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私を取り合わないで



 現在借り物競走中……そんな中、達志の所へと現れたのはリミ。リミとは対するチームではあるが、そのリミは達志に着いてきてくれと告げる。


 この状況で着いてきてということは、リミの引いた紙に書いてあるお題が達志に関係あるということだろう。


 それも、自チームでなくわざわざ他チームである達志ではなければいけないなにかが。



「えっと……俺?」


「はい、タツシ様です」



 再度確認するが、聞き間違いではない。ここで申し出を拒否する……ということはルール違反ではないが、他チームだからという理由だけでそんな意地悪をするという卑劣なことは、残念ながら今の達志には出来ない。


 なので……



「わ、わかった」



 と、返答。もちろんリミに協力するということは、リミチームの勝利に貢献するということである。


 それは痛いが、それでもリミがわざわざ自分の所に来てくれたのが実は嬉しかったりする。お題の正体はわからないけど。


 お題の内容はなんだろうか。聞こうとしたが、妙にそわそわしている。みんなのいるところでは言いにくいことなのだろうか、ならば後で二人になったときにでも聞いてみようか……そう考えながら、立ち上がろうとしたとき。



「待つでやんす!」



 特徴的な語尾を持つ言葉に阻まれる。達志の知る中でこんな話し方をするのは一人しかいないわけで……



「ば、バキ?」



 同チームの小金山 バキ。人間ではあるが、特徴的な容姿、特徴的な言葉遣い、特徴的な名前と、いろんな種族入り乱れるチーム内でも存在感のある人物だ。


 その彼は、他の選手が苦戦している氷の足場を乗り切り、紙を引いたはずだ。だというのにここにいるということは、彼のお題もこの付近にあるということだろうか。



「悪いが、たっつんはあっしがもらうでやんすよ」


「……聞き捨てなりませんね。私からタツシ様を奪おうだなんて」



 達志の奪取宣言を告げるバキに、向き合うリミ。心なしか、少し辺りの気温が下がったような気がする。



「ば、バキの目的も俺、なの?」


「えぇ。だからその女にたっつんをやるわけにはいかないでやんすよ」


「タツシ様は渡しませんよ」



 二人の間に火花が散っている気がする。そして台詞だけ聞くと、まるで二人が達志を取り合おうとしている内容ではないか。いや、実際そうなのだが……



「なんか、昼ドラみたいなドロドロ感が……」



 無論それは受け取った達志が感じているだけのものだし、そもそもリミはともかく男に取り合いされても嬉しくもなんともない。


 とはいえ、二人共目が本気だ。二人のお題が達志に共通するものであれば、当然なのかもしれないが。



「なあ、二人のお題っていったい……?」


「そ、それは……」



 達志も、自分がどうして二人にも狙われるのか知っておきたい。だから聞いてはみたのだが、やはりリミは言いにくそうだ。


 対してバキは……眼鏡を押さえ、笑っている。



「ふふふ……あっしのお題はこれでやんす!」


「なになに……『同じチームの男子(人間種に限る)』。ふむふむ……何このくっそ簡単なお題!? ヌルゲーにもほどがあるだろ!」


「驚いたようでやんすね」


「あぁすごくね! 誰が考えて誰が採用したんだコレ! あとこれ別に俺じゃなくてもよくない!?」


「いや、たっつんでないとダメっす。なんせ、あっしがたっつんをかっさらえばヴァタクシアはお題クリア不可能に追い込むことが出来る! そうすればあっしの一人勝ちって寸法よ!」


「めんどくせえ!!」



 要は、バキは達志でなくてもいいのだが、リミは達志でないとダメ。ならば先に達志を連れていき、リミがクリアできない状況を作り出す。


 結果、リミはこの種目を勝ち抜けないということだ。


 もちろんリミのお題が。百パーセント達志でないといけないことはないだろうが、ここで達志を失えば大きなタイムロスになるのは間違いない。



「おまっ、きったねえ! 同じチームの俺が言うのもなんだけど汚いな!」


「はっ、勝てばいいんすよ勝てば」


「いたよ、俺より卑劣な奴がここにいたよ!」



 リミの申し出を拒否する……その選択肢が浮かんでしまった達志よりもよっぽど卑劣な男が、目の前に立っている。汚いというか、そこまで考えるともう逆にすごい。


 しかもそれを実行しようとしているのだ。


 バキも達志でないとダメかと思いきや、そんなことはまったくなかった。



「さあたっつん、事情がわかったらあっしと一緒に……」


「理由は、それだけですか?」


「へ?」



 達志に手を差し出すバキ。しかしその動きが止まる……否、止められる。なぜなら全身、氷に包まれていたのだから。顔を除いて。


 なんというスピードだろう。瞬きの間に、小柄とはいえ人一人の顔除く全身が氷漬けになってしまった。そしてそれをできるのは、この場には一人しかいない。


 それをする理由のある人物も、一人しかいない。



「あー……リミ、さん?」


「どんな理由かと思えば……そこで、しばらく見物しててください。全部解ける頃には、もうこの種目は終わってるでしょうが」


「つ、つめたぁあああ…………くはない! おそらくは火属性の魔法で温度を上げているおかげか!? 凍傷にならないための配慮を忘れないとはぁああ! さすが魔法優等生ぃいいいい!」


「説明乙」


「とはいえ……お、おのれ! 魔法であ、足止めとは、なんて卑劣なぁああ! 卑怯だぁああ!」



 お前がそれを言うのか……誰もが思ったが、誰が言うよりも先にリミが動いた。そしてバキの顔を正面から捉え……



「もう、あんまり騒がしくすると、脳みそだけ凍らせて思考停止させちゃいますよ?」



 拗ねたようにかわいく頬を膨らませ、今この場において世界一物騒なことをかわいく言い放った。



「…………」



 それには、バキだけでなく全員黙るしかなかった。



「さ、行きましょうタツシ様!」


「……はい」



 手を引かれ、従う達志は……リミを絶対怒らせないようにしようと、改めて心に誓った。それはもう、すごい誓った。



「あー、ひんやりするー」


「日差しが強くなるばかりだから助かるよー」


「いや冷蔵庫代わり!? それより助けてでやんすー!」



 後ろでは悲痛な叫びと、意外に快適にしているチームメンバーの声が聞こえる。バキは冷たくないと言っていたのに外から触るとひんやりするということは、外側は冷たく内側は冷たくない氷ということだろう。


 その点も含め、高速で人を彫像に変える技術はさすがとしか言えない。


 とりあえず、リミにバキに対する配慮があって心からよかったと思う。



『おーっとここで第一着のゴール!』



 と、ここでゴール。他のメンバーはようやくお題を探しに行ってたり、まだ氷の足場に手間取っていたりする。審判にお題を見せ、緊張の一瞬。



『お題クリアー!』



 これで、リミの一位が確定した。圧倒的なリミに対しての拍手喝采が湧きおこる。圧倒的も圧倒的な展開であったが。



「なあリミ」


「はい、なんですか?」


「リミのお題って、結局なんだったんだ?」



 終わったのだから、もう聞いてもいいだろう……そう考えた達志はずっと気になっていた質問を投げかけることに。


 果たして答えてくれるだろうか。かすかな期待をもった問いかけは……



「……内緒、です」



 顔をそらされ、拒否された。気にはなるが、無理に聞き出すわけにもいかないだろう。


 その後次々と、お題をクリアした人達がゴールしていく。リミの魔法は本当に強力なようで、当然他にも魔法を使えるメンバーはいたものの、氷の足場を破るには至らなかったらしい。


 一番対処しやすそうな、例えば浮遊魔法使いなんかもいなかったとか。


 何はともあれ、借り物競走はリミの圧勝で幕を閉じた。ちなみにバキは時間切れで失格になった。

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