サキュバスらしさ
ルーアの、サキュバスの特殊能力的なあれが発動して、こうして成人の姿になった様を見ていると……なんとも不思議な気分になってくる。
目の前で変身したことにも驚きだが、今までロリ状態のルーアしか見ていないから違和感しかない。
「いやはやあれだな。アニメとかの魔法少女の変身パンクシーンとか、なんでその間敵が攻撃しないんだとか思ってたが……納得したわ。そんな無粋、論外だよな。敵さんだって変身シーンじっくり見てたいもんな」
「タツってたまにおかしなこと言いますよね?」
達志が妙なことに妙な納得をしたところで、ルーアは呆れのため息。昔からの疑問に納得したというのにまさか頭の悪い子におかしい奴呼ばわりされるなんて思わなかった。心外だ。
やれやれ、と小バカにしたように笑い、腰に手を当てる。
「しかしどうですタツ。これで、私のすごさがわかったでしょう」
と、ぺったんからたわわなそれへと成長した胸を張るルーア。思わず目を見張ってしまうのは男の性だ、仕方ないだろう。うん、仕方ない
「そうだな、とりあえず見た目だけはえろえろな体つきに成長したってことはわかった」
「そこだけ切り取られるといかにも私がいかがわしい印象しかないんですけど」
だって実際いかがわしいじゃん……とは言わない。
「ってことはあれだ、夜な夜な男の部屋に侵入しては、毎晩えろいことをして……」
「してませんよ!? いったいサキュバスにどんなイメージ持ってるんですか!」
「むしろそんなイメージしかないんだが?」
どうやら達志が想像しているサキュバスと、実際のサキュバスは違うらしい。まあルーアが特別なだけかもしれないが、他に比較対象がいないのでどうも判断のしようがない。
顔を真っ赤にしているルーアは、『そういうの』とはまだ縁がないのだろう。
「男の部屋に侵入とか、そんな印象持ってたなんて心外です。第一、私はまだしょ……って何言わせるんですかあ!」
とにかく達志の想像していることは一切ない。それと同時にうっかり口を滑らせたルーアが真っ赤なまま眼帯を外そうとしているが、それを見た達志は焦ってその行為を止める。
「待て待て危ない危ない! ただでさえシャレにならん威力の魔法がえらいことになりそうだから!」
サキュバスの特殊能力的なあれで体を成長させたルーア。なんの根拠もないが、体が成長したことによって魔法の威力が上がってそうで怖い。
ただでさえ、元々の魔法の威力が笑えないものなのだ。それに、一度ルーアの魔法に巻き込まれた時はヘラクレスのおかげで怪我もなく無事だったが、今はいない。
そんな状態でルーアの魔法をこんな間近で受けて無事でいられる保証はない。
大怪我で済めばまだマシ、というところだあろう。
「まったく……タツはハレンチですねえ」
「いや、最後のは自滅……なんでもないや」
ひとまず落ち着いてくれたらしいルーア。またもや達志のせいにされた気もするが、ここで突っ込んでまた取り乱されても面倒なので否定もしないでおく。
「けどじゃあ、ルーアの思うサキュバスらしいことって何よ。むしろサキュバスらしいこと何をしてんの」
達志の思う、サキュバスの諸々事情が現実のものと異なるというのなら、ルーアにとってのサキュバスらしさとはなんだろう。そう思って、聞いてみた。
「え……それはその……寝ている相手にえ、えっちな夢を見せたりとか?」
「俺の想像とあんま変わんなくない!?」
「か、変わりますよ! タツが言ったのは『現実』、私がしているのは『夢』! ぜんっぜん違います!」
ルーアの思うサキュバスらしさ。それは達志の想像していたものとそう変わらないような気もするのだが、全然違うと必死に否定される。
その勢いに押されつつも、気になったことがある。達志の質問に対する答え……それにこの口振りはまさか。
「お前、毎日そんなことしてんの?」
「っ……」
自分が実際にやっていること。聞いてみたら、言葉を詰まらせた。これはルーアの考えるサキュバスらしさと共に、実際にやっていることらしい。
視線を泳がせているし、わかりやすすぎる。
「いや、まあいいんだけどさ。サキュバスってか、俺は他の種族について詳しく知ってるわけじゃないし。そういうことしないといけないノルマ的なもんでも種族間の中であるのかなとか。
……ただ一つ気になったんだけど……お前それ、クラスメート相手にやってたり?」
ルーアの行為に、達志は口を出すつもりはない。種族の中で決まりとかあるのかもしれないからだ。
ただサキュバスの、その夢を見せるというのが自分の見知った相手限定なのかそうでないのか。場所の範囲の限界があるのかどうか。
その辺り……詰まるところルーアが夢を見せている相手が誰なのかが気になった。
そしてそれを聞かれたルーアは……
「…………」
「したのか! してんのか! 滅茶苦茶目が泳いでんぞ!?」
先程よりもわかりやすく、目を泳がせていた。冷や汗もすごいし、図星だということは一目瞭然だった。




