ロリータサキュバスの真価
……サキュバスであることを証明するための準備。そのためにルーアが部屋を去って、もう十分が経過しようとしている。その間、待っているよう言われた達志はただ待っているしかない。
去ったといっても元々広くない、アパートの一人用の室内だ。部屋と部屋とを仕切る扉があり、せいぜいその向こうで何かをしているのだろうが……
「……何してんだろ」
正直、覗いてやろうという気持ちが十回くらいあった。だが待っててと言われたわけだし、覗いたら見ぃたぁなぁとか言いながらこの辺にある水晶で叩かれたり杖で刺されそうだ。
それに、中ニグッズがたくさん置いてあるので退屈はしなかった。仮にも一人暮らしの女の子の部屋をあちこち見るのもどうかとは思ったが。
そんな中で、こうしてきちんと待っていた。そして待ち始めて十分が経った頃、ようやく準備が終わったのかバンッと勢いよく扉が開かれる。
「待たせましたね!」
「ホントにな。ったく準備って何を……ふぁっ!?」
扉が開き、高らかな、偉そうな声が聞こえる。こんなにも待たせといてなぜこうも偉そうなのか。一言文句を言ってやろうとルーアに視線を向けると……その格好に、思わず変な声を上げてしまう。
それもそのはず……ルーアは先ほどまでの制服ではなく、なぜかぶかぶかの……ワンピースだろうか……を着ていたのだ。
「お前……なん、その……えっ?」
あまりに珍妙な光景に言葉が出ない。その様子を見て、ルーアはなぜか得意気だ。
「ふふん、驚いてますね? まあ確かに、私にはちょっぴり大きなサイズで……うっかりポロリしちゃいそうですもんね?ふふふ……」
「そこじゃねえよ! いやそこもだけど……そこも含めてだよ! だいたいポロリとか十年前すらあんま聞かねえぞ!」
十年前ですらあまり聞くことのなかった単語を使っているルーアは置いておいて、改めてその格好を見る。
本人はちょっと……と言ったが、どう見てもぶかぶかだ。体格的にも、中学生(下手をしたら小学生)が成人女性の服を着ているようにしか見えない。
そのサイズの合ってなささから、服を着ている、と言っていいのか困ったところではあるが。
「まさか準備って……それか?」
これだけ時間をかけて、ぶかぶかの服を着てくるのが準備だというのか。だとしたら、その意図が掴めないのだが……
「そうです! この方が、変化がわかりやすいかなと思いまして」
「変化ぁ?」
なぜこんなにも見えそうなはしたない格好でこうも堂々としているのか。達志にとってはもはやそっちの方が不思議になりつつある。羞恥心とかないのだろうか。
そんな疑わしい視線を向けていると……
「む、なんですかその目は。ははーん、さては私のこの、ナイスなボディが見えそうで見たくて仕方がないとか? タツもエッチですねえ」
なんて言い始めた。やらしーですねえ、なんて言葉を続けながら、眉を下げたなんとも腹の立つ表情で見つめてくるのだ。
準備だなんだと言っておきながら、もしかしてからかうために着てきただけではないのか。
殴りたくなるような表情な上に、達志にとっては聞き捨てならない言葉だ。だからそれに応えるために……
「……はっ」
思いっきり鼻で笑ってやった。それを受けたルーアは動きを止め……カタカタ震え始める。
「な、なあ! い、今鼻でわら、笑いましたね!?」
「悪いな。俺、ガキには興味ないんだよ」
「タツと同じ高校生だし! しかも私がフラれたみたいな言い方やめてくれません!?」
理不尽だ―と抗議するルーアだが、理不尽を訴えたいのはこっちだ。今日は別にルーアと漫才するために家に来たわけじゃないはずだが……
「ぬぬ……いいでしょう! ならば見せてあげましょう私の進化した姿を! このサキュバスの力で、タツなんか見惚れて襲っちゃうくらいのダイナマイトバディに変体してやりますよ!」
一人燃え上っているルーア。趣旨が変わってきている気もするが、今ルーア着ているぶかぶかの服に今の台詞を加えると、つまりこういうことだろう。
サキュバスは、自身の体を変化させることができる。
達志も、いろいろ書物を読み漁ったことでその辺りの予想はつく。要は、ルーアのロリッ子体型がボンキュボンになる……ということだろう。
だから、体が大きくなっても大丈夫なように今ぶかぶかな服を着ているのだろう。
「ふふん、では……とくとみるがいい!」
燃え上ったルーアのテンションが最高潮に達したところで、不敵な笑みを浮かべている。直後、その体が淡い桃色の光に包まれ……達志に見えるのは、ルーアのシルエットだけになる。
そして、シルエットは……体が、一回り大きくなっていく。さらには手足が、体の大きさに合ったサイズへと伸びていく。
こういう表現が正しいかはわからないが、魔法少女もののアニメの変身パンクを見ているようだ。
実際の時間は、そんなに経ってはいない。光が徐々におさまっていくのは、変体が終わった合図だとわかった。ルーアを包んでいた光が完全に消え、そこから姿を現したルーアは……
「ふふん、どうです!」
「おぉ……」
ぶかぶかだったワンピースは体にフィット(フィットしすぎている気もするが)しており、ミニスカワンピースみたいになっている。
背はもちろん高くなり、達志の首ほどしかなかった身長は、今や達志がルーアの首ほどしかない。
髪も伸びたようであり、その容姿はまさに『自称高校生の中学生(もしくは小学生)』から『色気のある大人のお姉さん』に変化していた。
ワンピースも体のラインがわかるほどのサイズになっているし。
「こりゃ驚いた……予想してたとはいえ、実際に見るとすげえな」
「そ、そうですか?」
体の変化は予想していたが、こうして実際に見ると予想を超えてくるものだ。すげーすげーを連呼する達志に、ルーアも満更ではなさそうだ。
「どうです? これでもまだガキ扱いしますか?」
「いや、さすがに無理だわ……サキュバス侮ってたわ。さすがサキュバス! えろいな!」
「何を感心してるんですか!?」
悪魔の一種……とはいうが、達志的には一般にえろいイメージしかない悪魔、それがサキュバスだ。
そんなえろイメージとかけ離れたお子様ルーアがどうサキュバスと結びつくのかと思っていたが、なるほどこれなら納得だ。
もしルーアがサキュバスと知らないならば、本人とは気付くまい。もちろんルーアの面影はあるが、姉か若々しい母親かとでも思うくらいだろう。
これが魔法ではなく、サキュバスの特殊能力的なものだというのだから驚きだ。
「それにしてもさ……」
「ん、なんです?」
「いやあこの状況、世のロリコン諸君的には、戻してってコメントが殺到しそうな勢いだなと」
「なんの話ですか!?」
ただ、外見は変わっても中身はまったく変わっていないようであるが。




