リーダーのやり方
野花班の戦いは続く。
リアルタイムアクションバトルが、ターン制バトルに切り替わっていた。
だからこそ回避率というものが大幅に上がっている。
攻撃の切り替わる瞬間を野花が抑えているからこそ、班員は一拍開けて回避できている。
猛攻にさらされながらも、彼女らの心には余裕と楽観があった。
(イケる……修学旅行に最高グレードで行ける!)
(友達とか家族とか恋人とかを連れて行って、私に感謝しなさいとか大したことないわよとか言える! 恋人はいないけど!)
(最高級のホテルの最高ルームで甘い時間を過ごせる! 一緒に過ごす相手いないけど!)
(このまま、このまま、気を抜かなければ……)
このまま順調にいけば、彼女らは合格できただろう。
だがそうはいかなかった。
訓練が始まって二分後。
野花こころの魔力が限界に達したのである。
「ご、ごめんなさいっ! もう、げんか……」
回避と攻撃、両方を一人で行っていた野花はついに疲れた。
オオミカヅチの突風に押し出され、円盤の上を転がっていく。
バリアは解除されていない。
彼女が死んでいるということはないだろう。
だが戦闘続行は不可能となった。
「え、あ……きゃあああああ!」
残り三分耐えればいい、という考えもあるだろう。
だが気が抜けていた班員たちは対応できなかった。
そこから一気に崩れて、ちょうど半分の時間を残して全滅扱いとなった。
あくまでも結果論だが、一夜班よりも悪い結果になったのだった。
※
さて、相知音色とその班員の出番となった。
彼女とその班員たちもまた、雷と風の荒れる怪奇現象に入り込む。
現在合格者は一名だけということもあって、全員の顔は硬い。
少なくとも今回は合格できないのではないか、という雰囲気になっていた。
これは良くないことであった。
最初の一回だからこそ、結果がどうなるかよりも真剣に取り組む姿勢が重要になる。
そういう意味では、自分ならイケるだろうと思っていた一夜班よりも悪い心境であった。
相知もそれを感じ取っているが、口で言ってどうにかなるものではないとわかっている。
重要なのは行動だ。自分の発言に中身を感じてもらわなければならない。
「みんな。私を中心に、ある程度距離を取って」
将棋で言えば、王と歩の初期位置のような陣形であった。
アメフトで言えばクォーターバックとラインマンに近い。
どう見ても仲間を盾にしている陣形だったが、それでも反対意見はなかった。
なにせ相手は広範囲攻撃を得意としているし、そもそも前衛である彼女らに身を呈して相知を守る気がない。守ってほしいとも言われていない。
そのため、不承不承ながら指示に従って布陣する。
(どうなるんだろう……)
はっきり言って、戦意は未だにない。
班員たちは相知が何を考えているのかわからなかった。
『そろそろ行くぞ……!』
オオミカヅチの攻撃が始まった。
避けられるように放たれた『見掛け倒し』の攻撃は、逆に言って『見える上に怖い』というものだ。
班員たちは身をこわばらせながらも回避を試みる。
だが全員が上手く行くわけもない。一人の五等ヒロインは、足がすくんで動けなかった。
あまりにも凡庸な反応だ。
彼女はその目で近づく攻撃を見ながら、自分を呪っていた。
自分ごときがヒロインになろうなんておこがましかった。
ヒロインになれる人間というのは、魔力があるだけではなくてもっと特別な輝きがある女子だったんだ。
そのように自虐しようとしたところで、目の前に『影』が現れる。
「ていっ!」
盾と実体剣を手に立ちふさがる、相知音色であった。
彼女は逃げるのが遅れた班員をかばい、風と雷をはじき返したのである。
「え!?」
「落ち着いて!」
こうしている間にも攻撃は続く。
それを相知は弾き続けていた。
「このまま私が弾いているから、貴方は呼吸を整えてから相手を見て、攻撃を回避して!」
「……うん!」
彼女は相知の背中に『一等ヒロイン』を見た。
この人がいれば大丈夫と思える、リーダーへの信頼感を覚えた。
勇気を受け取った彼女は、続く猛攻をなんとか回避し始める。
(この子は大丈夫ね、他の子は……!)
相知はいったん元の場所に戻った。
前方にいる仲間を一望で確認し、崩れそうな子に接近してカバーする。
「少しきつそうね、私が守るから少し呼吸を整えて!」
「あ、はい!」
「貴方、少し力が入りすぎ。いざとなったら私が助けるから安心して」
「わ、わきゃりましたっ!」
「攻撃に反応するのが難しいのなら、一夜さんみたいに走り続けてもいいわよ。ただし私から離れすぎないでね」
「はっはい……!」
『たいしたものだな』
「私はスーパーではないので……これが精いっぱいです!」
常にすべての仲間を視界に入れて、崩れそうな子をカバーする。
そのために、自分の前に班員を配置した。
シンプルな作戦だが、これができるということは、防御力や機動力が高いうえで観察力や判断力が高いということ。
魔力が高いというだけではなく、優れた頭脳を持っていなければ成立しない戦法だ。
ーーー一夜夢が自分は大したことがないと言い、李派だけではなく相知音色に関しても格上だと思っている。これは間違いではない。
相知音色は鹿島派同様に、同等の魔力を持つ人間の中でも抜きんでた天才。
王尾深愛にとって、唯一のほぼ対等な友人である。
李派のようなインチキを除けば、五等ヒロインの中では一番強い。
三等ヒロインの中でも彼女に勝てる者はそうそういないだろう。
「相知さん! こっちも……」
「助けて~~!」
(二人同時!? それなら抱えて移動を……!)
「もうだめ!」
「そっちも!? なんとか持ちこたえて!」
自認通り、彼女はスーパーではない。
九人の班員を守るには手が足りない。
一人ずつならなんとかなるが、三人以上は対応できなかった。
それでも何とか持ちこたえ、結果として自分を含めて三人の合格者を出したのだった。
※
四番目は十石翼とその班員である。
野花や相知が見事なリーダーシップを発揮したことに触発され、十石もやる気を出していた。
(野花さんも相知さんも、班員に対してリーダーシップを発揮なさった。小規模ながら派閥が形成されるでしょう。私がそういう派閥を持てれば、李広殿をお守りすることにもつながる……)
彼女は前回の工場でも出動し、それなりの成果を上げていた。
彼女の尽力によって尊い命がいくつも救われた。
だが彼女にとってそこはあまり重要ではない。
最優先目標である李広の護衛が失敗に終わってしまった。
彼女にはもっと強くなる必要があった。
(それに私は実戦経験が浅い。指栖さんと違って前線に出る必要もある……成長しなければ)
彼女は自分の班員たちに作戦の説明を開始する。
「皆さん、ご存じだと思いますが……私は支援師、他者を瞬間的に強化することを得意としております」
まず語ったのは最善の作戦であったが、それを選ぶ気は無かった。
「よって、最善を尽くすのであれば、皆様を前衛に置き、私を保護していただきます。そのうえで私が皆様に攻撃支援を行い『制圧射撃戦術』を実行するべきでしょう」
制圧射撃戦術、という言葉はなんとなく理解できる。
だが具体的な内容はわからなかったので説明を待つ班員たち。
「訓練開始前に、私が皆様全員へ『一回だけ攻撃力を倍増させる』というバフをかけます。そのうえで怪奇現象の中に入り、皆様が一人ずつ順番にオオミカヅチへ射撃を行っていただきます。さすれば一夜さんが行った牽制射撃以上に相手を拘束でき、事実上の封殺が可能でしょう」
事前に説明されていた通り、五等ヒロインたちはハンデとして指栖からのバフが与えられている。
それも効果時間を半分にした代わりに(十二時間が六時間になっている)、効果が倍になる節制逆位置の付与付きだ。
これに十石のバフが盛られれば、一般五等ヒロインたちでも相当な火力が出せる。
オオミカヅチに当たれば、防御させたうえでのけぞらせることぐらいはできるだろう。
ヒロインが攻撃してのけぞらせる、他のヒロインが攻撃してのけぞらせる、他のヒロインが攻撃してのけぞらせる……を繰り返すことになる。
伝説で語られる(史実か怪しいという意味で)織田信長の三段撃ちの発展形に近い。
バフを盛られたとはいえ、一般ヒロインたちの最大MPは増えていないしMP回復もない。
よって制圧射撃にも限界はあるだろうが五分は持つはずだ。
「しかしこの作戦が成功してなんになるのでしょうか。皆様は射撃するだけ、私はただバフをかけなおすだけ。得られるものは合格のみ、成長はありません。なので私は正攻法での攻略を提案します」
正攻法。
全員が回避しつつ攻撃し、時間いっぱいまで凌ぐいばらの道。
達成できない可能性が高いが、それでも成長には必要なことだった。
「もちろん皆様の同意がなければ、制圧射撃戦術をとります。どうか、ご判断を」
「制圧射撃戦術で」
班員全員が即答していた。
「……熟慮なさった方がよろしいのでは」
「制圧射撃戦術一択」
全員が一切相談せず、群体やラインダンスのように同じ表情で選択していた。
「ら、楽な道を選んでも将来にはつながらないかと……」
「あのね、コレ、訓練だけどテストなの。成長の機会とかとは違うの。わかって?」
「……承知しました」
今更であるが、班員たちは全員が彼女のバフ目当てである。
それを最大限に生かす戦術があるのなら一択であった。
(これでいいのでしょうか……旦那様)
結論から先に言うと、全員合格したのだった。
ヌルゲーだったのだった。
※
さて、一般五等ヒロインの班決めであるが、どういう形式であったか。
まず各五等ヒロインが希望する班長のもとに集まり、九人以上いた場合はジャンケンをして、勝った者が残り負けたものは別の班に行く……を繰り返していった。
一番人気は十石翼であった。全員が彼女の班に入りたがり、熾烈なジャンケンが行われた。
二番は相知、三番は野花、四番は一夜。
そして一番人気がなかったのが須原であった。
彼女が弱いと思われているわけではない。
なんなら李、王尾の次に強いと思われている。
だが彼女の戦い方は非常に独特……というか完全に化け物である。
全身を化け物に変形させながら怪物や怪人を食べる上に、攻撃を受けても肉片がばらまかれるだけでケロッとしている。
そんな彼女に近づきたくないというのが本音だ。
それでもジャンケン弱者たちは彼女を班長として、訓練に参加するしかない。
人間を食べたりしないだろう……いや、食べたことはあった。人間を食べることはあっても消化吸収することはないので、襲われないと信じるしかなかった。
「さて、私たちが最後ね。十石に負けないように、全員一発合格を目指しましょうか」
(何をする気なんだろう……)
「それじゃあみんな、まず盾を構えて反復横跳びいってみようか!」
怪奇現象の中へ突入することなく、人工島で畳の上の水練が始まった。
彼女の班員は、とりあえず盾を持ったまま反復横跳びを始める。
いまいちやる気のない顔をしているが、それでもヒロイン。常人とは比べ物にならない距離を一気に移動しながら飛び跳ねている。
「よしおっけ~~! 今回はこの動きだけするように気を付けてね! 3Dアクションゲームのロックオン機能を使っている気持ちで、相手を中心にぐるぐる飛び跳ねる感じで行きましょう!」
「は、はあ……?」
「とはいってもいきなりだと実感がわかないわよね。それじゃあ一人ずつレクチャーしてあげるわ!」
班員のひとりの手を引いて、風と雷の怪奇現象に突入する。
今更だが、彼女はアーマーを着たままである。
少なくとも変形する気は無いらしい。
「オオミカヅチ~~! 何回かゆっくり攻撃して~!」
『よかろう……』
「はい来たよ~~! 盾を構えたまま横にジャンプ!」
「は、はい!」
「よしおっけ~~! ちゃんと相手の方を向いたまま横に避けられたわね! それが基本の動きだからね! それじゃあもう一回攻撃が来るから、一人でやってみようか~~!」
(すごいわかりやすい……)
須原は他の班員も一人ずつ練習させていった。
全員に練習をさせ終わると、もう一度班員たちにレクチャーを行う。
「今回のオオミカヅチは、射程距離こそ広いけど、攻撃の範囲は狭いの。左右にぴょんぴょん避けていればまず当たらないわ。当たるとしても攻撃が来る方向に盾を構えていれば、ちゃんと受けられるはずよ。防御しながら避ける、を意識すれば被弾しても五分は持ちこたえられるわ! 怖いのは仲間同士の接触だから、このさい怪奇現象の中を広く使いましょう。オオミカヅチを包囲する陣形を作って、自分と敵だけに集中してね!」
「はい……」
「全員で最高グレードの修学旅行をしましょうね!」
この後、須原班は全員が正攻法で合格した。それぞれが複数回の被弾をしたが、基本の動きを繰り返すだけで攻略していた。
「私はグリズリーでレクチャーを受けていたから、教えるコツも知っているのよ! これも人間の力ね!」
他の班の面々は、彼女の班に入ればよかったと後悔するのだった。
(というかコイツに全員任せればよかった……)
白上は指導する前に言ってほしかったと思うのだった。




