運命のサーブ
「ハァ、ハァ……ぜぇ、はぁ……!」
日差しが暑くなり、気温が上昇していく。しかし額から流れる汗は、照り付ける太陽のせいだけではない。だけというか、日差しは関係ない。
まるで長距離マラソンを走った後のように、額から汗が吹き出し、息切れも激しい。現在テニス部に体験入部中で、副部長のマルクスと試合をしている達志。
彼がもう疲労困憊なのは、誰の目から見ても明らかだ。
「な、なかなか……はぁっ、やるじゃ、げほっ……ねぇか……」
「……いや、その……」
自分をここまで追い詰めた相手として、達志はマルクスに賞賛を贈る。体力は限界でも、せめてもの強がりとして不敵な笑みを浮かべておく。
だがその賞賛を受けたマルクスは、若干引き気味だ。というか、彼は息切れ一つも起こしていない。それは相対する者同士のレベルの違い……という問題ではない。
というか、それ以前の問題だ。
「けど、はぁ……次こそは、点をもぎ取る!」
「いや、半分以上自滅だよな」
メラメラと燃える達志に対して、引き気味のマルクスは自分はほぼ何もしていないことを告げる。実際、ここまでの展開は達志の自滅で試合は進んでいた。
現在のポイントは40-0。もちろん、マルクスが40だ。ここまでの試合展開、達志のフォルトから始まり続いてまたも失敗しダブルフォルト。
サーブ権を交代しマルクスのサーブを受けたが、打ち返すことはできたもののネットを越えず失点。
打ち返せるだけの動体視力は健在……であったが、あれがマルクスの本気のサーブだったかはわからない。どちらにせよ、打ち返せたそれもサーブと同じく力不足で失敗。
二回目のサーブ権も同じく、ネット越えならず。これで達志は三失点してしまったわけだ。半分以上というか、もう全部達志の自滅である。
その上、ほとんど動いてないのに……汗がだらだら、息は絶え絶え、とんでもない体たらくだ。トサカゴリラテロの時はしばらく走っても大丈夫だったのに。
やはりただ走るだけとは違うのか、疲れが蓄積されていたのか。それにしたって、ここまでとは思わなかった。
「なあ、もうやめないか? 見てるこっちがつら……」
「うるせえぇー! まだやれる! 俺はまだやれる!」
達志にいい印象を抱いていないマルクスすら、中断を促すレベル。だがここで中断しようものなら、本当にただのカッコ悪いやつになりさがってしまう。
負けるにしても、せめて最後までやりきる。それがせめてもの、礼儀だとも思うから。
「ほら、来い! 言っとくけど手加減すんなよ、本気で来いよ!」
「……わかった」
諦める様子のない達志に、マルクスの軽いため息が聞こえてくるようだ。
次のマルクスのサーブ……先ほどのサーブが本気でなかったとしたら、あれを打ち返せなかったのに本気サーブを打ち返せる自信は、正直ない。
「な、なんなら魔法使ってもいいんだぜ!」
なぜこの期に及んで自らハードルを上げるような言葉を言うのか。もうほぼやけになっているんじゃないかなと自分でも思う。
「悪いが、僕は魔法は使えないんだ」
が、返ってきたのは予想に反したものだった。達志の周りの人間が使える人が多いから、てっきり使えるものと思っていた。だが、使えないのならばどうしようもなくはない。
とはいえ状況が変わったわけではない。これまでも素の力で負けてたわけだし。だが、できるかできないかじゃない。やるかやらないかだ。
たとえできないとしても、それがやらないことには繋がらない。だから……
「おらぁ!!」
バゴォンッ!
……最後まで食らいついてやるという闘志は、一気に削がれた。
「……ナニ、アレ……」
壊れたロボットのように、達志は首を動かす。後ろ……ボールの到達点を見る。テニスコートの外と中とを仕切る金網……それにボールが埋まっており、尚勢い良く回転していた。
よく見ると煙も出てないか。あれ、あんなのマンガでしか見たことない。あんなのどうやってんだ。どんな力だ。
他の部員は、なんの驚きも見せていない。つまり、あれがまぐれの威力でもなんでもないということだ。
「やっぱりまだ、コントロールが定まらんな。だが……次は入れる」
それを行った当の本人は、不満そうだ。ボールの威力がどうあれ、フォルトには変わりないのだから。
だが、次は入れる……と言葉通りその目も語っていた。背筋に緊張が走る。あんなのいったい、どうすれば……
「いくぞイサカイ。これで……終わりだ!」
二球目……運命のサーブが放たれ、それは今度は狙い狂うことなく達志のコートへと迫る。正直、あんなの打ち返そうとしたら腕が持っていかれそうだ。
それでも……こうなったらやってやる! 目では追えている。だから、到達点に先回りし、構えて、そして……
「キャウン!」
ベコッ……という音を立てて、勢いの乗ったサーブボールは……突如コートに入り込んできた何かに、ぶつかった。




