嘘は嫌いタバコも嫌い
「こっほん……いやあ、さっきはお見苦しい姿をお見せしました」
呪詛状態から元に戻ったルーアの謝罪を聞きながら、達志達はルーアの家に向かって歩いていた。若干赤くしたルーアの頬は、恥ずかしがっているからかそれともビンタの影響か。
なんにしても、とりあえず元に戻って何よりだ。
「いや、別にいいけど。それにしても、まさか異世界人から現代技術についての指摘を受けるなんてな。すごい何て言うか……迫力もあったし」
「あっはは、お恥ずかしい。歩きスマホにしろ歩きスマホウにしろ、そんなことしてる輩に人権なんてないと思ってるのが事実とはいえ」
今度こそ照れ臭そうに笑うルーアだか、話の内容が物騒というか、切れ味がありすぎる。人権まで否定するとは。
当のルーアは、鼻唄を歌いながら歩いている。どうやら今のは、ナチュラルに毒を吐いたらしい。天然毒吐きロリだ。
「ま、まあその話は置いとこう。それより、ルーアん家ってあとどれくらい?」
このまま今の話題を進めていると、昔のこととはいえいずれ達志が歩きスマホ犯だということがバレそうだ。
なので自然な流れで、話題を変えることにする。
「あぁ、もうすぐですよ。そこの角を曲がって少しすれば……ゲホ! ゲホゲホっ! うぇっ!」
「!?」
自宅まであとどれくらいで着くかを聞かれたルーアは、指を指しそこの角を曲がるジェスチャーをしながら答えるが……
突然、すんごいむせ始めた。
「ど、どうしたルーア! 大丈夫かっ?」
口を押さえて激しい咳をするルーア、その様子に当然ながら慌てる達志。二人の様子は、周りからも若干注目を集めていた。
「だ、大丈夫です……これはそう、発作のようなもので……」
「発作!? ルーアお前、持病持ちなの!?」
徐々に落ち着いていくルーアの口から、聞き逃せない言葉が聞こえた。発作だとは、初耳である。なんらかの病気か、それとも……
悪い方へ悪い方へと考えがいってしまう達志に対して、しかし冷静に対応したのは……
「だから大丈夫ですって。発作っていっても、タツが想像してるようなヤバイものじゃないですから」
ルーア本人であった。おろおろしている達志の肩をポンポンと叩き、落ち着くように促す。しかし、大丈夫とは言われても……
「ほら見てください、あそこ。タバコを吸ってる人がいるでしょう?」
落ち着いて落ち着いてと、なぜかルーアになだめられてしまうが、とりあえず彼女の言う通り、指差す方向に視線を向ける。
そこには、確かにタバコを吸いながら歩いている人がいた。
「おう、そうだな」
「私タバコダメなんですよね。煙を吸うだけでもう……うっぷ」
「それを発作と呼んでいいのかは微妙なとこだが、まあその気持ちはわかる」
わかりやすく口元を押さえながら嫌そうに眉を潜めているルーアに、達志はどこか共感。タバコをどうのこうのと、先日猛と一会話あったところだ。
この十年の間に、タバコを吸うようになった猛。達志同様タバコ嫌いだったはずだが、付き合いやなんかで吸い始め、今じゃ立派な喫煙者だ。
「まったく、周りの気持ちも考えてほしいですね。自分の周りの人間全て煙大好きとでも思ってるんでしょうか、まったくおめでたい」
「さっきから辛辣っすね……」
「私、嘘は嫌いなので!」
先ほどの歩きスマホウ同様、タバコに関しても嫌悪感を露にしている。嘘が嫌いだというのはいい心がけではあるが。
「だいたいタバコなんて実質ヤクですよヤク、法律で禁止されてないだけで。中毒になって体壊して……いや、煙吐いて周りに影響を与える分、ヤクよりタチが悪いのでは?」
「ヤク言うなよ」
タバコを吸っている男からわかりやすく離れて歩くルーアに合わせて、達志も隣を歩いていく。その間も、タバコに対するルーアの悪印象談義は続く。
「まさに百害あって一利なし。というか、わざわざお金を払ってまで体を悪くする意味がわからないんですけど」
「まあまあ……付き合いとかも、あるかもしれないし?」
タバコ嫌いとして達志も共感できる部分はあるが、幼なじみである猛と話した際、彼は付き合いで吸い始めたと言っていた。なので全面的に否定するのも、なんだか悪い気がする。
だがそんなこと、ルーアには関係なかった。
「体を悪くしないといけない付き合いなんてごめんこうむります」
ばっさりである。これには達志も苦笑い。
「近くでタバコ吸ってる人がいたら、極力息は止めます」
「あ、それはわかるわ。ケムいもんな」
妙に意気投合するところも、どうやらあるようだ。
「はぁあ……もうタバコなんかなくなってしまえばいいのに、なんか知りませんがハイテクになって進化していってるから望みは薄ですね……」
「ハイテク……?」
こうして話していると本気でタバコが嫌いなのだろうということが伝わってくる。もうタバコの滅亡を祈るかのような勢いだが、それは難しいと言うのだ。そこに、違和感を感じる。
タバコがハイテク……だと? 進化してるからなくなる可能性は低いというのはわかるが、タバコがハイテクのワードの意味がわからない。
「どゆこと?」
「それはですね……あ、ちょうどいいや。あれを見てください」
意味を問い掛けそれに答えようとするルーアだったが、それを中断しとある所を指差す。そこには、先ほどからタバコを吸っている男がいた。
男はタバコを吸い終わったらしく、そこから移動しようとしていた。
そこで、信じられないものを見る。男は、タバコをポイ捨てしていたのだ。ああいうのがいるから、さらに喫煙者への印象が悪くなるというのに。そのままタバコは、地面に落ちて……
「……落ちない?」
落ちていったタバコは、地面に到達する前にその動きを止める。空中で動きを止めたのだ。そしてタバコは、そのままふわふわと飛んで……近くの捨て場へと自分から突っ込んだ。
「……何あれ」
「あれがポイ捨て予防のために新しく追加されたものです。魔法を応用してポイ捨てされてもタバコ自身が、近くの捨て場へと自分を捨てに行くという……」
「何その技術! こんなんでも現代技術に魔法技術が合わさってんの!?」
これから確かにポイ捨てからの火事はないだろうが、こんなことに魔法を応用している事実に複雑な気持ちだ。よく言えば、こんなところにまで魔法という技術は広がっているといえる。
複雑な気持ちを抱きながら、進むルーアに着いて歩いていると……ルーアが、正面を指差した。
「あ、あれが私の住んでる家です!」
彼女の住んでる家があると、嬉しそうに告げるのだ。ようやく……というほどの距離でもなかったが、話し込んでいたからかやけに長く感じた。
ルーアの指した先……そこには、一軒のアパートが、住宅地とは少し遠い位置に建っていた。




