表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/31

第26話 三ヶ月後

それから三ヶ月が経った。


あの日の反省から、ダンジョンの構造は大きく変えた。


まず二階層を新設した。

一階層と同じ洞窟型で、ゴブリンが二体ずつ出る配置にした。

一階層は単独、二階層は二体。

探索者にとっては順当に危険度が上がったように見える。


階段を見つけたリオン達がギルドに報告した結果、二階層の存在は公式に認識されたが、二階層まで来る連中は多くはない。


森は三階層に移した。

『階層を挿入』機能で二階層は三階層へスライド、二階層を追加できた。

エクセルみたいなダンジョンだ。


森は、もう最初の頃の植物混じりの通路ではない。


歩いてみると東京ドーム一個分くらいの感覚がある。

それ以上に、密度がすさまじい。

木々の影が薄暗く重なり、根は地面の上で複雑に絡み合い、足を踏み出すたびに湿った土が柔らかく沈む。


「……もう完全に森だな。今さらだが」

「すごいですねぇ、シルヴァさん」


「これ、普通のモンスターだったら何DPくらいの種族の能力だと思う?」

「んー……五十万くらいですかね?まぁ初期DPでは買えないと思いますよ」


「はー、五十万。五十万あったらどんなモンスターが生成できるんだ」

「上位幹部の最下位種か、下位幹部の上位種あたりですね!」

「上なのか下なのかよくわからんな」

「上位幹部の最下位種はレッサーデーモン(虚弱)。下位幹部の上位種はストロングベビースライムとかですかね」

「強いのか弱いのかもわからなくなったぞ」


シルヴァさんは、俺たちのそんな会話をクスクス笑いながら聞いていた。


「でも、ここからは育つ速度が少しずつ落ちていきますわ。植物たちが無理をしなくて済むようになる頃です」


シルヴァさんは、細い枝にそっと触れながら言った。

湿った風が通り抜け、葉がかすかに揺れる。


「ちゅう!」

「おお、チュウタ」


そこへチュウタがやってきた。


「……しかし、盲点だったな」

「そうですね……まさか、チュウタが喋れないことをマスターが失念しているとは」


そう、チュウタに諜報させることにしたのはいいが、諜報結果を伝える方法がないことに後から気付いたのだ。


「まぁいい、念話スキルを取るまでの辛抱だ」


一時はチュウタ諜報網の破綻かと思われた欠点だったが、解決策を見いだした。

それが念話スキル。


「『念話』があれば、知能のあるモンスターとは会話ができます!世界をつなげるスキルです!」

「DP40,000、今や現実的な数値だな」


あれから三カ月、未だ届かないがそれでも貯められる未来は見えてきた。


「ちゅう!」

「そうだな、チュウタはそれまで分裂個体の数を増やすのと、諜報網の整備を続けてくれ」


森の通路には、ゴブリンが絶え間なく行き交っている。


「現在、ゴブリンはおよそ三千体です。毎日十組ほどの探索者さんが来て、百体以上を狩っていきます」


「毎日百体以上……そりゃ増えてもすぐ減るわけだ」


生成ゴブリンは二十体以降は増やしていない。

ほとんど繁殖ゴブリンで回している形だ、それでも倒された分は翌日には補充される。


「ちなみに探索者側の死亡者は月1.5名程度、平均の半分、1/600のペースをキープしています」

「ゴブリン三千体殺されて、探索者は一人か二人死亡。探索者ってのはいい商売だな」


言いながらゴブリンを眺める。

三千体規模ともなると、完全に社会だ。

材料を運ぶ者、土を掘る者、植物を採る者、食事の準備をする者までいる。


「しかし……なんというか」


通路を歩いていた数十体のゴブリンを見つめながら呟く。


「やられるのがわかってて増やして、探索者に突っ込ませるのは、ちょっとやるせないな。よくみんな従ってくれるよ」


ぽんこが一瞬だけ瞬きをし、不思議そうな顔で言った。


「マスター。名付けていないモンスターに、自我はありませんよ」

「……え?」

「知りませんでしたか?名前を持たないモンスターは、個体としての意識を持ちません。行動はすべて種族単位の共有本能です。生成モンスターも、繁殖モンスターも変わりません」

「ちょっと待て。それって……」


「倒されても、ダンジョンに還るだけです。また別の個体として生まれます」


言葉を失っていると、隣でシルヴァさんが微笑んだ。


「そういう仕組みなのですわ。森の子たちは、森に還り、また生まれる。それが自然の巡りというものです」


「じゃあ……名前をつけた奴らは?」

「名を持った瞬間、その子はもうただの個体ではなくなりますの。ダンジョンへ還る道は閉じてしまいます」


ぽんこが補足する。


「命名モンスターは存在が固定されます。自我が生まれ、種族としてのリスポーンもしなくなりますので、再生成枠からも外れます」

「つまりシルヴァさんが死んでも、ドライアドはリスポーンしない」

「はい。ですから名付けはモンスターにとって、特別な儀式なのです!扱いには注意してくださいね。使い捨てるのは絶対にだめです」

「いや、捨てねえよ」

「当然です!」


自分たちの話題が出たせいか、ちょうどアニが胸を張って通路を歩いてきた。

オトは影から音もなく出てきて、イモは葉っぱを両手に抱えて追いかけてくる。


三ヶ月でこいつらも大きく育った。

アニは前衛部隊の中心らしく背も胸板も厚くなり、声を一つ上げれば周囲のゴブリンが姿勢を正す。

オトはほとんど見失いそうなほど気配を消すようになり、いつの間にか隣にいて、いつの間にか消えている。

イモは植物の成分を嗅ぎ分けるような仕草をするようになり、シルヴァさんの横で根っこを並べている姿をよく見かけた。


三人とも、もう立派な班長だ。


ダンジョンは軌道に乗ってきた。

一階は初心者向けの洞窟、二階はゴブリンが二体ずつ出る稼ぎやすい洞窟、三階は森。

このままいけば、そこらの探索者には負けないようになるだろう。


あとは勇者に目をつけられないこと。

それだけは死守しなきゃならない。


などと考えていたのが悪かった。


まるでそれがフラグだったかのように、それは突然やってきた。


「マスター!ダンジョン入口に生体反応!異常な速度で進行しています!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ