おこうさぎ
リビング、こじんまりと縮むように正座する達志と、その前に仁王立ちするリミの姿がある。どうしてこのような図になっているかというと、話は十数分前に遡る。
ルーアの家にいた達志は、ルーアに掛かってきたリミからのお怒り電話により、その後すぐに帰宅してきた。
開扉一番、「遅い!」とリミの一言に一喝され、結果としてリビングに正座することになってしまった。反省を示すにはこの体勢が一番だ。
「もうっ、心配したんですよ!? 帰ってこないし、連絡もないし……何か、あったんじゃないかって……ふぅっ!」
とはいえ……ただ怒られるだけならまだいい。良くはないが、まだいい。だが、怒りながらもそこに涙という別角度からのパンチがくれば話は別だ。
今達志を叱っているリミは、時折泣いている。主に心配した、の辺りで。多分、事故にあってたりしたらとか、襲われてたりしたらとか、そんな不安要素が彼女に涙を流させたのだろう。
要は、怒っているのか泣いているのか、もうわからない状態だ。
「あ、あのー、リミ……」
「ふぇぇ……な、泣いてないでふ……べ、別に心配してたわけじゃあ……」
ついさっき心配したと言ったばかりなのに、心配してたわけじゃあと言われても。説得力がないどころかツンデレってすらない。
泣いているのが恥ずかしいのか、目元を押さえている。めちゃくちゃ泣いている。
「姫、そろそろ……」
いつも冷静なセニリアが戸惑っている。三十分もこの状態なら当然だろうが。
「ダメです! タツシ様にはもう少し自覚というものを……」
自分が原因とはいえ、達志は十年も眠っていたのだ。また何かあったのではと、心配になってしまう気持ちが確かにあるのだ。
だからこそのお叱りだし、涙だ。達志もそれは充分わかっているが、いかんせん正座を三十分というのはなかなかキツい。この体の状態なら尚更だ。
「リミちゃん、もうご飯も冷めちゃうし……」
本来この役割は母であるみなえのはずなのだが、リミのあまりの剣幕に何も言えなくなってしまっている。
「遅くなったのはともかく、連絡もしなかったのは悪い。忘れてた」
達志の言い分としては、ルーアの家でいろいろなことがあった。互いの過去を吐露したり、クマに会ったり……あまりの衝撃の連続にすっかり頭から抜け落ちていた。
が、それを言い訳にするつもりはない。連絡をしなかったのは事実だし、その件でみんなを心配させたことに変わりはない。
だから素直に謝るが、それがまたリミに引っ込みをつかなくさせているらしい。このままじゃまた魔法を暴発させそうな勢いですらある。
本当に悪いと思っているのとは別に、半分はその心配から早くリミに落ち着いてほしかったりする。
「わがりまじたぁ……ぐすっ」
達志の真摯な謝罪と他二人からの宥めにより、とりあえず落ち着いたらしい。ぐすぐす言いながらも、わかったと納得してくれた。
情緒不安定……とはちょっと違うのだろうが、これからリミを過剰に心配させるのはよそう、と心に固く誓うことになった一件となった。
ちなみに、食事中、リミがぐすぐす鼻をすすり続けてて落ち着いて食事どころではなかった。




