた。
言葉は交わさずとも、その目には揺るぎない決意が宿っていた。
しばらくの静寂のあと、シノハラが静かに口を開く。
その声には、長年を共にした仲間にしか出せない温もりが満ちていた。
「……なあ、アグリ」
「お前、平気な顔してるけどさ。本当は……どうなんだ?」
アグリは目を伏せたまま、しばらく動かなかった。
やがて、ぽつりと呟く。
「正義も理想も、もう捨てた。誰かが引き金を引かなきゃいけないなら、それは俺がやる」
後悔も、批判も、憎しみも――
全部、俺が背負えばいい。終わったら、それでいい。
言葉にはしなかったが、心の中でアグリは繰り返していた。
「……一人で抱え込まないでよ」
ミカが苦笑交じりに呟いたが、その声には怒りはなかった。
「戦いが終われば、すべて終わりだ。
雪月花が残る必要もない」
誰も反論しなかった。
ミカは端末を閉じ、シノハラとコムロも静かに顎を上げて頷いた。
「なら、徹底的にやろうぜ。情報収集も潜入訓練も。
三ヶ月で完璧に詰める」
「春が来るのが待ち遠しいな」
シノハラが皮肉混じりに言った。
アグリはゆっくりと立ち上がり、地図の上に右手を置いた。
「……冬の間に、敵のすべてを知り尽くす。
そして、春が来たら……仕留める」
窓の外では吹雪が狂ったように唸りをあげていた。




