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若さっていいな



 借り物競争。リミが一位で勝ち抜き、結局二位になれそうだったバキはリミへの妙な妨害心を持ったために結果的にビリ。点数すらもらえなかった。


 そのためか、達志が自チームのテントに戻ると……そこには、正座させられ縮こまっているバキと、そのバキの正面に仁王立ちで立つネプランテがいた。


 腕を組みご立腹のようだが、遠くから見てもゴブリンの威圧は怖い。



「も、申し訳ないでやんす……」


「申し訳ない、じゃないよ。なにを勝ちを投げ捨ててくれてんのよ、このインテリちび眼鏡」


「いや、だって」


「口答えしない」


「……はい」



 絶賛反省中のバキは、それはもう見ていてかわいそうになるくらい攻められていた。けれど同情はしない、なにやってんだお前とは達志も思っていたのだから。


 あのあと氷からはなんとか抜け出せたらしいのだが、時すでに遅し、みんなゴールしてしまった後だ。やってしまったことは仕方ないが、それでもはい次頑張ろうとさらりと流されるはずもなく。



「あははー、ネプちゃんお怒りだねぇ」


「そらそうだろ」



 リミの氷を逃れたのは見事だった。ただあそこで単純にお題に従っておけば、悪くても二位にはなれただろうに……バカな男だ。



「そういえば、リミちゃんのお題ってなんだったの?仲のいい異性とか?」


「それが、教えてくれないんだよなー」



 紙に書かれていたお題は、リミと審判のみぞ知るだ。単純に受けとるならば蘭花の言ったように、仲のいい異性と考えられなくもないが……



「まあ……リミって男友達いなさそうだもんな」



 以前のリミは、達志の知るリミとはまるで違ったという。クールビューティ、笑顔なんてまず見られなかったという。


 そのリミが百八十度変わり、達志に積極的に絡んでいるのだから……その噂は、まあ広まっているんじゃないだろうか。それなら、リミと達志を見ただけで仲がいいとわかるし。



「あのぉ、そろそろ足が痺れてきたんでやんすけど……」


「あぁ?」


「すみません」



 向こうではまだお説教タイムが続いており、借り物競争が終わったことで次の競技も始まっている。熱い日差しの中でも盛り上がる生徒諸君……その光景はとてもほほえましいものだ。



「若いっていいなぁ」


「達志くんも同い年じゃん?」



 本来ならば、由香らと同じく歳をとるはずだった達志……しかし今こうして、学生として学校行事に励んでいる。それはあり得ないことで、とても尊いもので。


 だからこそ、この時間を懸命に生きたい。由香達と歩むはずだった道はもう同じ歩幅では歩けないけど、だからといって絶望することはない。


 ここに、自分と同じ時を生きる人達がいるのだから。



『次の種目は、ビーチフラッグスです。参加者の方々は……』


「おっと、俺の番だな」



 まさか体育祭でこんな感慨にふけるとは思っていなかったが、響き渡るアナウンスにより我に帰る。どうやら次の種目は、達志が出場するもののようだ。


 これまで見てばかりだったのもあり、そろそろ体を動かしたいと思っていたところだ。おあつらえ向きに次は走る種目であるため、ちょうどいい。


 このときのために鍛えてきた日々の努力を嘘にしないためにも、気合いを入れ直す。


 チームのためにも、自分のためにも……負けられない戦いがそこにある。そして、準備のために一歩を踏み出して……天を仰ぎ、達志は思う。



「なんで俺、ビーチフラッグスなんて選んじゃったかなぁ」



 確か、クラスで種目を決めるとき……体を作っていたとはいえ、まだ途中段階。リレーのような種目はあまり自信がないし……かといってそこまで体を動かさなければ意味がない。


 そんな、いろんな思考が錯誤していった結果……気づけば、複数の種目からビーチフラッグスを一つに選んでいた。本当にあのときの己の心の中がどうなっていたのか覗きたい。



「ま、仕方ないか。せっかく練習もしたんだし頑張るかっと」



 選んでしまった以上、やっぱりやらないというわけにはいかない。それに、この日に向けて自分の選んだ種目を練習してきたのだ。あの日々に報いる結果を残さなければ。


 それに、やる気になるのはもう一つ理由がある。なんといってもこの種目が終われば、昼休み……つまり待ちに待った弁当の時間なのだ。


 体育祭自体を楽しみにしている生徒はもちろん多いが、お昼の食事を楽しみにしている者も少なくないだろう。


 なので、これを乗り切れば……的な意味でも俄然やる気が湧いてくる。今日は母みなえ、それに同居人セニリア二人が腕によりをかけて作ってくれるとのことなので、嫌でも期待が高まる。


 ちなみにリミには手をつけさせていないらしい。保護者である自分達に任せて、と押しきったようだ。グッジョブ二人とも。



「さてさて、やりますかっ」


「さっきから独り言の多い奴だなキミは」



 入場門に並び、ストレッチして体をほぐしていると……ふいに声をかけられる。独り言が多いのは自覚しているが、まさかそれを聞かれていたとは。ちょっと恥ずかしい。



「あ、悪いうるさかった? いや、ずっと寝たきり生活だったから、こう、なにか喋りたくて自然と口に出ちゃって」



 達志が独り言が多いのは、別に怪しい人だからではない。十年も寝たきり生活を送っていたために、口が腐り喋りたくて仕方ないんじゃないか……


 そのため思ったことも口をついて出てしまう。達志はそう考えている。


 しかしそのせいで誰かに不快感を与えていたのなら、それは悪いことをした。なので、苦笑しつつ謝るのだが……



「気にするな。キミが常に独り言ぶつぶつ人間なのは、すでに承知している」



 わかった風な言葉を告げる、偉そうに腕組みをした男がそこにいた。それは達志の見知った人物であり、同じクラスでありながら残念ながら敵対することになってしまった……



「おぉ、マルちゃんじゃんか」


「誰がマルちゃんだ!」



 不良系優等生、眼鏡のマルクスであった。

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