楽しい昼食中の不穏な前兆
魔法の実技授業が終わり、その後は座学というようやく授業らしい授業だ。まだ教科書は貰ってないので、隣のリミに見せてもらったり、わからないところを、反対側のヘラクレスに教えてもらったり。
そのおかげで、授業に遅れることなくついていけた。
とはいえ、その内容は魔法に関するあれこれや、歴史学に関するあれこれや……達志にとっては初めて聞くことばかりで、予備知識がゼロなためそもそもが授業に遅れる云々の話ではないのだが。
だが内容はわかりやすく、達志の頭でも理解できる。おまけに隣で教えてくれるヘラクレスの説明が的確に達志の疑問点を教えてくれるのだ。
このスライム、なかなかに頭がいいのかもしれない。魔法の力も未知数だし、底が見えない。まだ会って数時間だが。
「な、なあヴァタクシア、あの……」
「つーん」
……で、今はお昼休みだ。それぞれが弁当を持ち寄ったり、あるいは購買に買いに行ったり。達志は前者で、母が作ってくれたお弁当を持ってきている。
十年ぶりの息子へのお弁当ということで、母はめちゃくちゃはりきっていた。
仲のいいグループで食べたり、外に出ていく者もいたり……中には、達志に話しかけてくる人達もいた。やはお昼休みという時間で、仲良くなりたいと思っている人も多いようだ。
なので、教室で昼食をとることに。達志を中心に、それぞれ周りの席に座っていく。
そんなところへ……達志の隣の席のリミに、話しかける人物がある。話しかけずらそうな、気まずそうなそんな雰囲気で話しかけているが、リミはわかりやすくそっぽを向いている。
リミのそんな態度など、達志にとっては新鮮であった。
「なあリミ、そんな怒らずにマルちゃんの話も聞いてやりなよ」
「誰がマルちゃんだ」
リミに根気よく話しかけているのは、マルクスだ。そのがちがちの不良の外見からは想像できないほどしゅんとしているように見える。
その見た目とのギャップにキュンとはしないが、なかなかに面白い光景だ。
「別に、怒ってません。タツシ様、おかず交換しましょう」
マルクスの呼びかけを無視し、リミはわかりやすく話題をそらす。すでに弁当はある程度食べ進んでおり、その中から卵焼きを指しだし、代わりに唐揚げを貰う。
だが実際のところ、達志とリミの弁当はまったく同じだ。なぜなら両方みなえが作ったから。なのでこのおかず交換は、本当に単なる交換だ。
二人のお弁当の類似に、おそらくほとんどが気付いているだろう。だがそれを説明するには、リミと同居していることを話さないといけない。
そうなると、またまた面倒なことになりそうな予感がある。
「なあ、タツとリミたんの弁当、同じじゃね?」
だから、目ざといヘラクレスに指摘された時は内心焦った。だがあくまで冷静に、動揺が顔に出ないように努める。
「き、気のせいじゃないかな」
「いや、気のせいもなにも実際に……」
「とーころでマルちゃん! いったいどうしたんかな?」
「誰がマルちゃんだ」
ごまかしきれないのを悟ったのか、一足先にマルクスへと話題を振る。彼がここにいる理由についてだ。
話を振られたマルクスはというと、今のお弁当の件が気になっているようだが、ひとまず聞かれたことについて答える。
「僕はヴァタクシアに話しているんだ。キミに答える義理は……」
「タツシ様にそんな態度とる人と話したくありませーん」
「……実はだな」
キミには関係ない、とでも言おうとしたのだろうか。しかしそれはリミのつんとした台詞により暫しの沈黙。結果、マルクスの変なプライドは脆くも崩れていった。
「先ほどのことを謝りたくてな」
「先ほどって……彫像の件?」
確認して、マルクスは小さく頷く。彫像の件……マルクスはリミが作った達志型彫像を破壊し、さらにリミの魔法に対して物申すような発言をしたのだ。
それに対しての謝罪。なるほど見た目と反して優等生っぽい中身に似合っている。なんというか律儀な奴だ。
「だってさ、リミ。まあ思うところはあるだろうけど、話だけでも聞いてやったら?」
「……タツシ様がそう言うのでしたら」
自分の魔法を不必要などと言われた心境は達志には理解できない。だがリミにとっては相当大事なことなのだろう。だからこそああも怒っているのだと、達志はそう思っていた。
「……あー……先ほどのことだが、あれは別にヴァタクシアの魔法をどうこう言ったわけではない。その点勘違いさせてしまったなら、謝る」
「……じゃあなんであんなことを?」
「それは……」
誤解があったのなら謝ると、マルクスは真摯に告げている。だがリミから返答があると、マルクスは困ったように言葉に詰まる。そしてなぜか、達志の方をちらと見たのだ。
「……?」
視線を受けた達志は、唐揚げを頬張りながら首をかしげる。はて、なぜ今自分に視線がきたのだろうか?
そこで、考える。マルクスの、リミに対する態度を。確かルーアを氷の彫像にしてしまったとき、リミのことを注意していた。その言葉は正しいが、鋭かった。
リミがせっかく作った達志型彫像を破壊し、しかしそれはリミの魔法に対して悪くいっているわけではないという。ならばなぜ破壊したのか? ……彫像のモデルが、気に入らなかった?
そうなると、今達志に向けられた視線にも納得はできる。……と、いうことはだ。つまり……
「嫉妬?」
言った瞬間、マルクスの肩が小さく跳ねる。それは達志の言葉の肯定を意味しており、他人のそういう感情に鋭い達志は確信を得る。
クラスメートの女の子が、別の男の子の彫像を作っている。それに嫉妬していたのだとしたらそれはもう……
「ははーん、マルちゃん、さてはお前リミのことすむぐっ!」
「な、何を言おうとしてるんだキミは! バカなのか!?」
確信を持った一言を告げようとするが、それはマルクスにより妨害される。慌てたように口を塞がれてしまった。
まるで、先ほどルーアがリミの好きな人を暴こうとしたのをリミが止めたときのと同じようだった。
それにしても、この反応こそが答えのようなものだ。リミへの厳しめの言葉は、おそらく好きな人に素直になれない性格ではないだろうか。
好きな人に意地悪をしたくなる心情と似ているそれはまるで……
「ぷはっ……小学生かよ」
「なんだか知らんがものすごく失礼なことを考えているな」
何はともあれ、マルクスはリミのことが好きなのであろう。だから、リミが達志型彫像を作っていたのが気に入らなかったのだろう。
堅物のような雰囲気を醸し出しておいて、なかなかかわいいところもあるじゃないか。
「まあ……もぐもぐ……頑張れよ……むしゃむしゃ……諦めなきゃ……ごっくん……なんだってできるし……げっぷ……」
「まったく嬉しくない失礼な応援な上にすごい上から目線だな。それと誰にも話すなよ?」
「んなヤボは……ごくごく……しねえって……ぷっはぁ……」
「信用できないなこいつ」
マルクスの思わぬ秘密が暴けて、弱みを握れた感覚になり達志としては大満足。その後も、リミやヘラクレスやルーア、クラスメート達と和気あいあいとした空間を過ごしていく。
「なあ、ゆ……如月先生が、仲間になりたそうにめっちゃこっち見てんだけど」
「隠れてるつもりなんですかあれ。尻隠して頭隠さずですよ」
久しぶりの学校で、すっかり変わってしまった環境。そこで過ごすクラスメートは、どいつもこいつも難ありだがいい奴らばかりだ。
教師も、厳しめのムヴェルと優しめの由香とで、いい感じにアメとムチが完成している。
このクラスでなら、これからも楽しくやっていけそうだ。笑いあっているクラスメート達を見て、そう、思っていた。
ドゴンッ!
……その光り輝く未来をぶち壊すかのように、突如として何かが爆発したような、巨大な音が鳴り響いた。




