苦労人さよな
「ちょっと! 達志くんそれどういうこと!? 詳しく!」
「お、落ち着けって……!」
立ち上がり咆哮するさよなの珍しい姿におびえながらも、達志はなんとか落ち着かせようと声を掛ける。さよなも、ここがファミレスであるのを思い出したのか静かに座る。
その耳は、赤い。
「こほん……で、どういうことなのかな? 返答によっては殴っちゃうかもよ?」
「さよなさん、笑顔怖いっす」
座って落ち着いたように見えたが、その笑顔が「妙に怖い。しかも握り小ぶりを見せつける始末だ。
「だからその……なんて言えばいいかわかんねえんだけど、気持ちが落ち着かないっていうか。あの時みたいに、あいつにドキドキしないっていうか……」
達志自身も、この気持ちをどう表せばいいのかわからない。もちろん由香に対して全くドキドキしないわけではない。
だがそれはどちらかというと、大人の色気に対するそれや告白のようなあのシーンでのそれ……好きであるドキドキとは違う気がする。
「……じゃあ他に好きな子ができたとか?」
「それは……そうなのか?」
「私に聞かれても」
可能性としてはありえなくないが、他に好きとなり得る子と会うどころか達志はこの十年眠っていたのだ。出会いなんかあるわけもない。
「これが眠ってた影響の何かなのか、それともさよなが言った通りかはわからないけど」
「……めんどくさいことになったなあ。由香ちゃんますます頑張らないと」
こればかりは気持ちの問題なので、外からどうするわけにもいかない。面倒な二人がますます面倒なことになりそうだと、さよなは一人呟く。
ただ、もしかしたら単に混乱しているだけなのかもしれない。寝起きはぼーっとしてしまうことが常だし、それの延長戦の可能性もある。
十年寝てたのだから、その時間が長い可能性も。
「とはいえ……ちゃんとはっきりさせないとね。達志くんの気持ちもわかる……とは気軽に言えないけど、そうしないと前には進めないからね、二人とも」
「そうだな。……二人?」
「なんでもないでーす」
このときばかりは、相談に乗ってもらっている手前『お前も頑張らないとな』とはからかえない達志である。
そして、ここは自分がちゃんと導いていかないと……と。決意を新たにするさよなであった。
「……帰りに、胃薬買っていこう」
達志と由香をくっつけるにしろ、仮に達志に他に好きな人が出来たにしろ……この先胃が痛くなる出来事に直面するであろうことを思う。
だから、人生で初めての胃薬を買って帰った。




