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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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実践!魔法授業



 ……無事(?)歓迎会が終わり、パーティーの余韻を残しつつもクラスはいつもの風景に戻っていく。


 このまま次の授業が座学……であったならば、おそらくクラスの集中力はもう切れていただろう。だがそうはならない。なぜなら次の授業科目は……



「ふふふ……次の授業、私の力を発揮する絶好の機会! タツよ、とくとその目に焼き付けるがいい!」


「お、おう……」



 教室から移動している最中、達志の隣を歩く眼帯少女、ロリっ子サキュバスなルーアがその眼帯を押さえながら高笑いしている。


 妙にテンションが高い気がするが、それはこの先行く場所、次の授業内容によるものが影響している。



「で、ルーアのテンションが高い理由……なんてったっけ、次の授業」


「ふふ、それはですね。ズバリ、まほ……」


「魔法技術の学習、及び実技ですよ、タツシ様」



 さっきちらと聞いたのだが、歓迎会のインパクトが強すぎて薄れてしまった。それを聞くと、妙にもったいぶるルーアの代わりに答えるのはリミだ。


 リミは達志の隣、ルーアとは反対側に並んで歩いている。台詞を取られて不服そうなルーアだ。



「魔法……魔法かぁ」



 魔法……その単語に、達志もテンションが上がっていくのを感じる。


 思えば達志にとっての魔法は、飛行している人や物を浮かせている人といった街中でありふれた光景になってしまったものを除けば、病院で回復、復元魔法を目にした以来だ。


 リミやセニリアが魔法を使えるというのは本人の口から聞いたが、実際に見せてもらったことはまだない。


 見せてくれと頼めば見せてくれただろうが、準備などで忙しかったのでそんな暇もなかったものだ。



「リミ、先程私がタツと話していたんですが。割り込みとはお行儀が悪いですね」


「いえいえルーアさん、私はスムーズに会話が進むように変わっただけですので」



 密かに目を輝かせる達志の両隣で、なぜか二人の少女が火花を散らせている。口出ししては巻き込まれかねないので、何も言わないが。



「おいおい、モテモテじゃねえかタツ」


「いや、そんなんじゃないと思うけど」



 そんな達志の後ろから、声がかかる。振り向くと、そこにはスライムであるヘラクレス。足がないためか、その体を跳ねさせて歩いて(?)いる。その際に、足音ならぬ飛音が聞こえる。



「リミたんもだが、ルアちんもタツのことえらく気に入ったみたいだな」


「リミはともかく、ルーアはさっきのやり取りの中で気に入られる要因が見当たらないんだけど」



 互いに言い合っている二人は、達志とヘラクレスの会話にも、達志が歩く速度を遅めたことにも気付いていない。


 その達志の頭にヘラクレスが飛び乗り、頭にスライムを乗せているという奇妙な光景が完成する。



「なああんな可愛い子に好かれるのはいいことじゃねえか」


「それはまあ、そうだけど。ま、リミにも仲良い子が出来るのはいいことだよな」



 リミは今まで、一人でクラスの誰ともあまり関わってこなかったという。そんなリミが目の前で、クラスメートと会話している。


 それが達志にとっては、なんだかとても微笑ましいものに見えて。



「……ところでヘラ、次の授業って具体的に何やんの? リミ曰く学習と実技らしいけど。学習だけなら座学で済むけど、わさわざ移動してることと実技って響きから察すると……」


「文字通りってったらそうだけど、主に魔法を使ってレベルをあげましょうってことだな」


「実際に使って、アンド見て覚えろってこと?」


「そゆこと」



 つまり、次の授業では生徒達が実際に魔法を使うということなのだ。なるほどそれなら、ルーアのテンションがああまで高かった理由もわかるというものだ。


 力を発揮する、とも言っていたということは。



「じゃあルーアも魔法使えるってことか」



 異世界から来たとはいえ、みんながみんな魔法を使えるわけではない。もちろん使えない人もいるが、どうやらルーアは使える部類のようだ。


 逆に、元々この世界にいた人間は魔法が使えるはずもないが、"魔樹"の影響で魔法を使うことが可能になった人間もいるようだ。



「ちなみに、オレも使えるぜ」


「へぇ、何属性の魔法?」


「見た目通りのさ」



 頭上に乗るスライムも、魔法を使うことが出来るという。見た目通りの属性の魔法を使うというが、見た目通りと言うならば……



「ってことは、水属性か」


「残念、土属性だ」


「見た目通りって言ったよな!?」



 スライムという見た目から確実に水属性だと思ったのだが、実際には違ったらしい。水どころか想像もつかない土属性だと。


 見た目通りの属性だと言ったその発言を一から見直してほしい。



「お前はいつも俺の斜め上をいくな」



 初めて会った……とはいえ数時間前だが、その時から達志の中でのスライム像はいろんな意味で崩れていっている。


 スライムなのにヘラクレスという名前然り、見た目通りの水魔法の魔法かと思いきや見た目とは全く異なる土属性の魔法を使うこと然り。



「でもさ、魔法が使えない奴はどうするんだ? 俺とか」



 ここで、ふと疑問に突き当たる。それは当然の疑問だ。魔法が使える人は実践してみればいいが、魔法が使えない人はどうすればいいのだろうか。じっと見ておけというのだろうか。



「まあ、実際に魔法が使われてる場面を見て自分の中でイメージするもよし、魔法を使える奴に教えを乞うもよし、ただただ見て知識を高めるもよし……ま、人それぞれだわな」


「自由意思尊重ってことか」



 授業とはいっても、自由時間に近いかもしれない。


 とりあえず、初めてだしみんなの様子を見ていよう、と自分のあり方を決める達志の頭の上で、ヘラクレスはその体から生やした手で達志の頭をパシパシ叩く。



「タツ、そろそろ着くぜ」


「ん、おう」



 ヘラクレスからの呼びかけに、達志は視線を前に。廊下からいつの間にか、一旦外へ。下駄箱から、靴は上履きのまま少しだけ歩いていくと、目の前には巨大な建物。


 達志の知るものとはやはり大きさが段違いだが、その場所に建っていることを考えると、そこは体育館のはずだ。


 ぞろぞろと、クラス全員が体育館の中へと入っていく。そこは広々とした空間で、銀色に包まれていた。壁、天井、床……それらが銀色に施されている。


 それは体育館というよりも、まるで何かのトレーニングルームのようだ。



「ここが……」


「へへ、驚いたみてーだな」



 ここなら、魔法をぶっ放すにはおあつらえむきの場所だ。ちょっとやそっとのことではこの建物は壊れないというのは、見るからに頑丈そうな壁から一目瞭然だ。


 魔法実技をこの建物で行っているのなら、そのことは考慮されているはずだ。



「タツシ様タツシ様! 私と一緒にやりませんか!?」



 室内を見渡していると、ルーアと言い合いをしていたはずのリミがぴょんぴょん跳ねながらやって来る。マジでウサギだな、と思う。その後ろから、ルーアが歩いてきているのが見えた。



「一緒にって……俺、魔法使えないどころか今日が初めてだからおとなしく見とこうと思ったんだけど」


「えぇ、ですから! 私を見ててください!」


「ヒューゥ」



 お誘いはありがたいのだが、リミの迷惑になるのではないか。そんな不安を、リミは関係ないとばかりに振り払う。それに続いた言葉に、ヘラクレスが茶化すかのように口笛を吹く。


 口笛が妙に上手い。



「まあ、どうせリミの魔法見たかったしな。そうするよ」


「やった!」



 達志の返事を聞いたリミは、それはそれは嬉しそうに笑っていた。



……



「せい! えい! えいや! せいや!」



 広々とした空間に響く、掛け声。それに呼応するように次々と床から氷の柱が生まれる。やや緊張感に欠ける掛け声だが、それによって生まれる氷の柱は素晴らしく、恐ろしくもある。



「これがリミの魔法かー。確かにすげーや」



 その様子を少し離れた所から見物する達志。氷の柱を生み出している張本人リミは、まるでダンスでも舞うが如く鮮やかな手口で魔法を使っている。それもただの柱には飽きたらない。



「どっせい! ……ちらっ」



 一際太い氷の柱が出来上がり、その表面には先端の尖った小さい氷の柱がいくつも生まれる。それはまるで、氷のサボテンのようだ。



「あーらよ! ……ちらっ」



 次の瞬間には、氷のサボテンは雪に変化し、まるで花を散らすように弾けて消える。弾かれた衝撃により、辺りには雪が降り幻想的な景色を醸し出している。


 そんな光景を生み出しているリミは、一つ一つ行動を起こす度に、体育座りにて見学している達志にちらちらと視線を向けている。


 まるで、どうぞ存分に私のすごさを見てください、と言っているかのようだ。



「まあ、すごいんだけど……何でいちいちこっち見るかね」



 その視線に手を上げて応えることで、リミはわかりやすく喜んでいる。達志のそれは独り言ではなく、隣にいる見学者に向けられていた。



「わかんねーけど、うらやましい限りだぜタツ。リミ・ディ・ヴァタクシアといやあ学年どころか校内トップクラスの美少女。そんな相手からああも好意的に接してくれるってんだから」


「へえ……リミって、そんな人気者なんだ」



 隣に座る(?)ヘラクレスと何気ない会話を交わしながら、視線はリミに向いている。時折彼女に身振り手振りで応対し、他の人達の様子も見ているといった具合だ。



「人気者どころか。校内ランキングじゃ入学当初からトップ。今じゃ校内二大美少女の一人だからな。容姿はもちろん、魔法技術もトップクラス。

 誰とも関わらず常にクールでミステリアスな雰囲気に惹かれた男は数知れず、数多の男の告白を断り続けた堅物美少女。さらにファンクラブまであった頃もあって、一部にはリミたんの冷たい目がたまんないってコアなファンもいたらしいぜ」


「……そ、そうなんだ。まあ容姿は……ぶっちゃけ可愛いしな。魔法以外ポンコツって話もホントか疑ってたが今の光景見たらそれも晴れた。

 俺は以前のリミは知らないけど……それだけなら、ファンがいるのも頷けるな」



 無口だったというリミ。その頃の学校での様子はわからないが、容姿だけでも惹かれる異性はたくさんいるだろう。そこに魔法の腕もトップクラスとなれば、ますます人の目は集める。


 だが……達志は知っている。リミは周りが思うほど完璧ではなく、おっちょこちょいであることを。達志は知っている。リミの料理スキルが壊滅的であることを。


 あれには別の意味で胃袋を掴まれた気分だ。



「てか、ファンクラブがいるって……俺大丈夫かな? うぬぼれじゃないけど、ヘラが言うように俺結構リミと親密なんだけど。闇討ちされたりしない?」


「ちっちっち、違うぜファンクラブがいる、じゃなくてファンクラブがあった、だ。ファンクラブは設立されて一か月で、他でもないリミたんに潰されたらしい」



 ファンクラブがいるのなら、コアなファンに妙なことでもされてしまうのではないか。ドラマ程度の知識だが、実際にないとも限らない。


 それを心配した達志だが、どうやらその心配はなさそうであると伝えられる。潰された、が具体的にどういう意味でなのかは聞けないが。



「思いのほかアグレッシブなのね、リミって」



 出来上がったファンクラブを自ら潰すなど、以前にも妙な行動力はあったようだ。てっきり、ファンクラブを重宝しそこの人達一人一人の名前まで覚えているレベルなのではないかと思っていたが。


 実際は全くの逆だったようだ。


 現在、人型の氷の彫像を作っているリミ。それがなんだか達志の姿に似ているような気がしながら、ただぼんやりとその光景を眺めていた。

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