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第5話 入口

「このダンジョン、入口ができようとしてるかも、しれません」


俺は反射的に周りを見渡す。


今のダンジョンは、コア部屋と三メートルの通路だけ。

広さで言えば、玄関付きのワンルーム。

こんなものダンジョンというより、ただの部屋だ。


そこに外へ通じるドアが勝手にできようとしている。


「いやいやいや。これでそれはまずいだろ」


短い通路の先にひび割れのように滲んでいた光は、数秒のうちに一本の筋になり、その筋はやがて岩肌を押し広げるように淡く膨張していった。


ぱきり、と乾いた音。


ついで、押し返されるように空気が流れ込む。

気圧差ってやつだろうか。


次の瞬間。

岩壁が消え、通路の先にぽっかりと外の世界が開いた。


吹き込んでくる空気は冷たく、土だけではない、色々な匂いが飛び込んでくる。

ダンジョンとはまるで違う、生きた空気だ。


ぽんこが胸に手を当てて、ほっと息をついた。


「よかった」


心底安心した声で言う。


「外から破壊されたわけではありません」

「破壊されてたら困るんだが」


ぽんこは続ける。


「ダンジョンは一定の成長段階に入ると、自動的に入口を生成します。本来はもっと大きくなってからなんですが。今回、かなり早いです」

「早いのか?」

「はい。ぽんこ基準で異常です」

「その基準がどれくらい信用できるのかはさておき」

「ぽんこ基準は絶対です!」


ぽんこは自信満々だが、こういうのは自信満々な奴が一番危ないのだ。

俺は一歩、入口に近づく。


「それにしても」


視界が、一気に開けた。


目の前には空があった。

いや、空に見える何かだった。


遠く、はるか上方に大地が弧を描いている。

そう、前方ではなく、上方。


山が逆さまにそびえ、森が垂れ下がり、海が光を反射していた。

空間全体が巨大な輪の内側に存在している。

太陽に似た光源が、天井に真っ直ぐ線のように存在している。


「なんだこれ。地面が丸まってるのか」

「リング型、いやわかりやすく言うならドーナツ型、の内部ですね。この世界は巨大な環状構造で構成されています」

「人工物か?」


「はい、この世界は宇宙コロニー、通称『リング』の中です」


「……は?」


ぽんこが急に得意げに胸を張った。


「宇宙コロニーとはですね――巨大な人工居住環境でして!」

「ちょっと待て。説明始める前に心の整理させろ」


ぽんこはぴたりと止まる。


「宇宙、なのか?」

「はい、宇宙です!」

「そっか。宇宙かぁ。そっかぁ。」


ああ、言われてみれば確かにインストールされた知識にあるわ。

宇宙だ、ここ。


「マスター、理解が追いついていませんね?」

「いや追いつきたくないっていうか」


ぽんこはダンジョンの外側を指差す。


「地表には人間の暮らす区域、森、海、山、平原などが存在します。マスターのダンジョンは、その一部分の地下に位置しています」

「じゃあ、普通の人間がすぐそこにいるってことか」

「距離によりますが、存在します」


「距離は」

「非公開です」

「そこは教えろよ」

「ぽんこにも分かりません」

「ポンコツか」

「旧式です。便利な言葉です」


前方を見上げると、垂直な大地がゆっくりと弧を描いて続いている。

まるで巨大な建造物の内部に閉じ込められたような、そんな眺めだった。


「しかしまあ、とんでもない世界だな」

「はい。とんでもない世界です。ぽんこもたまに混乱します」

「混乱するのか」

「します。旧式なので」

「そこは揺るがないな」


リングの光が入口から差し込み、通路の岩肌を照らす。


急に世界が広がったように感じた。


「外がこんななら、侵入者も色々いそうだな」

「います。動物、村人、探索者、その他色々です」

「その他が気になるが、それよりもだ」

「はい。今はダンジョンを整えるのが急務です」


俺は深呼吸し、外の光をもう一度見た。


「この世界で生きていくのか。広すぎるだろ」

「広いですが、マスターとぽんこで一歩ずつ進めば大丈夫です」

「根拠あるのか」

「ありません。気持ちです」

「そこは気持ちかよ」

「気持ちです。ぽんこ、大事だと思ってます」


曖昧だが、悪くない言葉だった。


「よし。戻るか。とにかく急がなきゃならん」

「はい。ぽんこも全力でお手伝いします」


外から差し込む光を背に、俺たちはダンジョンへ戻った。


外から流れ込む風には、何かの気配が混じっている気がした。

人か、動物か、ただの風か。

そこまでは分からない。

ただ、ここが外とつながったことだけは分かる。


ダンジョンは、もう密室ではなくなった。


「あ……遠くに生命反応。多数。」

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