萌える女子(?)トーク!
それからたっぷり五分。なんとか落ち着いた由香は、最後に大きな深呼吸。うん、だいぶ落ち着いた……と思う。
なにせ、今までリミは達志のことが好きだと思っていたのだ。直接聞いたことはなくとも、見ていればそういう素振りはいくらかあったと思うのに。
それは由香の勘違いだったのだろうか? いや、それにしては……
……と、リミが落ち着いたと見計らったところへリミが一言。
「私のことはともかくとしても、由香さんは好きな人いるでしょう? タツシ様のことを」
「……ふぁっ!?」
予想外過ぎるボディブローに、再び由香の頭の中はパニック。というより、内容が内容だけに、リミの言葉を飲み込んだ瞬間顔が真っ赤になっている。
「なななっ、にを!? わた、わしがたっくくんを!?」
それに言語がおかしなことになっている。それは、リミの言葉が正解であると言っているようなものだが……そのことに、由香は気づかない。
ちなみに「たっくん」呼びは、リミが由香のことを先生でなく名前で呼ぶのと同じ理由。二人きりで周りにごまかす必要もないからだ。
そもそも、なぜリミがそのことを知っているのだろうか?この気持ちは達志はもちろん、幼馴染である猛にも話していない。
唯一、さよなとはお互いの恋を応援し合おうと気持ちを話し合っている。
さよなは猛に好意を寄せている。だが、この十年それらしい進展は全くない。もしかしたら、達志が眠ってしまっているのを気にして、自分から告白はできないでいるという可能性もある。
だが由香自身、気にしなくていいと話してあるし……さよなのことだから、達志の件がなくても、このままの関係性だったんじゃないかと思う。どうやら告白する勇気が持てないらしい。
この十年間……いや、幼馴染の彼に想いを寄せていたのはそれよりも前らしいので、実際にはもっと長い片想い期間だ。
……とまあ、由香の想いを知っているのはさよなだけであるはずなのだ。なのになぜリミがそれを知っているのか。
まさかさよなが話したとも思えないし……いや、まだ確証は持ってないはずだ。だから、ここはなんとかごまかして……という、由香の浅はかな考えは……
「もしかして、バレてないと思ったんですか?」
この一言に、一蹴された。その表情はまるで「こいつ、マジか……」と言いたげな表情だ。もしかして、私ってそんなにわかりやすいのだろうかと由香自身心配になってきた。
ちなみにこの感想は以前、達志がさよなに抱いたのと同じものである。復学初日、連絡をくれたさよなに大して達志は、さよなが猛に昔から好意を抱いていることを言い当てた。
その時達志は、自分しか気づいていないと思っていたのだが、実際には由香も知っていた。由香も案外鋭いのだ。
まあそれはともかくとして……端的に、由香の気持ちはリミにバレてしまっているということだ。いやそれどころか、もしかしたら他の人達にも?
……いやいや、それはさすがに。付き合いの長いリミだったからだろう、さすがに。そう信じたい。
「由香さんほどわかりやすい人もそういないと思いますけど」
「待って、その言い方、他にもバレてるみたいな言い方なんだけど」
そんなにわかりやすいだろうか。本人としてはうまくポーカーフェイスを演じられている方だと思っているのだが、どうにも周りから自分に対する印象と差があるように感じる。
だからまさか、リミの言葉は予想外で。
「タツシ様と由香さんの関係を知ってる人なんて数えるほどもいないし話さない限り知るよしもないですけど……由香さんの想いについては、鋭い人は気づいてるんじゃないですかね?」
「マジか」
「マジです。視線とか言動とかわかりやすすぎです」
もしそれが本当だとしたら、どうなってしまうのか。まず、恥ずかしさで間違いなく死ねる。
リミの言うように、こちらから話さない限り由香と達志の関係が周りに知れ渡ることはないだろう。だとすると、これは単純に、教師が一生徒に想いを寄せているという構図になるわけで。
「……記憶消す魔法とかないかな」
「ないから素直に受け入れてください」
ずん、と肩を落とす。あくまでまだ可能性の段階ではあるが、自分の想いが知られているかもしれないと思うと気が気でない。
「それにしてもタツシ様も幸せですよね。由香さんみたいな女性に想ってもらえてるなんて。私が言うのもお門違いですけど……十年もの時間がズレてしまった幼なじみへの消えない恋心、素敵だと思います」
そうリミが言う。リミ自身、達志が十年間眠ることになった原因を作ったのだ、負い目はある。
由香が伝えられたかもしれない想いを、十年もの間彼女の心の中に押し止めてしまったのだ。
達志の時間……正確には彼が幼なじみ達と過ごすはずだった時間を奪い、それだけでなく彼の周りの人達にも多大なる影響を与えた。今挙げた由香の想いがまさにそれだ。
彼女の想いを、伝える時間を奪った。
だから……決してロマンティックとは言えないけれど。十年もの時間、好きという想いを持ち続けていた由香を、素直にすごいと思うのだ。
「なんだか照れるなぁ。けど私はてっきり、リミちゃんもたっくんを好きなんだと思ってたけどな。だからさっき、スタイル云々の話をしたのかと思ったし。自分をもっとよく見せたいとかで」
由香は、リミに対して恨みの感情を抱いてはいない。それどころか、リミが自身の恋敵になる可能性すら受け入れているようだ。大人だなぁ。
「スタイル云々は単に気になっただけですよ。……私は、自分の命を顧みずに見ず知らずの私のことを助けてくれたタツシ様を恩人だとお慕いしてます。感謝と、尊敬と……それに、こんな素敵な人がいるんだと、胸が熱くなりました」
ポツポツと語るリミの表情は、本人は気づいているのかわからないが、とても穏やかだ。それはまるで、愛しい人のことを話すときのような。
ぼんやりと、由香は思う。リミはおそらく、今まで恋をしたことがない。十年間ずっと達志のお見舞いに通っていたのだ、そんな暇があろうはずもない。
加えて、達志は由香にとってヒーローのようなもの、恋を知らないリミの感情がごちゃごちゃになるのも無理はない。
もしかすると、リミが気づいてないだけで実際は。それに、もしも由香に対して負い目を感じているのなら……遠慮という気持ちが、彼女本来の気持ちを隠しているのかもしれない。
あくまで予想でしかないし、本当の気持ちは彼女自身しかわからない。けれどもしかしたら、いずれ恋敵が、現れるかもしれない。由香はそう感じていた。




