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開催、体育祭!



 思春期真っ盛りの少年少女や思春期を通りすぎた女性の複雑な恋愛事情が浮き彫りになったりならなかったりする今日この頃。


 誰かに相談したりされたり、事態が動きそうで動かなかったり。それらの問題がこの短期間で解決するはずもなく、日は過ぎていく。


 結果、数名はもやもやした気持ちを抱えたままこの日を迎えることになった。



『これより、体育祭を開催します!』



 マイクを通した、生徒代表の声が響き渡る。そう、今日は校内生徒のほとんどが待ちに待っていた体育祭である。時期的に仕方ないのだが、超暑い。



「いよいよ来ましたねぇ、この時が! 今日こそ、我が封印された力を解放するとき……!」


(楽しみなのは楽しみなんだけど、胸の中での気持ちがごちゃごちゃしてて整理しきれてねぇ……)



 あからさまにテンションの高いルーアとは対照的に、達志の心情は穏やかではない。


 先日、放課後の空き教室での由香との一件以来、彼女とはまともに話せていない。


 さよなに相談こそしたものの、だからといって事態がすぐに動き出すはずもなく。それが心の中でずっとつかえている。


 第三者に相談するほどに悩んでいたのだから、本人に直接話せるはずもないし。かといって由香と話をすれば嫌でもあの日のことを思い出してしまう。



「ま、体動かせば多少はましになるかな」



 だから今日は、いろんな意味で複雑な日である。楽しみであったり、もやもやが気になってちゃんと集中できるか不安であったり。


 とはいえ、とりあえず体を動かせば、このもやもやはどっかいくんじゃないかとも思うので、チームの勝利に貢献するためにも考えるのをやめようと思う。


 自分のためだけでなく、やるからには勝ちたいのは本当であるし。


 ただ……複雑な気持ちなのは、何も由香関係のことではない。むしろ不安な気持ちになっている原因は、今このときこの瞬間のせいだ。



「やー、楽しみだねぇみんな気張ってこー!」


「やるからには優勝だあははー!」



 妙にテンションの高い女性陣、小宮 蘭花とネプランテ・ゴン。見ていて微笑ましいし、華がある分こちらはむしろ癒し要素になるだろう。問題は……



「…………がんばる」


「ふぅ……可憐なつぼみ達があちこちに咲いている。素晴らしきかな体育祭!」


「さすがアニキ! 何よりも先に見物客の子供をチェックするとは!」



 こっちの、男性陣の方である。無口なシャオ・リングルはまあともかくとしても、独特的な口調の小金山 バキ。


 そして、大問題であるロリコン疑惑(ほぼ確定)の毒島 ロペ。問題といっても、今のところ人柄だけなのでチームに貢献してくれるかはまだわからないが……


 貢献してくれるとしても、その性格だけでマイナスであるのだ。もう通報してしまえ。


 わかっていたこととはいえ、問題のあるメンバーのいるチーム。それに加えて……



「いやぁ、今日は実にいい運動……いや体育祭日和だね! あっはっは!」



 テンションの高いメンバーの中でも異様にその存在感を醸し出しているこの男。筋肉のせいで体操服がぱっつんぱっつんになり、それでも本人は気にせず笑っている。


 オールバックにした金髪が、太陽の光によって輝いているようだ。


 といより、この男は……



(なんで筋肉ナルシストと同じチームに……)



 以前、リミに告白をしていた生徒である。告白といっても愛の告白ではなく、自身が主将を務める柔道部への勧誘であるが。その現場を、達志は見ている。


 柔道部主将というからには、運動神経もいいのだろう。ならばチームとしてはありがたいことではあるが……



「お友達どころかお近づきにすらなりたくない人種だと思ってたんだけどなあ……」


「ん?どうしたんだいキミ、顔色が悪いぞ? 体調管理はしっかりしないとダメじゃないかあっはっは!」


「あははー……」



 どうも、達志の苦手なタイプだ。だが当の本人はそれに気付くこともなく、のんきに達志の背中をばんばん叩いている。すごく、痛い。


 加えて肩を組んでくるものだから暑苦しくて仕方ない。



「同じチームになった者同士、友好を深めようじゃないか。共に優勝を目指して頑張ろう!!」


「あっつい……いろんな意味であっつい」


「そ、そんなに男同士くっついて…………せ、先輩はやっぱり受け……! えへ、ぅえへへ……」


「自分のチームに帰れ腐れエルフ!」



 暑苦しいほどにくっついてくる筋肉ナルシスト……名を、ノーベルト・ヴェンマという。


 彼と巻き込まれる達志を見て何かを嗅ぎ取ったのかエル腐であるシェルリア・テンがどこからともなく寄ってくる。


 ちなみに彼女は青チーム……マルクスと同じチームだ。



「まだ始まってもないのにどっと疲れたんですけど……」



 競技が始まる前にダウンしてしまわないだろうか。そんな心配に陥ってしまう。


 なんとも濃すぎるチームメンバー。中にはまともなのもいるだろうが……ロリコン野郎と筋肉ナルシストのせいでキャパオーバーである。


 ……であるというのに、だ。もっと大きな問題がある。



「はあ……」


「おいおい、なにため息なんて吐いてんだ? 幸せが逃げるぞ?」


「……今この瞬間に、幸せなんてものは全速力で逃げましたよ」



 筋肉の抱擁から解放され、ほっと一息……かと思いきや、今回の心労の原因第一位がやってくる。


 顔を上げると、そこにいたのは大きなトサカ……ではなくちゃんとした人間だ。身長と同じくらいある、赤と黄色が混ざったトサカ(本人曰くモヒカン)がとても印象的である。


 むしろそれにしか目がいかない。


 おいここは高校だぞ? お前は先生なのか? ……と言いたくなるほどにおっさん面した男、蛾戸坂 鶏冠がそこにはいた。通称トサカゴリラ(達志命名)。


 以前、この学校に対してテロ行為を起こした暴走族、『ジャイキーラーン』のリーダーだ。『ジャイキーラーン』の意味は知らないし興味もない。


 テロとはいっても、結果は散々で……果てに、学校側に拘束されたはずだ。なのになぜ、ここにいるのか。



「あっはっは、こらこらトサカ、あんまりいじめてやるなよ。ただでさえお前の面は犯罪的なんだから」


「いや、いじめては……って誰が犯罪的な面だこら!」


「そうですよ先輩。その面をしまってもらえないと、小さなつぼみ達が泣いてしまう」


「うるせえよ! 誰だお前!」



 答えは、彼がこの学園の生徒だから。しかも達志の先輩で、ノーベルトと同じクラスだという。そして物怖じしないロペ……気を失いそうな光景だ。



「顔合わせで見つけた時には頭がどうにかなりそうだった……」


「まあテロって言っても、学校側としちゃあの程度なんの問題もないってことだよねー」



 何それ怖い。あれくらいの騒ぎは大騒ぎするほどでもないってことだ。


 問題は問題だと思うが、それでも生徒である以上こういった行事には出すということなのだろうか。本番前の、チームの顔合わせでトサカゴリラを発見した時は思わず自分の頬をビンタしたほどだ。



「けど……アレに敬語なんて使いたくないんだけど。小宮さん、アレタメ口じゃダメかな」


「や、一応先輩なんだからその言い方は。あ、蘭花でいいよ勇界くん」


「あ、じゃあ俺も達志で……」


「お前ら失礼すぎだろ、アレだのタメだの! 俺先輩だぞもっと敬え!」



 数少ない癒し要素、蘭花と友好を深めていたのに、無粋な声が割り込む。敬ってほしいなら、そもそもあんな騒ぎを起こさなくてほしかったのだが。



「いや敬ってほしいなら行動で示してみろよトサカゴリラ先輩」


「んだと!? そもそもお前、初対面の時に俺のこと散々笑いやがって気にいら、ね……」



 久しぶりに、思っていたことが口に出てしまった。それも、敬語とタメ口2:8くらいの割合で。それを聞きつけたトサカゴリラがやってくるものだから、さあ面倒なことになるぞ。


 怒鳴り散らされ、とりあえずはおとなしく身構えていたのだが……徐々に語尾が弱くなり、しまいには口をつぐんでしまう。暑いのだろうか、汗までかいている。そんな面で怒るからだ。



「?」



 達志は訳が分からないが……それはそうだ。達志には見えないのだから。


 トサカゴリラの正面……つまり達志の背後で、リミがものすごい笑顔をトサカゴリラに向けていたのだ。それを受け、トサカゴリラの脳裏にはリミに手ひどくやられた記憶がよみがえる。


 それは笑顔であり……間違いなく笑顔で、こう語っていた。



『それ以上タツシ様に無礼を働いたら、ぶっころですよ? せ、ん、ぱ、い』


「……」



 表情からすべてを読み取ったトサカゴリラは、そのまま何も言わずに背を向け去っていった。

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