困ったときのさよなさん
その日、帰宅した達志はさよなに連絡を取り、時間があるときにでも相談がしたいと約束を取り付ける。
「……それで、話ってなあに?」
そして現在、休日にファミレスで相談中だ。ちなみにこのファミレス、以前猛に愚痴に付き合ってもらったのと同じ場所だ。
とことんファミレス好きだよなーと達志は自分で自分のことをそう思っていた。
「実は……由香の、ことなんだけど……」
「あぁ、ようやく告白するつもりだとか?」
「ぶふっ……な、なにっ?」
飲み込もうとしていたジュースを、危うく吹き出しかける。なぜ由香の名前を出しただけでそんな話になるのか、わからなかったからだ。
当のさよなは、達志の動揺に目もくれることなく、のんきにコーヒーを飲みながら「あ、おいしい」なんて言っている。その態度、まるで達志の心の内なんて前からわかってましたよと言わんばかりだ。
「さ、さよな? 俺が由香のことどう思ってると思ってるか、言ってみ?」
「ん? 好きでしょ? わかるわかる」
問いかけたら、「こいつバレてないと思ってたのか」と言いたそうな視線を向けられる。イチゴが乗ったショートケーキをパクリと食べながら、幸せそうな表情を浮かべている。
達志はもうすでに胸を抉られた感じであるが。
「し、知ってたんだ……?」
達志でも、当時は気づいてなかったor気づこうとしていなかった自分の想いをさよなに見破られていたのかと途端に恥ずかしくなってくる。
しかし問題はそこではない。さよなに知られているということは、猛や下手をしたら由香本人にまで知られている可能性があるということだ。
「あ、安心していいよ。由香ちゃんは読めないからわからないけど、猛くんにはバレてないっぽいから。彼、そういうの鈍いから……ホント、鈍いから……」
そこへ、達志の心配を読み取ったように、クリームをなめとるさよながフォローを入れてくれる。猛は鈍いからと、さすが片想い十年以上のいうことは説得力が違う。
だが、由香はわからない、と一番重要な部分がわからないのではあまり意味がない。
「ま、他に知ってる人もいないと思うよ。達志くんが無自覚に由香ちゃんを好きなだけあって、そういう好意関係は周囲には漏れてるってわけじゃなかったし」
「そっか……猛を好きだって自覚してたさよなとは違うってことか」
「……そうだよ」
もう開き直ることにしたのか、猛への好意を指摘されても慌てることはない。それでも、赤くなった顔をコーヒーのカップで口元だけ隠してはいるが。
とにかく、『自覚』と『無自覚』の違いから、達志の気持ちが周りにバレていた可能性は低いとのことだった。
「……ぷはっ。まあ私のことは置いといてだよ。それで、ようやく認めた……いや自覚したわけだね? 由香ちゃんが好きだって」
いつまでも赤くなってはいない。カップを置いたさよなは、どこか楽しそうに達志に言葉を投げかけてくる。まるで、今までからかわれた分の仕返しだと言わんばかりだ。
その目論見は、間違っていない。
「ま、まあ……」
認めながらも目をそらし、頬を染める達志にさよなは思わず胸を高鳴らせる。ちなみにこれは異性に対するそれではなく、母性本能的なアレだ。
「じゃあ、すぐにでも伝えなよ! そうすれば……」
「けど! ……今の俺がその、告白したりしたとして。今ちゃんと教師やってる由香の迷惑になるだろ? だから……」
告白はしない、と言う達志に、思わずさよなは口をへの字に。盛り上がっていたテンションが一気に盛り下がっていく。
確かに立場的に、十年前は同い年の幼なじみだったが現在は十歳差の教師と生徒という、非常にややこしい関係である。ではあるのだが……
「ん、どうしたさよな? 腹でも痛いのか?」
「ある意味痛いよ」
言いたいことはわかるが……なんとももどかしい。いや、今感じているのは、もどかしいと思う以上に……
「似た者同士すぎる、この二人……」
「うん? なんて?」
「なんでもないよ鈍感おバカ」
「!?」
達志と由香、二人の考え方が見事に一致しているということ。それがなんというか、お似合いなのか面倒くさいのかわからない
無論、由香にその胸の内を問いただしたわけではないが……大方、十歳も年を取った私よりたっくんにはもっと若くてかわいいふさわしい子がいる、なんて思っているに違いない。
由香が達志に好意を持っていることは、聞かなくてもわかるし。
対する達志は、生徒……いや子供である自分よりも、もっと大人なふさわしい人がいるだろう、と思っているのだ。
そりゃ、世間的にも本人達の気持ちにも難しい問題だというのはわかるが……当の二人が、こうも似通った考えを持っているとなんだかもうもどかしいどころの騒ぎではない。
「これは……」
これは誰か、事情を知った第三者がなんとかしないと、二人の関係は変わることはない。私がしっかりしなければ……さよなは決意する。
「と、とりあえず達志くんの気持ちをはっきりさせよう。他の感情論は抜きにして素直な気持ちとして、由香ちゃんと付き合いたいってことでいいんだよね……?」
とりあえずは、本人の素直な気持ちを聞くべきだろう。そう思って聞いてみることにしたのだが……
「や、それが……確かにあの頃は好きだったよ。けど今は、その……本当に好きなのか、自身が持てないっていうか……」
「…………はぁ!!?」
素っ頓狂な答えが返ってきたために、思わずさよなは立ち上がり……今まで聞いたこともないような声が響き渡った。




