20.最終話
ずっと、人を好きになることなんてないと思っていた。
小さい頃から、人の心が読めてしまい、人を信じる事なんてできなくなっていた。
実の親すら――私の事を嫌っていたのだから。
無理矢理竜人に犯されて出来た子供。
それが私だった。
だから親が私を愛せなかった気持ちもわかる。
物心つく前にと殺そうとしたことも。
それでも――赤子の頃から最強だった私を親が殺せるはずもなく。
食事を与えなくても勝手に精気を吸い取ってすくすくと育つ子供に、恐怖を感じたのだろう。
いつしか、口では愛してる、可愛いとそれなりの普通の親の振る舞いをするようになった。
それでも日々強くなっていく私に、恐怖を覚えた親は、孤児院に私を捨ててどこかへ去っていってしまった。
それから私は田舎の孤児院で、竜人であることを隠し、普通に育ち騎士になった。
特に街を守りたかったとか、志があったわけではない。
ただ、危険と隣り合わせの騎士は人気がなくて就職が楽だっただけだ。
日々食べていけて、目立つ事なく普通に生きていければいい。
ずっとそう思っていた。
神官長に会うまでは。
本当に絵に描いたような、聖職者で。
すぐ他人のために命を投げ出そうとするし、他人の悪意に鈍感で騙されやすいし、世間知らずで人の善意を心から信じてる。
本来なら私がもっとも苦手とするタイプなのですけれどね。
それでも気持ちは真っ直ぐで。
純粋に私を愛してくれて。
こうやって彼を乱れさせて、泣かせたいという私の悪戯も、好きだからと全部受け止めてくれて。
親ですら与えてくれなかった愛情を。
ずっと彼は与えてくれた。
隣で、私に弄ばれたせいで疲れてしまったのでしょう。
ぐったりとなって寝入ってしまった、神官長の髪を指先で撫でれば、くすぐったいのか神官長が
「んっ……」
と、甘い声を漏らす。
ああ、本当にこの人は可愛くて。
また悪戯したい気持ちもわきますが……流石に、虐めすぎた感もあるので、今日はぐっと我慢します。
ちょっとイラついていたので、いつもよりハードなプレイを要求していまいましたし。
明日からまた神官長が私に手出しされるんじゃないかとビクビクする姿が浮かんで思わず笑みが溢れる。
やりすぎました。反省はしています。後悔はしていませんが。
きっとこの人と出会えなかったら、私は他人に興味などないまま、田舎の騎士暮らしをしていたでしょう。
かつて、それ程の力を持ちながら、何も野心を抱かなかったのが不思議だと神官の一人に言われたことがありましたが。
私はきっとこの世界に興味がなかったのだと思います。
他人をひれ伏させたいなどという願望も。
他人より優位に立ちたいという虚栄心も。
他人に頼りにされたいという気持ちも。
私には存在などしていなかった。
ただ、面倒だけれど、生まれてしまったものは仕方ないのでそれなりに生きていければいいとしか思っていなかった。
今まで生きてきて、こんなに気持ち的に充実できたのは、彼と出会えたからなのでしょう。
キスマークで赤い花びらの散る首筋に指を這わせれば、身体がぴくりと反応する。
その仕草が可愛くて、私は再び寝ている彼にキスを落とすのだった。