賑やかなクラスメート達
「ひどいひどいひどい! なんなんですかもう! 人のことを氷の彫像に変えておいて挙げ句放置!? ぬぁあああ!」
「だ、だからごめんって……」
歓迎会で盛り上がっていた空気が落ち着いた雰囲気を見せている。落ち着いた、とはいってもそれはパーティーによって浮ついた雰囲気はという意味だ。
今別の意味で、この場は盛り上がりを見せている。
お冠の少女が、仁王立ちで目の前の人物達を睨みつけている。かれこれ十分はこの状態ではある。
お冠の少女、ルーアは目の前に正座する……いやルーアによって正座させられる三人を見回す。三人は、一人は申し訳なさそうに、一人は理不尽さに顔をしかめ、一人は正座による足の痺れを感じていた。
「す、すみません……」
「なんで僕まで……」
「足が……しびれびれ……」
「そこ! 一名反省してるようですけど二名はまだ足りないようですね!」
自身の行いでクラスメートを氷付けにしてしまったリミはしょんぼりとうなだれている。ウサギの耳が垂れているのがその証拠だ。
本来関係ないはずのマルクスは、なぜか正座させられてしまっている。不服な表情だが、しかしルーアにとっては関係ない。
聞くところによると、二人が言い合っていたせいで処置が遅れたという話ではないか。ならば同罪だ。
そしてマルクスと言い合っていたというもう一人、達志。達志としても、悪いとは思っている。思っているのだが、結果として助かったのだからという気持ちもある。
見ての通り、本人は元気そのものである。
「まあまあルアっち、落ち着こうや」
怒るルーア、正座させられている三人、それを見守るクラスメート達。今日は歓迎会ではなかったのか、と達志が悲観する中、ひとまず落ち着くようにと声が響く。
それはこの場にあって、一番落ち着いているものだ。
「とめないでくださいライム! 私はまだ……」
「三人共反省してるよ、リミたんはそうだしタツとマルちゃんも……多分。ルアっちも元気じゃん」
「ふっ、それは私だからこそ! 私という強大な力を持った存在だからそこうして無事でいられるのだ! そうでなければ今頃どうなっていたことか……」
「元気じゃん」
中二全開の少女と、冷静沈着なスライム。こんな面白おかしな光景、なんだか感動すら覚える。達志が眠る前、元のままの世界だったら、絶対に見ることのなかった光景だ。
その光景に対する感慨深さと、足の痺れが達志の心を占めていく。
それにしても、だ。今こうして正座をさせられてしまっているわけだが……よくよく考えれば、いや考えなくても、これは中々に凄まじい光景ではないだろうか。
ただでさえ周りは、ファンタジーの世界の中に入ったんじゃないかと思えるほどなのだ。それが、濃い気がする。うん、濃い。
ポンコツウサギ姫、馴れ馴れしいスライム、中二ロリサキュバス、不良っぽい見た目の優等生眼鏡、ケンタウロスの担任教師、自分のクラスの副担任になっていた幼なじみ……字面だけ見たらとんでもないな。
実際に見てもとんでもないが。
他にも、様々な種族のクラスメートがいる。それに、ファンタジーびっくり人間だけでなく、達志や由香と同じ純粋な人間もいる。
この星出身か、それともサエジェドーラという異世界出身かは見ただけではわかりかねるが。
落ち着け落ち着けないと言い合うとスライムと少女、正座中うなだれている少女とぶつぶつ言っている眼鏡、面白いものを見学する姿勢のクラスメート、傍観を決め込んでいる担任と止めるべきか慌てている副担任……
これが、達志がこれから過ごしていく世界なのだ。
「ぷっ……」
思わず、吹き出してしまう。これが日常……はさすがに騒がしすぎるが、こんな日々が続くのか。想像して……その、楽しげな光景に笑みがこぼれたのだ。
だがその笑いを、少女は聞き逃さない。
「あぁ! 今、今笑いましたね!? 私を笑いましたね!?」
「ごめんごめん。てか、別にルーアを笑ったわけじゃないって」
この場で笑ったのが不思議だったのだろう。同じく正座しているリミは純粋に疑問を浮かべ、マルクスは大丈夫かこいつ、といった視線を向けてきている。
その視線に物申したいところだが、放置しておこう。勘違いしてしまっているルーアに、説明するのが先だ。
「いや……なんか、楽しいなって。こういうの、スゲー久しぶりな気がして」
感覚としては、こんなバカ騒ぎは少し前のことだ。幼なじみの由香と、猛と、さよなと。四人で、バカやったり笑いあったりしていた。
……だが、感覚はそうでも体は確かに、十年という時を記録しているのだ。だから、こういったバカ騒ぎがつい嬉しく、体の方が反応してしまう。
「……土下座させられて反省して喜ぶなんて、タツってばあれなんですか? そういう趣向の人なんですか?」
「まあタツもいろいろあんだよ。お年頃なんだよ」
「変態め」
「あれ、ここでその評価おかしくない!?」
感慨深く感じていたのに、なんだか不当な認識をされている気がする。違う、断じて違う。至ってノーマルだから。
「……ふふ」
達志が自分に対する認識の改めを訴えかける中、またも笑い声が。それは達志のものではなく、というか男のものではない。
声の主は、自分が笑い声を上げてしまったことに気付いて、しまったと口元を隠し、若干頬を赤く染めている。
「す、すみません……皆さん楽しそうで、つい……」
笑い声の主……リミは、赤くなってしまった顔を隠すように俯いている。リミも、同じようについ笑ってしまったのだと言う。
ならば仕方ないなと、達志はそう思ったのだが……周りの反応が、達志の想像していたものとは違っていた。
「あれ、みんなどったの?」
見れば、達志以外の全員、リミを見つめたまま固まっているではないか。ルーアや由香、ヘラクレスにマルクス、そしてムヴェルまでもが、驚いた様子でリミを見つめているのだ。
「り、リミが笑ってるの、初めて見ました……」
「マジで!?」
驚いている理由として、衝撃的な発言が飛び出す。先程ルーアが、リミのことを一品狼ならぬ一品兎だと言っていたが、それはさすがに大袈裟だろうと思っていた。
だが、今の周りの反応を見る限り……
「タツシ様!? そのかわいそうなものを見る目はいったい!?」
「いや……別に……」
「目をそらさないでください!」
普段のリミを、確かに達志は知らない。だが、達志といるときのリミは、元気な女の子そのものだ。無口で無表情などと、考えられない。
どうしてそこに二面性があるのかは、わからないが……
「つまりリミたんが活発キャラになったのは、タツのおかげってことだ」
「お、俺?」
ヘラクレスが言うように、つまりはそういうことだろう。達志が来る前のリミと、来てからのリミ。それはクラスメート、更には担任の驚きを見るとその違いは明らかだ。
達志としては、何か自分が特別なことをしているつもりはない。ならば、リミが変わったということだろうか。それは、喜ばしいことだ。
……喜ばしいことだ。だが……
「リミ……なんかお前のこととてつもなく心配になってきたよ」
「いきなりどうしました!?」
クラスメートに、これまで絵笑顔の一つも見せなかったとは。いったい、どれほど周囲と距離を置いていたのか。その不器用な人間関係が、達志は心配でならない。
「はぁ……なんか、気が削がれました。まったく……」
これまでのやり取りを見てか、ルーアは深いため息を漏らす。それから、未だ絶賛正座中の三人に視線を向ける。
「次はないですからね? そうなれば、我が封印していら力を解き放つことになろう!」
呆れ果てたルーアにより、ようやく三人は解放される。しかし、次はないという宣言と共に手をクロスさせ、片手を眼帯に添えている。決めポーズ、なのだろうか。
とにかく、封印された力はともかくとして次はないということを肝に銘じておこう。
「はいはーい、じゃあそろそろお開きにしよっか!」
一旦の決着がついたところで、パンパンと手を叩いて由香が、歓迎会のお開きを口にする。後半は正座しかしていなかったが、達志にとって有意義な時間であったのは確かだ。
みんなも、満喫したのだろうか。名残惜しそうな顔や、楽しかったねという声が聞こえる。
ちなみに、由香の隣に座っているムヴェルは缶ビールを手にそれを飲んでいた。案外、この人が一番楽しんでいたのかも……そう思った達志であった。




