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第6話

第一章完結!

「伯爵。私、王太子アイザック・クロティルドとカリスタ・ジェフリーズ伯爵令嬢の婚約を認めていただけませんか?」


へ……? なんて?

婚約…こんやく……こんにゃく………

お父様、出汁を持ってきた方が良いかしら?

─────じゃなくって!


え? 急に?

歴代最悪の魔女のカリスタ・ジェフリーズと?

歴代ナンバーワンの頭脳を持つとか言われてるアイザック・クロティルド王太子殿下が?


ないないないない! 絶対に社交会が大荒れになる!

絶対また『魅了魔法かけたでしょ』とか言われるー!


っていうか魔力ない令嬢との婚約なんて、国王陛下が許すわけないでしょう!

もしも王位継承者が魔力無しだったらどうすんのよ!

怒られるのは私ですが…?


「王太子殿下。それは認められませんな。現在は我が家の財政も地位も安定している故、娘には幸せな結婚をしてほしいのですよ」

「私との結婚は、彼女にとって不幸であると?」

「そうは言いませんが、娘は色々と噂されている身ですから」


おおおお父様!!!!

王太子殿下になんという口の聞き方を!


「その通りです殿下。貴方と婚約を結べば、妹は社交界からの好奇の目に晒されることとなる。それに、私がカリスタに会えなくなってしまうではないですか」

「ヴァ、ヴァージルお兄様。せめて最後のは、心の声で留めておいて欲しかったですわ……」

「本心なのだから問題ないだろう? そもそも、本当に殿下を救ったのは私の妹なのですか?」

「そうだなあ…… カリスタ嬢、このイヤリングに見覚えはあるかな?」


殿下は胸元から大きな飾りのついたペンダントを取り出した。

どうやらそれはロケットペンダントだったようで、その中には小さな四芒星のイヤリングが片方だけ入っていた。


「……それはっ!」

「ジェフリーズの四芒星をなぜ殿下が…!」


驚くお母様とお父様。

ジェフリーズの四芒星──────それはジェフリーズ伯爵家に伝わる、直系の長女が受け継いできたイヤリングだ。

ジェフリーズ伯爵家の長女のためのものということで、結婚するなどして家を出るときには宝物庫に返す子供時代限定の、宝石も何も付いていない金色のイヤリングだ。


しかしその正体は、強力な魔道具である。

他家よりも比較的魔力の多い子供が生まれやすいジェフリーズ伯爵家では、レアリティ最高クラスの魔力吸引のイヤリングに、長女が常に魔力を込め続けるのだ。


長い時間をかけて吸引された膨大な魔力は、次代の長女に引き継がれ、いざとなった時のための予備魔力として使われる。

過去に何回かその溜め込まれた魔力を引き出されたことがあるそうだが、どのタイミングでも必ず主人を守り続けてきた、由緒あるイヤリングなのであった。


長女ということでそれをもらったは良いものの、私には魔力がなかったためただのアクセサリーとなっており、ここ数百年は引き出されていないということで、両耳分の魔力はとんでもない量になっている。


だから家宝だけど、片方くらいあげちゃっても大丈夫かなぁ────と、思ってあげてしまった。

その結果、めちゃくちゃに怒られた。


どこかに落としたのかと聞かれたから、人にあげてしまったと答えると、国中に捜索隊が配置された。

貴族も平民も巻き込む大捜索の末、結局見つからず、ものすごーく怒られたのだが……

─────まさか王族が持っているなんて、思わないじゃない!


「カリスタ? ジェフリーズの四芒星をアイザック殿下に差し上げたというのは本当か!?」

「そ、そういえば7年前にイヤリングを渡した方と髪と目の色が同じ……ですね………」

「まさか本当に、姉上と殿下に接点があったなんて…!」

「確かに、イヤリングがなくなっていることに兄上が気づいたのは、殿下が行方不明になったと騒ぎになったすぐ後だった気が……」

「通りで父上があんなに権力を使いまくったのに見つからないわけだ」

「すみません……」


私はこの件について、もう何度目かわからない謝罪をする。

……が、心の中では『7年ぶりでも見つかってよかったー! ジェフリーズ伯爵家の歴史に、戦犯として名を残すところだったわ』と大はしゃぎである。

まあ実際、私には魔力がないから常につける必要はないし、あのイヤリングの力よりずっと強いヴァージルお兄様が常に近くにいるし。


私にとっては全く支障がなかったんだけどね。あくまで、()には。


「これで、私がカリスタ嬢と会ったことがあることは証明できましたよね」

「そうですね……」

「カリスタ嬢にかかる火の粉は、王家の力を使えば跡形もなくなくなりますから、許していただけませんか? ジェフリーズ伯爵、伯爵令息?」

「……カ、カリスタが受け入れるのなら、我々もこれ以上口出しは致しません」


お、おとうさまぁーー!

丸投げですか? 私に幸せになってほしいと言ったではないですか!


「父上! 私はカリスタと殿下の婚約など、認められません! 王家の力を無理に使っていただいては、さらにカリスタの印象が悪くなる可能性も……」

「ヴァージル。お前はカリスタにとって1人の兄、それだけだ。それにまだ、家督も継いでいないだろう」

「しかし、それでは私がカリスタと会えなくなってしまいます!」


どこまでも私を大切にしてくれるヴァージルお兄様をありがたく思いつつ、少し引きつつ。

それでもやっぱり嬉しく。

でもお兄様、全く心配する必要はないですわよ。なぜなら殿下と婚約するつもりなど、微塵もないからです。


「ヴァージル兄上って、あそこまで姉様に執着してたっけ」

「兄上も初めからカリスタに執着していたわけではないのだが、年々重症になっている気がするな」

「このままだと兄上、家督を継いだ瞬間に姉様と結婚すると言いそうだよね」

「妹を他家に養子に出して結婚するか……兄上ならありそうだな」

「兄上のためにも、そろそろ姉様と離れる心構えをしておいてもらった方がいいんじゃ……」

「兄上に結婚していただかないと、いつまで経っても弟の私達に結婚の順番が回ってこないしな」

「婚約者のいない僕はともかく、ヴィクター兄上の婚約者さんを待たせるのは申し訳ないもんね」


何かコソコソと話していると思えば、私をヴァージルお兄様の成長の踏み台にする気ですか?

え、私婚約するつもりなんて全くなかったのですけれど

ヴィクターお兄様もヴィンセントも、私が婚約を受ける前提で話してません?


王城で爆発事故とか起こしちゃったら、修理費が大変なことになりますし、自由に実験ができなくなることは私にとっての死活問題。

婚約者とか堅苦しい立場もちょっと遠慮したいですね……


「ジェフリーズ伯爵令息は、カリスタ嬢の近くにいられるのなら認めてくれるのかな?」

「条件によります。それと、ヴァージルで結構です」

「そうか。ならヴァージル、王城で魔法使いとして働けばいい。カリスタ嬢が王太子妃となれば、専属魔法師団が組める。そこの団長を目指せば良いだろう」

「確かにそれなら毎日カリスタに会うこともできます。しかし、今まで通り気軽に話すことはできませんよね」

「そのくらいは王太子の権力でなんとかするさ。あとは、カリスタ嬢が幸せになれる保証があれば良いのだろう」

「その通りです。しかし、まずはカリスタの気持ちを聞くのが先ではないでしょうか?」


えっ……

みなさん一斉に私を見なくても……

期待のこもった目、婚約を受け入れないことを願う目、この状況を楽しんでいる目……


でも、ごめんなさい。私は王太子様の婚約者の地位に相応しい人物とはいえませんから。

だって、歴代最悪の魔女ですもの

……魔力はないけど


「申し訳ありません、王太子殿下。声をかけてくださったことは嬉しいです。でも、私が王太子妃の地位に相応しいとは思えません」

「そんなことは……!」

「殿下は私が魔女ではないと理解してくださいました。でも、積み重なった悪評はそう簡単には消えないのです」

「その時は、王太子としての権力を使える限り……」

「そうなればクロティルドの国民の皆さんは、私が魅了魔法をかけたと思うはず。それに、貴族なのに魔力がないのは、本来恥ずべきこと。皆さんの前で証明することはできませんわ」

「………」


嬉しかったのは本当。でも、私では王太子殿下とは釣り合わない。

それに今、私が一番大切なのはポーションを作ることだ。

このまま塔に引きこもり、ポーションを作って生きていく─────それだけで私の人生は十分だろう。


「娘もこう言っているが故、娘を王太子妃にすることはできません」

「そうだな。しかし伯爵、カリスタ嬢が幸せな結婚をできれば良いのでしょう?」

「それは、そうですが………」

「なら、私がカリスタ嬢に選んでもらえるように努力すれば良い話だ」


………!?

え、もしかして殿下、諦めてない?

もう悪評まみれの令嬢なんか忘れていただいた方が良いと思ったのに……

それに、殿下の感情はおそらく罪悪感や感謝の意からなるもの。


「カリスタ嬢。今日のところはもう帰ろう」

「は、はい! お気をつけて…」

「またすぐに来るよ。カリスタ嬢に、婚約者になると言ってもらえるまで」

「…な!」


殿下はふっと笑うと、私の家族に軽く礼をしてから転移魔法陣を発動した。

最初の冷たい雰囲気が嘘のように、穏やかな表情だった。


まさか、本当にこれからも塔に来るのかしら?

でも、忙しいはずよね? 王太子様だもの!

チラリと家族を見ると、顔を真っ青にして、呆然と魔法陣の消えた後を眺めていた。

特に青ざめているのは、殿下直属の上級文官として働いているヴィクターお兄様だと思うけれど、ヴァージルお兄様もお父様も相当なものだ。

お母様とヴィンセントは楽しんでいるのかしら。

どちらかというと、興奮で顔が赤くなっている気がします……


──────部屋、掃除しておかないとですかね


猛吹雪のようにきた殿下は、問題事と一緒に暖かい空気を纏って帰っていった。

これからもこんな日が来るのかしら─────と考えると、少しワクワクする!


「ヴァージルお兄様。楽しみが増えましたわね」

「楽しみ?……カリスタが何も気にしないのならいいか」


呆れた様子で私を見るヴァージルお兄様に、私はにこりと笑いかけた。

いやあ、1話につき大体4000字なのですが、それでも6話で第一章が終わるのは早かった気がします……

でも、これ以上は伸ばせなかったです……私の実力では。


第二章はもう少し長くなります!(予定)


第二章も始まりますから、この際にブックマークもしていただけたら嬉しいです!

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