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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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歩きスマホウにご用心



「ふんふふふーん♪」


「機嫌良いな、お前は」



 街の中を歩く達志は、スキップをしながら先に進むルーアに向けて声をかける。学校終わりにいつもの道を通って帰らないというのは、なかなかに新鮮だ。


 現在は、放課後で帰宅中だ。帰宅とはいっても、達志はルーアの家にお呼ばれしたので向かっている最中だ。ちなみに達志とルーア以外には誰もいない。


 あの場にいたメンバーも着いて来ているわけではなかった。



『ぐっ……私も行きたいですが、どぉーしても外せない用事がありまして』



 と、誘われた達志に着いていくつもりだったリミが血の涙を流すのではないかというほどの葛藤の中で断った。どうやら部活の方で何かあるらしいが、深くは聞かなかった。


 同じ理由でヘラクレスも断念。折り紙の部活に何が忙しいことがあるのかと思ったが、そこは部活それぞれなので突っ込まないことにした。


 達志も部活を理由に断ろうと思ったが……



『大丈夫です! 私は今日は休みです!』



 何が大丈夫なのかまったくわからないし話も聞いてない。ルーアが部活休みだからって達志まで休みとは限らないのに。


 改めて断ろうと思ったが、なぜかマルクスがたまには休め、と言ってきたのだ。副部長に言われては仕方ない、今日は部活を休むことにしたのだ。



「おっと、赤です」



 とまあ、いろいろ面倒だとは思っていたが……こうして一緒に帰宅しその表情を見ていると、こういうのもたまにはいいかと思う。


 二人きり自体があまりないが、思えば身内以外の女の子と二人で下校なんて初めてかもしれない。


 由香やリミは、幼なじみに同じ家に住んでるというので身内のようなものだし。


 ……しかしさっきから見ていると、普通に普通だ。てっきり赤信号を飛び出すとか奇怪な行動をするんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、そんな心配はなさそうだ。するとそこへ……



「タツタツ。見てくださいよあれ、歩きスマホウですよ」



 ちょいちょいと達志の服の袖を引っ張り、とある方向を指差す。そこには、正面より少し顔を下げて、そこにあるらしき何かににタッチらしきことしながら歩いている男性がいる。



「歩き……なんて?」



 聞き慣れたような聞き慣れないようなその言葉に、達志は首を傾げる。するとルーアは目を丸くしていた。



「え、歩きスマホウですよ」


「スマ……何?」


「まさか、知らないんですか?」


「うん」



 聞き間違いではなかったようだ。歩きスマホ、なら知っているが、歩きスマホウ、には聞き覚えがない。言葉の意味的に、それがなんなのかわからんわけでもないが……



「えっと、まずスマホウってのがわからないんだけど……要は、スマホの魔法バージョン、ってこと?」


「簡単に言えばそうですね。スマートフォンというインターネット機器を現代技術というなら、これは魔法技術を駆使したインターネット機器とでも言いましょうか」



 そう言って、ルーアは手のひらに何かを出現させる。それはか一見何もないように見えるが、よく見ると透明になっているスマートフォンのような形をした何かがあった。


 透明なスマートフォンを型どるように、うっすらと緑色の線が見える。ハイテク感を感じさせられる。



「これが現在主流になりつつある携帯機器……スマートマホウ、略してスマホウです」


「え、そうなの? スマホにかけてるんじゃないの?」



 透明であること以外は一般のスマートフォンと対した差はないように思える。が、ルーアはなぜか自信満々げに笑みを浮かべる。



「これはですね~。こうやって手を離しても空中に浮くんです。そして、空中に表示されている画面をタッチすると……あら不思議! パネルが反応するではありませんか!」


「その顔やめろ腹立つ」



 ……とはいえ、なかなかに凄い技術だ。一見ただ何もない空間をポチポチしているだけだが、見ると確かに画面が表示されそれを操作できているし、インターネットにも接続できている。



「なんかそういうの、ラノベで見たことあるわ。そっかそっか、ついに現実に実現されたのか」


「これも一種の魔法ですからね。お値段は張りますが、誰でも気軽に魔法が使える……それがスマートマホウ、スマホウです!」



 なぜかドヤ顔で説明してくるルーアだが、今は目の前の技術に夢中だ。なるほど、まさしく魔法と科学の融合体のようなものだ。思えば目覚めてからこういった道具には触れてこなかった。


 だがこうして両方の世界の技術が合わさっているものを見ると、なんだか感慨深い。


 ……だが一方で、気になることもある。



「けど、どうやってネットに接続してんだ? それにWi-Fiとかどうなって?スマホに比べて使いやすさは?」


「…………まあそういった込み入った話は後で」



 あっさり流された。込み入った話かはわからないが、まあ今は赤信号の前でスマホウ談に花を咲かせている時ではないだろう。


 ……というより、妙に間が長かったが、もしかして知らないんじゃないだろうか。



「それとタツ、常々思っていたんですが、スマホではなくスマフォだと思うんですよ。正式名称はスマートホンじゃなくスマートフォンでしょう? ならば略称も……」


「それこそ後でよくない!?」



 妙なこだわりのようなものを見せるルーアだが、それも含めて一旦置いておこう。本題はそこではない。


 そもそも、こういう話になった原因は……



「で、歩きスマホウ? がなんだって?」



 ニュアンスとしては、歩きスマホと同じようなものだろう。先ほどルーアが、歩きスマホウが、どうのこうのと言ったからこういう話になったのだ。


 それを聞いたルーアはそうでした、と手を叩く。



「あそこ見てくださいあそこ。ほら、歩きスマホウをしている男がいるでしょう?」


「ん……あぁ、いるな」



 ルーアが指差す先には、彼女の言う通り、画面が表示されていると思われる場所を凝視しながらポチポチしている男がいた。



「十年経ってもああいう輩は減らねえんだな。で、あいつがどうしたの?」



 歩きスマホをしている人をよく見かける世の中では、歩きスマホウも珍しくないのではないだろうか。どうしてわざわざあの男を、歩きスマホウをしている人間を指したのか。


 その真意を聞くと、ルーアは……



「やれ不注意で事故るだのやれ若い奴に多いだの……ああいうのがいるから、同じような私達まで同じ目で見られるんですよ? いい迷惑ですよね」


「お、おう……そうだな」


「そもそも、歩きながら操作する意味がわかりませんし。そこまでしてしたいことがあるなら、立ち止まってしろってことですよ、気持ち悪い」



 小馬鹿にしている、というよりは何やら敵意のようなものさえ見える。ルーアがこうも毒を吐くとは……



「し、調べ物とか緊急の用事じゃないの?」


「ならなおのこと、立ち止まってやればいいとは思いませんか。あんな風にボチポチポチポチと気持ち悪い。……あ、今あの男、女性にぶつかったのに謝りもしませんでしたよ、死ねばいいのに」


「おいっ、さらっと言ったな?」



 ルーアの言わんとすることもわからんでもないが、正直歩きスマホの経験がないわけではない達志は純粋にルーアの援護をすることができない。胸が痛い気分だ。



「あ、今のはさすがに言い過ぎでしたね。死なない程度に車にはねられて事故れ……いやそれだと相手側に迷惑がかかりますね。……一人で転んで怪我すればいいのに」


「お前、何かあったの? 執念がすごいよ?」


「ああいう輩は一回痛い目にあわないとわからないバカばかりというか、人の迷惑を考えない自己中クソ野郎だからこの私が直接……」



 怨念というか呪いのような言葉をぶつぶつと並べるルーアはもはやこちらの声が聞こえてないようだ。女の子が言っちゃいけないような言葉を言っている。


 本当に魔法を撃たれては敵わないし、このままではラチがあかないので半ば抱えるようにして、青になった信号を渡っていく。


 その間も呪詛語は発し続けていたが、とりあえずビンタしたら正気に戻った。

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