恐ろしい子
「なっ? なんとかなったろ?」
「なっ? じゃねえよ! なんなのあれ! もはや俺の知ってる玉入れの領域をはるかに超えてるんだけど!」
第一競技である玉入れが無事(?)終了し、各メンバーが戻ってくる。確かに二位という、出だし快調の結果に終わったものの……目にした玉入れ競技は、達志の知っているそれではなかった。
途中からは炎が吹き荒れ、風が舞い、雨が降ったり砂嵐が起こったり散々であった。もはや魔法合戦、と称してもいいのではないのだろうか。
「玉入れ妨害って、あんながっつりした妨害になるとは思わねえよ……途中から単なる魔法の飛び合いだったじゃねえか」
「でも見応えあったろ?」
「あったけども! こちとら玉入れしに来てんだよ! 誰が魔法合戦始まると思う!?」
正直第一種目からこれだと、先が思いやられる。とはいえ取り乱しているのが達志だけなのを見るに、これが普通なのだろう。
やれやれ体育祭もこの十年でかなり変わってしまったものだ。
「かなりどころじゃねえよ!」
「お、おうどうした」
もう達志の中で処理しきれなくなりつつあるのだが、もうそれはそれとして置いておこう。魔法ありきがこのスタイルだと理解すれば、まだ持ち直せる部分はある。
玉入れであれだったのだ。これ以上に驚くことはそうそうないだろう。
「お、そうしているうちに次の種目だぞ」
『続いて、綱引きを開始します……』
「よし、魔法ありなら身体強化でも何でも使えばいいじゃねえか!」
「なんでちょっと投げやりになってんだよ」
ともかく気持ちを切り替え、次の種目だ。
何はともあれ、魔法をふんだんに駆使した結果が二位だったのだから今回も悪い結果にはならないだろう。
身体強化で自身の身体機能を底上げするもよし、先程のように魔法で他チームの妨害をするもよし。
もともと勝つためにやれることはやろうというスタイルだったのだ。ならば遠慮なく……
『優勝は、緑チームです!』
「早ぇええええ!!?」
自チームの検討を祈ろう……そう考えていたというのに、あっという間に綱引きが終わってしまった。玉入れのように時間制限がないとはいえ、それなりに力が拮抗するだろうし……
なにより五チームもあるのだからそう簡単には終わらないはずだが。
そう思いふと、優勝チームに嫌な気配がして目を凝らす……すると。
「いやあ、しかしやっぱ強ぇなヴァタクシアは」
「リミィイイイ!」
緑チームは、リミの所属しているチームだ。まさかと思ったが、綱引きに彼女も出場していたのだ。
だが、いくら彼女が柔道部主将を投げ飛ばすほどとはいえ、彼女一人いるだけでそこまで戦力に差が出るとは思えないのだが。
「しっかし惚れ惚れすんなー。見ろよここなんか、あの子一人で引っ張ってんじゃねえかってくらいだ」
「ちょっと見せて!」
後ろで盛り上がる声が聞こえる。どうやら一連の流れを、録画していたようだ。魔法によるものでそういう機能もあるらしいが、今はそんなことはどうでもいい。
今の流れを見せてもらうと……そこには無双している緑チームの姿があった。軽々と、まるで相手チームの存在など初めからないとでもいうように。
その中でも際立つのは……やはりリミだ。彼女は一番後ろにいるのだが、もう彼女一人でいいんじゃないかなと言いたくなるほどに活躍がすごい。録画画面越しでもそれがわかる。
「相手チームにはすげえ体型の奴もいるのに……多分身体強化も使ってるだろうに……リミ、恐ろしい子!」
彼女を怒らせた日には、軽々抱えられ地面に叩きつけられてしまうだろう。加えてかなりの魔法使い。
アドベンチャーものなら、彼女は守られる系ヒロインどころか守る系ヒロインだろう。もうこの子一人でいいんじゃないかな、と言われる系女の子だ。
いつかセニリアが、魔法以外はポンコツと言っていた。あの恐ろしい料理がいい例だ。が……やっぱり、この子は単に脳筋なのではないのだろうか?
「リミがいない種目で点を稼ぐしかねえなこりゃ」
幸い、一人が出れる種目には回数制限がある。リミが出ない種目で、点数を稼ぐしかないだろう。
ちなみに今の種目、赤チームは四位だった。
「ちくしょう! ふざけやがって!」
「待て待て! いきなり胸ぐらを掴むな! 情緒不安定かてめえ!」
「またあんた出てねえのかよ! ホント使えねえないつ出るんだよ! その無駄にガチガチの体ここで使わないでいつ使うんだよ!」
「なんだと!?」
やはり、要注意人物はリミである。達志の言うように、リミのいない種目で点数を稼いでいくしかない。
もちろん、リミ以外を侮っているわけではないが……さすがにリミみたいなのが他にもいるとは考えにくい。というか考えたくない。
「はぁ……まあ済んだことは仕方ないか。次は役に立てよ」
「なんかお前どんどん俺へのあたり厳しくなってるな!?」
済んだことは考えまいと一旦置いておく。考えるべきは、今後の対策だ。対策といっても、魔法の使えない達志にできることなんて限られているけど。
だからせめて頭で戦うしかないか。
「不安だ……」
「達志くん、結構情緒不安定だよねー」
まさか体育祭でここまで頭を悩ませることになるとは思っていなかったが、それはそれで面白い。うんうんと唸る。
そんな達志の立ち位置がチーム内で面白枠になりつつあるのを、達志は知らない。




