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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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ヒャッハー!



「オラオラァ! オラ! オラオラァァアア!」


「……え、なにあれ」



 突然の爆音。平和な昼休みは、無粋な不純音に邪魔される。爆音とともに、まるで校舎が揺れたような感覚を覚える。もしかしたら、校舎に何かが当たったのかもしれない。


 驚き達志は、窓の側へ。外を覗くとそこには、バイクに乗った集団が校門をぶちやぶって入ってきているところだった。テレビでしか見たことがないが、まるで暴走族だ。


 わかりきったことだが、完全に敵意剥き出し。友好の欠片もない。


 その先頭にいるのが、先ほどからヒャッハーとまるで薬でもキメてるんじゃないかと思えるほどにいい具合に頭のネジが外れている男だ。


 だが問題なのは、男のイカレ具合よりも、暴走族の数よりも、男の見た目がとんでもないことだ。達志はまるで、信じられないものを見たように目を見開く。



「……『ジャイキーラーン』」


「へ?」



 隣から聞こえる言葉に、達志の思考が中断。見るといつの間にか、隣にはマルクスが立っているではないか。マルクスが呟いた聞き慣れない言葉に、達志は眉をひそめる。


 いや、正確にはその言葉にどこか引っかかりを覚えているのだが、その引っかかりがなんなのかがわからない。



「じゃい……なんだって?」


「『ジャイキーラーン』、知らないのか? 最近世間を騒がせている、暴走族の集団だ。で、先頭にいるあの男がリーダーの蛾戸坂(がとさか) 鶏冠(とさか)。手配書も出回っているし、ニュースで見た顔だ、間違いない」


「ふーん……略して『ジャラン』だな。……ぷ、ふふ……ぷはは! が、がとさかって……とさかって……ぶはははは!」



 学校に現れたのは、まぎれもなく暴走族であったらしい。そうだ、思い出した。確か入院中、暇だからとつけていたニュースの中にそんな名前があった。


 興味ないので忘れていたが、なるほど引っかかりの正体はそれか。それにしても……なんて、的確過ぎる名前だろうか。



「どうした? 狂ったか?」



 突然のクラスメートの奇行に、マルクスが若干……いや露骨に引いた顔をする。いかんいかん、ただでさえリミの件でよく思われていないのだ。これ以上評価を下げかねない。


 よく思っていなくても、わざわざ達志に情報を教えてくれるのだ。思いのほかいい奴かもしれない。優等生っぽいからその性ってだけかもしれないが。


 ちなみにさっき聞いたが、マルクスは男子の、そしてリミは女子の、それぞれを代表したクラス委員らしい。



「ぶふふ……わ、悪い悪い。それよか……暴走族なのに学校来るってどういうことよ、なんのつもりだ?」


「知らん、あいつらに聞け。とにかく、あいつらを追い返さないと……」


「ヒャッハー! 全員外に出てきな! さもないとてめーらまとめてヒャッハーすることになるぜ! ヒャッハー!」



 学校全体に聞こえるんじゃないかと思えるほどに大きく通る蛾戸坂の声。暴走族が学校になどと、どういうつもりであろうか。


 学校中に聞こえる声は達志の鼓膜を奮わせる。それにしても、なんとも語学能力のない、頭の悪そうな恫喝であろうか。


 もう限界だ。主に腹筋が。



「言語能力ゼロかよ……くく……とりあえず、言われた通りにしようぜ……ぷくく」


「緊張感を持てよ」



 外に出ないと、みんながヒャッハーされてしまうらしい。それは多分良からぬことなので、ここは従っておいた方が懸命だろう。


 それにしても、暴走族が攻めてきたというのにマルクス以外も、みんな冷静過ぎやしないだろうか。


 指示に従い、達志達は外に出る。教室の窓から見下ろす存在だった奴らと、今は同じところに立っている。警戒する生徒達及び教員達。


 そこで気がついたのだが、どうやらここの生徒数はあまり多くないらしい。一クラス約三十人、計三学年だとしても、その数は百人を超えた程度といったところであろうか。


 これで全校生徒なら、それはひどく少ない。


 百人余りの生徒、そして十数人の教師。緊迫した空気が流れるが、その緊張感をぶち壊す声があった。



「なああんた……蛾戸坂さんだっけ。なんで、トサカから人間生えてんの?」



 それは達志だった。先ほど……蛾戸坂の姿を見てから気になり過ぎて、彼の腹筋を苦しめていた原因を、問いかける。


 辺りにはしんとした空気が流れ、質問をぶつけられた蛾戸坂は目を丸くしている。だがやがて……



「トサカから生えてるわけじゃねえよ! それにこいつぁモヒカンだ! ふざけやがって!」



 憤慨した。だが達志は、笑いを噛み殺す。だって仕方ないじゃないか。達志が目を見張った理由、ハマった理由、先ほどから笑っている理由……それが、この質問にすべて込められていた。


 言った通り、トサカから人間が生えていると思えるほどにトサカがでかいのだ。


 普通頭に生えているだけのトサカ(本人曰くモヒカン)のはずだが、それが異様にでかい……というか長いのだ。身長と同じくらいあるのではないかと思えるほどに。


 だって長すぎて、地面についている。あの状態でバイクを飛ばしてきたのなら、さぞや髪は痛んでいることだろう。


 赤と黄色とが混ざり合ったトサカを撫で、蛾戸坂は不機嫌そうに達志を見ている。だが達志は、笑いをこらえるのに必死だ。


 筋肉質な体に異質にすら映る髪型は見た目だけでも危ないのに。その上苗字がガ『トサカ』なのだ。しかも名前は直球この上ない。


 これはヤバい、主に腹筋が。



「なに笑ってやがらァこのガキャア!」


「ぶははは! も、もう無理……!」



 さらに蛾戸坂の導火線に火をつけてしまっているが、無理だ。それに、笑っているのは達志だけではない。


 生徒や教師からもくすくすと笑い声が漏れており、それどころか蛾戸坂の部下からも笑い声が漏れているではないか。それほどに達志と蛾戸坂のやり取りははまってしまったらしい。



「……黙れ」



 だがそこへ、恐ろしく低い声が響いた。それにより場の空気が変わる。笑っていた部下から笑いが消えたのが、その証拠だ。蛾戸坂は額に血管を浮き出し、目を見開いている。


 鼻息を荒くし、ものすごく怒っている。まるでゴリラだ。



「ぷっふははは……」



 だがそんな中でも笑いを止めない者がいた。正確には止められないのだろうが、達志は腹を抱えながら笑い続けていた。


 ドツボにはまってしまったらしいが、この時点で達志はクラスメートや他生徒から『いろんな意味でヤバい奴』と思われてしまっていた。



「くくく、げほげほ! ははっ、し、死ぬ……」


「なら死ね」



 むせるほどに、笑い死にしてしまいそうな達志にとうとう蛾戸坂も限界が来たのだろう。その手には黒く光る拳銃があり、構えるや躊躇なく弾丸を放つ。


 その狙いは眉間、爆笑中の達志に避ける手段はない。放たれた弾丸は狙いが狂うことなく、達志の眉間を……



 パキンッ……!



 ……撃ち抜くことはなかった。弾丸は達志の眉間に届く前に砕け散り、その役目を果たすことなく散ったのだ。確かに弾丸を撃ったはずの蛾戸坂は微かに動揺し、部下にも動揺が走る。


 対して学校サイドは驚きも何もなく、まるで当然のことだと言わんばかりだ。


 そこでようやく、達志は素に戻る。周りの空気から、なんだかとんでもないことになっているようだと察したようだ。首をキョロキョロと見回している。



「え? なに、どしたの?」


「……キミはすごいないろんな意味で」



 知らないうちに命を狙われて、知らないうちに命を救われてしまったようだ。今いったい何が起きたのかと原因を探る。だがそれは、弾丸を撃った男も同じことだ。



「い、今なにが……」


「今、タツシ様のことを狙いましたね?」



 戸惑いの中、凛と透き通る声が一つ。その主は一歩前に出ると、その存在を露に。美しい白髪を揺らし、頭からぴょこんと生えたウサギの耳が印象的な少女、リミだ。



「タツシ様には、指一本、傷一つ負わせません!」



 堂々と立つその姿に、瞳に、恐れはない。キッと暴走族を……達志を狙った男を睨み付け、堂々たる宣言。


 達志を守るように立つリミの背後にいる達志は情けなさを思うが、同時に見惚れてしまう。


 後ろ姿でも、凛々しく立つその姿に。



「このやろぉ!」



 それでも怯むことなく、蛾戸坂は再び引き金を引く。今度は三発、放たれた縦断はどれも、リミの眉間、顔、体をそれぞれ狙っている。


 だがリミは避ける素振りもなく、その場に突っ立っている。



 パキンッ、パキ……!



 再び、弾丸が砕け散る。リミに到達する前に、音を立てて三発ともが散ったのだ。それは先ほど達志のときに起きたのと同じ現象だ。偶然でもなんでもない。



「今の……どうやって……」



 暴走族と、達志だけだ。状況がわかっていないのは。それが自然と口から漏れたのだ。同時、頭上に微かな重みが。達志の疑問に答えるのは、


 やはり隣にいるマルクス……ではなく、今しがた頭の上に乗ったスライムだ。



「へへ、驚いたろタツ。リミたんの力に」


「なんでお前が偉そうなのよ。……やっぱ、あれリミの魔法?」



 やはりというかなんというか、弾丸が砕け散った現象はリミによるものだったようだ。しかしそれがリミの仕業だということはわかったが、その種まではわからない。



「そう。何を隠そうリミたんは、弾丸を凍らせてから砕いてんのさ」


「凍らせ……凍らせて!?」


「口では簡単に言っても、誰にでもできることじゃねえ。なにせ、凍らせる標的を目に捉えないと、魔法は発動しねえんだから」



 語られた、弾丸が砕け散った理由。それは驚くべきものだった。詰まるところ、リミはあのスピードにも関わらず、弾丸の動きを正確に捉え、その上で凍らせたのだ。


 凍った弾丸は、その働きを失われその場で砕け散ったのだ。


 それは、どれほど驚異的な動体視力。どれほど驚異的な魔法技術。そしてそれが、当然であると本人も、クラスメートや他生徒すらも周知している事実。


 それほど、リミ・ディ・ヴァタクシアという存在のすごさが証明されているということだ。



「何が目的から知らんが……容赦してもらえると思うなよ? 族ども」



 その存在に圧倒される暴走族をよそに、別の声が。リミと同じく凛とした声でありながら、その感情には厳しさも混ざっている。達志達のクラスの担任、ムヴェルだ。


 それを皮切りに……場の空気が再び一変する。緊迫し、一種の均衡状態を保っていたが……それが、崩れる。雄叫びを上げバイクを走らせ、襲ってくる暴走族を、迎え撃つ!

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